NTTの完全民営化が必要だ - 池田信夫

池田 信夫

原口総務相の「NTT完全民営化」発言が話題を呼んでいる。「光の道構想への協力」というのが何を意味するのかよくわからないが、「政府がNTTの人事や事業計画の承認権限を持ち続けるのは決して良い形ではない」というのは正論である。アメリカはもともとすべて民間企業で、不都合はない。NTTと同じような条件であるBT(英国通信会社)は、1997年に政府が「黄金株」も売却して完全な民間企業になった。独仏はまだ政府が株式をもっているが、次第に持株を減らしている。


民営化が必要なのは、通信産業のイノベーションが加速し、半国営企業のままでは対応できないからだ。必要な帯域が爆発的に増えていることは明らかだが、それを満たす(費用対効果で)最適の技術が光ファイバーなのかDSLなのか無線なのか、誰にもわからない。この点で原口氏のいう「光の道」も、FTTHの普及促進という意味なら間違っている。特定の物理的インフラを「これが正しい技術だ」と決めるのは間違いのもとだ。

たとえば3年ぐらい前、NTTはNGNという次世代通信の規格を発表した。銅線が光ファイバーになり、電話交換機がIPになるのは必然だから、IPベースのFTTHを全国に敷設するのは絶対に間違いない方針のはずだった。それに対して私は「NGNは失敗する」と警告してNTT幹部の不興を買ったが、結果的にはNGNは雲散霧消してしまった。

これはNTTがバカなのではない。現代の情報通信技術は、ほとんどが失敗するのだ。問題は完璧を期すことではなく、失敗に耐えられるfail safeのしくみにすることである。イノベーションの不確実性が大きいときは、民間企業が自分のリスクで投資し、失敗したら責任をとるしかない。政府は「この政策は間違っているかもしれない」ということはできないし、間違っても責任はとらない。重要なのは技術ではなく、企業のガバナンスである。

もちろん無条件にNTTを自由にするわけにはいかないので、競争条件を確保する必要がある。そのためには、無線の帯域を最大限に開放することが重要だ。たとえばUHF帯のホワイトスペースを公衆無線LANに開放すれば、有線と無線のプラットフォーム競争も可能になる。また電話網の廃止によってIPベースの競争を促進するために、交換機を「清算会社」に分離することも一案だろう。

いずれにせよ、今度NTTの経営形態を変更するなら、政府が持株をすべて売却してNTTを普通の会社にすることが不可欠の条件だ。その目的は競争促進であって、特定のインフラを振興することではない。光ファイバーを引くかどうかは、政府ではなくユーザーが決めることだ。不毛なNTT問題に終止符を打ち、どの技術がすぐれているかは市場で決めることがもっとも重要である。