著者より献本御礼。
書評の代わりに、
@dankogai 弾さん、日本のプログラマはいまだに土方仕事です。日本のプログラマのレベルを上げるための処方箋はありますか?
への返答をここに書くことにする。
本書「即刻〈リセット〉したい5つのこと-リーダーになってもデキる人33のルール」は、まだ「リーダー」になりきれていない著者による「リーダー」論、あるいは自戒。
目次
- プロローグ 優秀なプレイヤーだったあなたへ
- Chapter1 成功体験がアダとなる!? 【すべてはこの「リセット」から始まります】
- Chapter2 メンバーの強みに着目するのが出発点 【「メンバーの見方」をリセット】
- Chapter3 指示待ちメンバーがゾロゾロ出たら? 【「判断しすぎ」をリセット】
- Chapter4 仕事を渡せない、だからメンバーが動けない 【「任せ方」をリセット】
- Chapter5 フタをあけてびっくりをなくす 【「トラブル予測」のリセット】
- Chapter6 仲間が増えると、仕事はもっと面白くなる 【会社の「タテヨコ人脈考」】
- Chapter7 リーダー生活が、より充実する! 【勉強法&読書術】
- あとがき
著者が「リーダー」になりきれていないのは、書名にはっきりと現れている。「即刻〈リセット〉したい5つのこと」「リーダーになってもデキる人33のルール」、どちらが主題なのか?後者が主題だとしたら、リーダーになるのに33もルールが必要なのか?サッカーすら17しかないというのに。33も思いつくからには著者はよほど「デキる」のだろう。
P. 22
「デキる人は、デキる人を育てられない」
こんな定説があります。なぜ、デキる人はデキる人を育てられないのでしょう?
簡単だ。デキるひとはヤラせないでヤッってしまうからだ。
本書の33のルールは、いかにしてヤらないでヤラせるかに関するものである。その中には「細則の催促の禁止」もきちんと入っている。なのになぜ書名が「細則の催促」そのものになってしまっているのか。
おそらくそこには、「リーダー」という言葉に対する誤解がある。
P. 24
はじめてリーダーになったのは27歳のときでした。会社の一大プロジェクトで、小チームを任されたのです。
要するに、リーダーとは職能であるというわけである。
しかしこれは、二重の意味で間違っている。
一つは「リーダー」を「指導者」の意味で用いるという間違い。もちろん英語の “leader” にもこの意はあるけれども、しかし本来の意味は「先頭を行く者」という意味である。
犬ぞりであれば、先頭の犬がリーダーである。ボートのエイトであれば、バウ(bow)がリーダーである。
要するにリーダーとは、「上司」ではなく、「もっとも優秀な部下」に対して使う言葉だというわけである。
それでは「指導者」はどこにいるか?
犬ぞりでもエイトでも、最後尾にいる。先頭で引っ張るのがリーダだとしたら、後方で引っ張ってもらう彼らはむしろマッシャー(musher)とかコックス(cox)と呼んだ方がよいかも知れない。あるいは「ボス」(boss)。
本書は明らかに「リーダー」から「ボス」への転換が主題である。にも関わらず著者の振る舞いが「リーダー」なのは、少なからず言葉に引っ張られてしまったというのが私の仮説である。
もう一つの間違いは、リーダーというのが職能ものであるということ。
違うのである。リーダーとは、その時先頭にいる者なのである。自ら進んでそこにいるのか、それともたまたまそこに居合わせてしまったかは関係ない。
Macintoshの開発中、3.5インチフロッピーの採用を担当者がJobsからひた隠しにしていたというのは有名な話だが、この場合のリーダーとは、Jobsではなく担当者の方なのである。
それでは、なぜフロッピー担当がJobsの意に反して「リーダー」たりえていたのか?
Jobsは自分が何を欲しいのかを、終止はっきりとさせていたからだ。「リーダー」にはわかったのである。「ボス」は欲しいものが手に入るのであれば、それをどう手に入れるかは最終的には不問となることを。
先日献本いただいた「勝間和代・上大岡トメの目うろこコトバ」に最初に出てくる「目うろこコトバ」は、これであった。
ほしいものがわからずにチャンスはない
これが、著者の質問に対する、私の答えである。
それが土方仕事なのは、欲しいものが何かがはっきりとしていないからだ。
それを指し示すのが、ボスの仕事である。
そこにどうたどり着くかは、リーダーが決めてよい。というよりそこまで指図するのは、ボスがまだリーダーのままだという証拠である。
日本に不足しているのはリーダーではない。
ボスなのである。
自分自身の、自分自身による、自分自身のためのそれを含めて。
Dan the Boss of His Own