予想できたはずの危機後の円高

2010年09月10日 10:28

リーマン・ショック(投資銀行リーマン・ブラザースの破綻)から、来週の15日で丸2年になろうとしている。そして、少なくともリーマン・ショックの半年後の時点では、グローバル・インバランスの巻き戻し(リバランス化)が求められている以上、「当然、為替レートは、円高ドル安になります。」(『なぜ世界は不況に陥ったのか』2009年3月、p.17)という見通しをもつことは、すでに可能であったと思う。


もちろん日々の為替レートの動きなど、経済学で予想することはできない。1週間、1ヶ月、1四半期あたりでも、不可能だろう。しかし、より長い目でみたときの趨勢的な動きについてなら、少しは見当を付けることができる。為替レートの基調的な動きが、インフレ率格差(相対的購買力平価)や資本移動の動向をはじめとしたファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)をいつまでも全く反映しないとは考え難いからである。

現実の為替レートの動きは、ファンダメンタルズを反映した基調的な動きに、ランダムで予想が困難な要素がいろいろと加わったものだと解釈できる。後者の要素の方が大きくて、全くファンダメンタルズとかけ離れたようなレートが形成されることも珍しくない。だから為替のトレーダーとかの立場であれば、相場動向を予想するに際してマクロ経済的な要因など一切考慮しないという割り切りをすることも、それぞれの判断ということで許容される余地がある。

けれども、マクロの経済運営を担当する政策当局が、ファンダメンタルズを反映したとしたときに為替レートの動きがどうなるかを考えなくてもよいということにはならない。ランダムな要素による突発的な為替レートの変動に対処する一方で、基調的な動きの予想を踏まえた中長期的観点からの対応が求められる。国家100年の計(は大げさにしても、5年後10年後のあるべき国の姿)に基づいた戦略性が、政府の経済運営には求められるのであって、後先のことも考えずにその場その場の対応を繰り返していればいいわけではない。

今回の場合でいえば、今世紀に入ってからの国際的な経常収支不均衡(グローバル・インバランス)の拡大の過程で、米国の膨大な経常収支赤字をファイナンスするための資本移動が発生し、そうした資本移動の結果として、変動相場制開始以降の円の実効実質レートの平均値を大幅に(標準偏差の2倍程度)下回るという意味での「かなりの円安」が実現されていた。

けれども、リーマン・ショックを契機に、経常収支不均衡の強制的な是正が進行した(不均衡の規模はいまや危機前の半分以下に縮小している)。それにともなって、資本移動の額が少なくなれば、それだけ円を売ってドルを買う動きが乏しくなるのだから、基調的な動きはいずれ円高ドル安に向かうはずである。この意味で、変動相場制開始以降の実効実質円レートの平均値(ほぼ現在の水準)に戻す程度のことは、十分に予想し、備えておくべきことだったといえる。

もちろん、正確にいつ戻るのかといったタイミングは、前述のランダムな要素等が作用するので予見しうることではない。しかし、いずれそうなるといったくらいは考えおくのが当然である(例えば、東海大地震がいつ起こるか正確には予見できないから、それに備える必要がないということにはならないのと同断)。この意味で、具体的なタイミングを形成するにあたっては、日米の政策当局の対応ぶりが大きく影響したかもしれないとしても、日米の政策当局の対応ぶりの差が今回の円高をもたらしたといった見方は、表層的で、正しいものだとは思われない。

日本の政策当局が批判されるべきだとすれば、円高に対する対症療法的な対応を迅速かつ大胆にやらなかったことなどではなく、結果的には1年半はあった期間のうちに来るべき事態に備える計画的な取り組みを何らしてこなかったという点についてある。政権交代へ向けた混乱と政権交代後の混乱の過程で、何らの戦略性ある経済運営もなされてこなかったことこそが厳しく問われるべきである。

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