ものづくり幻想 頼みの太陽電池も危ない日本 - 大西宏

2010年08月16日 13:46

産経が、2005年には太陽電池で世界の生産量トップ5のうち4社を独占していた国内メーカーが、2010年に、トップ5社から、すべて姿を消す見通しだと報じています。
なにか日本の情報家電メーカーが辿った道を彷彿させる出来事です。しかもキャッチアップの速度がさらに早まり、あっという間に市場の勢力図を塗り替える時代の現実を感じさせます。
太陽電池“落日”危機 日本勢がトップ5陥落へ、中国など躍進


独フォトン・インターナショナルが太陽電池メーカー各社の生産計画を調査したところ、中国のサンテックパワーがトップに踊りでて、しかも、トップ5社のうち3社が中国メーカーで占められる状況だといいます。

太陽電池は、日本は世界でトップを走っているはず、そう思っている人は少なくないと思います。だから世界で環境への関心が高まり、各国の環境投資が進むにつれ、市場が広がり、日本には世界一の技術があるから、大きな成長が望めそうだ、これからの成長産業の一翼を担うと考えられてきました。

しかし、実際には太陽電池の生産量は、すでに2004年にはドイツに抜かれています。さらに後発の中国企業にも抜かれそうであり、そんな期待に冷水を浴びせかけるような現実が起こってきているようです。

なぜそうなったのでしょうか。その技術が、品質や生産技術に偏っていたのではないでしょうか。
生産技術でいかに強くとも、あっというまに技術は世界中に伝播していきます。なぜなら、川上の素材や部品や製造設備を自社で独占でもしていなければ、それらを供給する企業は、さらに売り先の拡大を求めて、新興企業にも売り込みます。そういった企業から技術はいくらでも入手することができるからです。

その売り先に資本力があり、また大きな販路をもっており、実績があるということであれば、素材、部品、また製造設備メーカーも必死で売り込みます。その結果、最先端の生産技術も流れていきます。

その工程の中で、職人的な能力が求められるとそうはいかないのですが、そういった「ものづくり」の世界が生き残ることはできたとしても、残念ながらそれぞれの市場規模は小さく、日本の成長戦略を支えることはできません。

太陽電池でも同じことが起こってきたのではないかと思えます。同じ技術で世界一といっても、それが川上を押さえ産業をリードする技術なのか、中間の製造技術なのか、それとも販売や利活用を押さえる技術なのかが問われてきます。
中間の製造技術は、技術普及がはやく、新興国からもライバルが登場してきます。インフラコストも、人件費も低い国で、最新の製造設備が入ると、とてもではないけれど価格で勝負になりません。

素材や部品などはいくらでも調達できます。日本は製造ロボットでは世界をリードしていますが、案外中国の太陽電池の工場に収められているのも日本のロボットかもしれません。当然、ロボットメーカーは世界最高水準のソリューションを提供してくれます。

スマイルカーブ現象をご存知でしょうか。高度な技術を要する川上は、寡占化が起こってきました。また、規模としくみで差別化が効く川下も寡占化が起こっており、川上と川下は利益はでるけれど、中間の製造は、しのぎを削る価格競争となり、利益がでなくなっています。その利益率のグラフを描くとちょうどニコニコマークのようになる、それがスマイルカーブです。

日本の成長戦略を考えるのなら、同じターゲット市場、環境なら環境で、いったいどの領域で世界をリードするのかの戦略が求められてきます。

基礎技術で川上を抑えてしまうか、利活用の技術で川下を押さえるか、あるいはその産業の全体のバリューチエーンやプラットフォームを抑えてしまうかの選択です。それを想定した戦略的な投資が鍵になってきます。

浸透膜では高い技術を持ちながら、海外でプロジェクトをとれない水事業を例にこのことは前回のコラムで書かせていただきました。
ものづくりの幻想から脱却しなければ日本は復活しない – 大西宏

まだまだ日本は部品や素材の分野では、世界市場をリードしている産業があるから、日本の産業ももっているのですが、残念ながら、それぞれは、パーツに過ぎず、大きな利益は海外企業が抑えているという分野が多いのです。

「ものづくり」だけでは、かならず新興国のキャッチアップの脅威が生まれます。バリューチエーンという発想、付加価値の高い領域で世界をリードし、それを抑えるという戦略発想がなければ、やがて、日本の人件費も、どんどんアジア化していくという道を選ぶしかないのではないでしょうか。

株式会社コア・コンセプト研究所 大西宏

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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