経済活動でも政治でも、もっとも重要なのは何を問題として取り上げるかというアジェンダ設定である。誤った問題をいくら考えても、正しい答は出ない。みんなの党が政策をアジェンダと呼んでいるのは、この点を意識したものだろうが、江田憲司幹事長のアジェンダ設定は誤っている。
彼は「30兆円にものぼるデフレギャップを解消しない限り、真の景気回復や雇用の拡大はない」というが、そんなに大きなGDPギャップは本当に存在するのか。これについては学界でも論争中で、その基準となる潜在GDPの導出方法は、Mishkinの分類によれば次の3つある:
- 実際のGDPをスムーズにするアプローチ
- 生産関数を使うアプローチ
- DSGEモデルを使うアプローチ
内閣府が採用しているのは2のアプローチだが、これは前期までの平均設備稼働率を生産関数に外挿したもので、需要ショックが含まれていない。特に2008年秋以降の外需の大きな落ち込みが反映されていないので、これを織り込んで3の方法で計算すると、基準になる潜在GDPが落ち、GDPギャップはもっと小さくなるだろう。
だから(外生的ショックを含む)GDPギャップをすべてマクロ政策で埋めることはできないし、埋めるべきでもない。特に金融政策の場合は、名目金利の非負制約があるため、デフレの罠に入ったときの有効性は限定的だ。
アジェンダを設定するとき注意が必要なのは、解きやすい問題から解いてはいけないということだ。日銀がカネをばらまくだけの金融緩和は、誰も「痛み」を感じないので、政治家の愛好する政策だ。特にインフレ的な政策が有権者に喜ばれるので、緩和は早く、引き締めは遅くなるインフレバイアスがある。各国で中央銀行の独立性が規定されているのは、このバイアスを取り除くためだ。「国民会議」で日銀に圧力をかけるなんて、とんでもない話である。
大事なのは、全体最適を考えてアジェンダの優先順位をつけることだ。かりにGDPギャップをすべて埋めたとしても、その「天井」となる潜在成長率は0.5%以下だ。この先進国で最低の潜在成長率を上げる規制改革や税制改革なしに「まずデフレを止めよ」という類の話は、全体最適を考えないで目先の問題ばかり追いかける民主党と同じである。
みんなの党が信用できるかどうかの試金石は、彼らが解雇規制についてどういう政策を打ち出すかだ。非効率的な労働市場によって労働生産性がG7で最低になっていることが、潜在成長率を下げてデフレの原因になっている。それを放置したまま、「金融政策でいかにデフレを脱却するか」などという誤ったアジェンダをいくら考えても、正しい答は出ない。
コメント
みんなの党には既得権益から縛られないと考えているので、
解雇規制はもちろん、宗教法人の無税化や、パチンコのグレーゾーンなんかにも切り込んで欲しいですね。
まだ小さい党なのに他の政党と同じような誰も痛みを伴わないような政策ばかりであればあまり存在価値もないと思うのですが。
消費税の増税も反対したし、最近はかなり最初の頃の期待がしぼんでいます。
いつまでも第三の政党という立場として選ばれると思わないほうがいいのでは。
政治家が政権公約をマニフェストと言い換えてみたり今度はアジェンダ。この時点で見透けてしまっている感があります。
名称がどうあれそれを実行してくれるかどうかだけですから。
さてみんなの党。参院選のマニフェスト(アジェンダ?)には公務員削減が記されていてこれが同党が支持されている要素のひとつではあります。
しかし公務員を『何をもってして多いと判断するか』の論拠記載はありません。小さな政府の米国でさえ1000人中80人の公務員比率ですが日本は30人台。本当はまるで少ないのですが、公務員、役人に対するバッシングは妙に国民に受けるのです。
またアジア圏から優秀な人材を集めると書かれていますが、永住外国人地方参政権反対と書かれている。彼らの生活環境整備の考えがなくして誰が来るんだと。
デフレギャップも同様。「そんなもの本当にあるか?」と思えるのが正常な感覚とおもえるのですが。