新卒一括採用 テクニカル面で企業にメリット、社会全体では損失 - 石川貴善

2010年08月09日 10:50

官公庁や企業の新卒一括採用は、世代間格差の観点と90年代の就職氷河期や昨今の就職難のように、「機会の均等」から、景気によってその後のキャリア形成が大きく左右されるために論議になっていますが、今回は経営組織論の観点から触れてみます。


新卒一括採用のメリット

・内部の活性化→いけすの魚と同じで、常に若い社員が居たほうが現場が活性化され、社員に刺激になる費用対効果の高い方法である。

・組織の求心力向上→独自の社風や企業風土の担い手として効果的。

・コア労働力の安定供給→長期的で現場の中核となる労働力を、安定して集めることが可能に。

・チームワークかつ長時間労働のワークスタイルに合致→人事・管理職・リクルータなどのフィルタリングにより、必然的に社員と似たタイプの社員を採るため、多くの日本企業のワークスタイルである、チームでかつ夜中まで顔を突き合わせても、摩擦が少ない。

・野球のフォームと同じでクセがなく、飲み込みや成長が早く効率的→既に他社のやり方を身につけているとクセが出る上に飲み込みが遅く、伸びしろが限られるため、新卒一括が効率的。

・ポスト/金額など交渉が不要→中途採用ではポスト・金額などの交渉の必要が生じ、採用コスト高に加えて組織内部でのきしみが生じやすいため、同じ条件だとトラブルの生じようがない。

新卒一括採用のデメリット

・経営を担う場合自社しか知らないため、大局観が欠如し視野が狭くなる
→新卒採用者が組織内の枢要ポストを占めた場合、社内と業界の一部しか知らないため、国際動向や市場全体の動きを見渡し、自社の戦略に適切にブレイクダウンする大局観を持った人材を選抜・育成しにくい環境になりやすい。

・似たタイプの社員が増え、技術革新や市場環境の変化への対応に弱くなる
→同じような思考・行動パターンが増えるため、成長のスピードが速くなるものの、同様に衰退も促進されやすい。

・景気動向で人員構成がいびつになり、固定化しやすい
→多くの大企業では40代以降20代半ばの社員が多いものの、就職氷河期の影響で30代が少なく、即戦力として中途採用してもピンポイントになり、歪んだ人員構成はポスト・給与などに大きく影響してしまう。

・野球の”巨人問題”と同じく、飼い殺しになりやすい
→経営体力のある企業ほど、「他社に転職されるなら、自社で囲う」戦略を採る場合が多く、企業内失業と人材の固定化によって、長期的に他社や他分野で活躍できる人材を抱え込むことで、社会全体の損失になりやすい。

・合併/経営統合など、高度な経営判断の抵抗勢力に
→新卒一括採用は会社へ求心力が高まるため、逆に業界再編や国際競争の観点で合併や経営統合など「器が代わってしまう」場合に、業務の流れ・組織などが変わることで抵抗が大きくなりがちに。特に被合併側は人員整理やポストの俎上になるため、社長解任や面従腹背など「お家騒動」になりやすい。

それぞれ長所・欠点がありますが、総じて組織の成長・安定期に適した仕組みであり、かつ事業部が擬似会社となって、平時には事業部長より上位の役員は神輿や調整能力のみで十分、という場合に適したシステムである、と言わざるを得ないでしょう。逆に組織全体が成熟・衰退期に入ると、前例を踏襲した戦略と人事によって組織の論理に弱くなり、時代の流れに翻弄される傾向は今まで多くの業種で見られてきました。

かつて繁栄を極め、その後衰退した石炭・造船・海運・繊維・鉄鋼などの産業は、当時として最も優秀な人材を集めましたが、その後産業構造の変化などによって会社が危機を迎えました。
極めて少数ですが難局を救ったリーダーは、跳ね返りが強く人事の採用ミスのような傍流部門出身の問題意識型のタイプが多く、逆に人事が巧みにフィルタリングしたほとんどの場合、経営企画・主流部門出身など組織中枢の人材が、従来の延長線で変化に対応できない場合が多く、今日の長期低迷の一因を作っています。

総じて新卒一括採用は、単独企業として成長・安定期にメリットがありますが、社会全体として、不況による就職難のほか、必然的に人材の流動性が低くなりますので、本来の構造改革の意味でもあります、生産性の低い産業から高い産業に経営資源をシフトする意味においては、生産性の低い組織に固定化されやすいため、時代に逆行する面は否めないでしょう。
(石川 貴善 有限会社ITソリューション 取締役 http://www.it-planning.jp)

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