ロボットも危うい。日本の技術を過信していないか -大西 宏

2010年08月23日 13:40

日本はロボット技術では世界一、また国民のロボットへの関心が高く、SONYのAIBOや本田のASIMOなどのエンターテインメント・ロボットも親しまれています。今後とも日本はロボット技術で世界をリードし、成長産業の一翼を担うに違いないと思っている人が大半だと思います。またマスコミも、そういった伝え方をしています。しかし、本当にそうなのでしょうか。


世界で初めて触覚も伝わる内視鏡用手術支援ロボットが開発されたことは今月初めにニュースになっていました。また今朝の日経でも再度詳細が報じられていました。慶応大学理工学部の大西公平教授と、医学部の森川康英教授らが共同で開発したもので、およそ2メートル離れた遠隔操作で、「鉗子でつついた水風船の弾力やつまんだこんにゃくの軟らかさ」が伝わってくるそうです。
触感伝える手術ロボ 開発支えた医師の思い
慶大、国産機で技術向上

すばらしい成果だと思います。そのニュースだけ見ていると、やはり日本は医療の分野でも、ロボット技術が進んでいるかのように感じます。

しかし残念ながら、現実は違います。手術用ロボットを実際に開発し、すでに実用化し、世界で導入が進んでいるのは、米インテューイティブ・サージカル社製のダビンチです。米国では2000年にはFDAに認可を受けており、もうすでに1000台以上が使われているようです。日本は、混合医療が認められていないこともあって、そのダビンチですら、やっと導入がはじまったばかりで遅れてしまっています。もうダビンチの市場導入から10年以上も遅れてしまったのです。

日本は確かに産業用ロボットでは世界の70%を握っており、世界をリードしています。産業用のロボットも、途上国の需要が伸び、いまだに成長し続けているとはいえ、むしろ、今後は医療・福祉分野、生活支援の分野がより成長性が高いとされており、そちらのほうで立ち遅れ始めたのです。

なにがその原因なのでしょうか。世界をリードしていると思われており、「日本の強みの集大成」と期待されているロボットで、医療用などではじまってきた世界からの立ち遅れは、技術は潜在的に高いものがありながら、新しい成長分野を生み出せず、産業や経済が硬直化し、停滞してしまった、あるいはさまざまな分野で負け始めた背景を象徴しているようにも感じるのです。

もっと他にも原因はあるかもしれませんが、ロボットの分野で日本が抱えている問題を整理してみました。

政治の問題

法制度の遅れや厚労省の硬直性、また政治のリーダーシップ不足など。認可や治験が硬直化しており、実用のめどがたたないために研究開発を促進できないこと。また政治に青写真がなく、リーダーシップを発揮してこなかったこと。

企業の消極性
商用化のめどがたたないことに加え、医療用ロボットなどは安全性などで、命にかかわるリスクを恐れ、開発に消極的で、実際には、多くの企業が研究開発から撤退してきた。

研究の停滞
ロボットに関する論文数は、2004年までは日本はアメリカについで2位を保っていたけれど、その後は中国にも抜かれてしまったままであり、数だけの問題ではないにしても、勢いで差がついていることは事実。

研究分野の偏り
より高度なロボットになればなるほど、医療などさまざまな技術との融合が必要になってきますが、なかでも情報通信技術の重要性が高まってきているにもかかわらず、その分野での研究に立ち遅れている。

高度な医療用ロボットだけでなく、お掃除ロボットでおなじみといえば「ルンバ」ですが、こちらも米国アイロボット社のものです。今はさまざまな企業から商品化されていますが、こんな分野でもリードされてしまっています。
現在日本の各社が力を入れているエンターテインメント・ロボットやコミュニケーションロボットなどは、面白いといえば面白いのですが、どのような社会ニーズを満たすのかを考えると正直なところ、疑問に感じます。

ロボット創造企業アイロボット

情報通信革命が起こってから、世界は開発も一段とスピードの競争の時代に突入していますが、このロボットの分野でも、なにか日本だけが、世界とは違った時間の感覚が流れているようです。どんどん社会ニーズの高い、新しい分野に挑戦していかなければ、あっという間に追い越されてしまうのが世界の現実です。

もうそろそろ、日本は技術では世界一だという奢りや神話を捨て、新しい成長分野や、成長を促す原理を絞り、そこに産業がシフトしていく流れをつくることが政治の大きな役割だということはいうまでもありません。
成長分野をあげることは誰にでもできます。それよりは、そこに新しい産業を育てることのほうがはるかに強い意志も情熱もまた知恵も必要であり重要です。総論ではなく、テーマを絞って、政治がリーダーシップをとって、ひとつでも具体的な成功事例をつくることに集中してはどうかと感じます。

そうでなければ、日本という太陽は沈みっぱなしで再浮上はないということも大いにありえる話ではないでしょうか。

株式会社コア・コンセプト研究所
大西 宏

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑