視野の狭い日本経済論 - 『日本経済のウソ』

2010年08月14日 00:10

★☆☆☆☆(評者)池田信夫
日本経済のウソ (ちくま新書)日本経済のウソ (ちくま新書)
著者:高橋 洋一
筑摩書房(2010-08-06)
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著者はみんなの党のブレーンなので、本書にもその「アジェンダ」とよく似た話が出てくる。今後の混沌とした国会情勢の中で、みんなの党がキャスティング・ボートを握る可能性もあるので、その経済政策を知るにはいいだろう。

しかし残念ながら、タイトルに反して日本経済全体の話はほとんど出てこず、もっぱら金融政策、それも「日銀がデフレ・ターゲットで不況を悪化させている」といった話が繰り返される。クルーグマンもいうように、結果的に日本がデフレから脱却できないからといって、日銀が意図的にデフレにしていることにはならない。こういう陰謀史観は、著者の学問的信用を落とすだけだということに気づいたほうがいい。

著者はリフレ派として知られているが、ゼロ金利のもとで人為的にインフレを起こす手段はないことぐらいはわかったようで、「インフレ・ターゲット」は提唱していない。もう一段の量的緩和、特に長期国債の買い切りオペを増やせという程度の話は、金融政策についての一つの見方としてはありうるだろう。しかし長期金利が1%を切った現状で、それをゼロに近づけたところで、デフレを止めるほどの効果があるとは考えられない。

最大の問題は、まるで不況が100%日銀の責任であるかのような視野の狭さだ。マクロ経済学の常識では、20年間にもわたる長期不況の原因はマネタリーなものではありえない。主要国で最低の生産性上昇率と、0.5%以下に落ちた潜在成長率を引き上げないで、デフレを脱却することはできない。ところが本書はそうした長期の問題を無視し、GDPギャップを縮める短期の景気対策がそのまま成長率を高めるかのように論じている。

こういうバランスを欠いた話になるのは、著者のマクロ経済についての理解が古く、昔ながらのIS-LMや貨幣数量説に依拠しているためだと思われる。「ニューケインジアン理論」も少し出てくるが、「まだ発展途上で実務界では知られていない」という。彼はニューケインジアン理論=DSGEが世界の中央銀行の共通モデルだということも知らないのだろうか。政治家に「金融緩和で自殺者が5000人救える」などといういい加減な話を吹き込む前に、もうちょっと勉強してよ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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