行政官留学制度は全廃すべし ―小さな無駄も忘れずに - 北村隆司

2010年08月12日 12:24

「事業仕訳」は、この秋から無駄の横綱「特別会計」に切り込む事が決まり、官僚による大規模な国費の無駄が明らかになれば、国民の怒りは更に沸騰するかもしれません。

然し、事業仕訳をするまでもない無駄な制度は沢山見られます。「官費留学制度」などもその典型でしょう。


「節倹の聖旨」(今で言う行政改革)を出発点として近代化が始まったわが国は、明治維新から100年も経ずに、日本を遅れたアジア諸国の中では、進んだ工業国に変貌させる成果を上げました。然し「国家はかくあるべし」と言う「グランドデザイン」を省いて、「追いつけ追い越せ」と言う手段を優先した近代化は、日本の進路を誤らせた大きな原因でもありました。

伊藤博文が日本最初の首相に就任した折りに定めた「官紀五章」にも「繁文を省き、冗費を節すること」を筆頭に掲げ「艦船の新造」のために官吏の給与の一部返上と行政整理を約束した和衷協同の詔が出された位でした。

維新と共に生まれた目的を後回しにした「節約の為の改革」の伝統は、今日まで綿々と続いています。この滑稽な習慣を確立した張本人が「日本を近代化した」明治時代の「官費留学生」と言う我々の先達であった事も皮肉です。

深刻な財政危機に見舞われているわが国は、少なくとも不要不急の物は全廃する必要があります。その一つが、「行政官長期在外研究員制度」と言う官僚の官費留学制度です。1966年に始まったこの制度は、これまでに2,500人以上の官僚を米国を中心とする諸外国に留学させ、今後も年間130-150人を派遣する事になっています。

自然科学を中心とする研究者の公費留学は寧ろ強化すべきだと思いますが、年功序列により数年毎に担当が変るキャリアー行政官は、大学院で学ぶ専門領域すらなく、海外留学で取得する学位の大半が経営学や公共政策の修士であるのが現状です。

「一緒に机を並べて勉強した仲間が、国際交渉の相手方の一員にいたこともあった。留学で得た人脈は、仕事する上で非常に役に立っている」と、その意義を強調する向きもありますが、それであれば、自分の意思と費用で海外に留学し、広い人脈を持った人間を幹部として採用すれば解決する話しで、巨額の公費を費やす理屈にはなりますまい。

核密約問題で脚光を浴びた若泉敬教授は、保安庁保安研修所教官時代にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院、米国ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究所(SAIS)に留学、客員研究員として滞在中、マイク・マンスフィールド、ディーン・アチソン、ウォルター・リップマン、ウォルト・ロストウらと面識を持ち、この人脈が沖縄返還交渉に大いに役立ったと述懐されたそうですが、同氏の留学は、「行政官長期在外研究員制度」とは無関係な研究者留学です。

バブルが崩壊後は、せっかく国費で留学させても、すぐに、高収入の外資系などの民間企業に、転職する若手官僚が続出しました。この事実を見ても、国家への貢献に萌えた維新時代の留学生と異なり、官費で箔をつけるキャリアーが多いのでは?と疑問を持たざるを得ません。

この留学の目的は、あくまでも、帰国後、国家のために仕事に生かすことにある筈で、だからこそ、渡航費用や授業料のほか、留学期間中も給与が支給され、費用には1人につき平均で約1,500万円もの税金を使っているのが現状です。本人が海外留学中に本来の仕事をカバーしている官僚の費用を考えると、官僚の箔着けに浪費されている費用が馬鹿にならない事は間違いありません。

それだけではありません。在外公館に各省から派遣されている多くの官僚の職務が「調査」と言う「勉強」が中心である現状を考えると、この「官費留学制度」は官僚の余得だとしか思えません。

年功序列の見直しが迫られ、数年毎に担当が替わる日本の官僚制度が問題にされている昨今、官費を使って未熟な官僚を育てるより、実績と実力に裏付けられた専門知識を持った人材を、必要に応じて採用する時代です。その意味でも、「行政官長期在外研究員制度」は無用の長物に属する制度だと思います。

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