問題は「光かメタルか」ではない - 池田信夫

2010年08月31日 09:16

私はもう「光の道」をめぐる論争に加わる気はないのですが、きのうの松本さんの記事には私の名前も出てくるので、簡単にコメントしておきます。

松本さんのおっしゃるように、「施設保全費」の実態は関連会社への業務委託費なので、メタルから光にしてもほとんど減らないでしょう。いま年3900億円もかかっているのは中高年社員の人件費だから、彼らが退職すれば減るし、彼らがいる限り光でもメタルでも大して変わらない――これは私が孫社長との「光の道」討論でも説明したことです。やっとわかっていただいたのは喜ばしいことですが、問題はそこから先です。


かりに光でもメタルでも保全費が3900億円だとすると、松本さんのおっしゃるように「労働力を移転」して光に替えても保全費は変わらず、光に置き換える工事費(2兆5000億円)が余分なコストになります。つまり「保全費が減るから工事費が浮く」というソフトバンクの論理は成り立たない。したがって、その節約できるコストで「アクセス回線会社」が大きな利益を出せるという予想も間違いです。

それより節約効果が大きいのは、電話網からIPに変えることです。これは確実に交換機まわりの維持費が減り、必要な工事費は少ないので、大きなコスト削減になります。NTT自身がそう説明しているので、争いはないでしょう。ところが孫社長は、この事実関係を認めながら「IPにするだけではだめで一挙に光化しろ」という。なぜ段階的にやれば容易なことを政治的に困難な方法で一挙にやろうとするのかわからない。

総務省に提出されたNTTの計算でも、ブロードバンドの未提供地域の整備コストは、FTTHだと3兆3000億円ですが、DSLだと600億円です。これを私が紹介すると、孫社長は「メタルの維持費があるから600億円じゃない」とおっしゃいましたが、これは松本さんの記事にも書かれているように誤りです。つまりブロードバンド化するコストはFTTHよりDSLや無線のほうがはるかに安いのです。

長期的にみると、10年ぐらいたったらメタル回線を廃止するときが来るかもしれない。そのとき主要なインフラになるのはおそらく(FTTHよりはるかに安い)高速無線で、光ファイバーはその中継系が主な用途になるでしょう。だからFTTHとメタルのコストを比較するのは無意味なのです。

逆にいうと、メタルのままでもNTTが思い切った人員整理を行なえば、2兆円ぐらい節約することは可能です。回線工事による「労働力の移転」なるものは、NTTの中での人件費のつけかえで、国民経済的には意味がありません。問題は「光かメタルか」ではなく、経営の合理化なのです。

必要なのは物理的なインフラを替えることではなく、NTTの経営を合理化してコストを下げることです。そのためには、FTTHより安いインフラとのプラットフォーム競争で圧力をかけるしかない。ソフトバンク案のように1社独占の国策会社をつくると、日本の通信インフラの進歩は止まるでしょう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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