馬渕新国交相に期待する「空港政策」の根本的転換

2010年09月18日 01:02

昨日の第二次菅内閣の発足で国土交通大臣は前原誠司氏から馬淵澄夫氏に交代したが、同じ日には成田空港がLCC向けに着陸料を引き下げるとの報道もあった。

本来、空港の着陸料は航空機の重さなどを基準に決められるため「航空会社(キャリア)がLCCだから安くする」という理屈は成立しない。しかし日本では、成田以外にも関西国際空港が新規就航会社(主にLCCを想定)に対して着陸料を大幅にディスカウントする施策を実施している。この関空の施策については、先だって発表された全日空グループの新規LCCを側面支援する目的で期限が延長されるとの報道も同じ昨日になされた。

しかし、空港の競争力は着陸料だけではなく空港自体の利便性やキャパシティ、ひいてはその国の航空政策など様々な要因に依って形成される


関空の場合は着陸料を減免して多少就航キャリアが増えたところで1兆円をゆうに超える有利子負債が急激に減るわけでもない。それどころか、既に就航し高い着陸料を負担しているキャリアに対して著しい不公平感を与えることになる。言わば、メガキャリアからLCCに対して社会主義的な「富の再分配」をするに等しい。それは結果的に、同じ空港を利用している利用者を利用キャリアによって”差別”することにもなり、却って空港全体の競争力にマイナスの影響を及ぼしかねない。

恐らく空港間競争の最前線に立つ成田、関西の両空港会社はこういった「場当たり」的な施策が問題の根本的な解決につながらないことを理解しているはずだ。それにも関わらず、当事者レベルではディスカウント以上の解決策を打ち出せない訳には根本的な空港政策のまずさがあると私は考える。

首都圏空港を例にとれば、一番問題なのは羽田・成田の棲み分けが根本的に議論されてこなかったことにある。羽田・成田の「内際分離」というナンセンスな棲み分けが日系キャリアの競争力を削いだだけでなく、首都圏全体の枠を有効活用出来ない要因になっていた。羽田再拡張はこれを改めるまたとないチャンスであるにも関わらず、羽田国内線を含む機能分担の見直しは今日まで議論されないままである。

国内線でも新幹線と競合しない路線は成田に移転させることで、成田の地盤沈下を防ぎつつ羽田の国際ハブ機能を向上させることが出来たはずだ。拡張すればその分空き枠が出来るのは当然だが、一方で既存の埋まっている枠も含めて見直せばもっと沢山の国際線向け発着枠を捻出すること出来た。しかし結果として国はそれを行っていない。言わば「埋蔵金」のようなものである。

こうした経緯でとても残念なのは、羽田再拡張について「増えた枠をどう活用するか」という話はあっても「今までの枠利用をどう見直すか」という視点は完全に欠落していたことである。東京から那覇に移動しようという意図をもつ利用者は、羽田発着だったものが成田発着になったからといって飛行機を使わなくなるということはない。なぜなら那覇線には船や鉄道などの競合が実質的に存在しないからだ。にも関わらず、羽田から成田に一部国内線を移すといった国内線再編の発想がなぜ無かったのか、非常に疑問である。

私の考えるベストな棲み分けは、国内線・国際線ともに羽田を「近距離線専用空港」と位置づけ、国内線は新幹線と競合する路線、国際線は6,000km圏内の路線(観光路線を除く)をそれぞれ就航させることである。一方で成田は新幹線と競合しない国内線(離島路線を含む)並びに長距離国際線を就航させる。そして国際チャーター便は横田空港に、LCCは茨城空港にそれぞれ振り分ける

chart1

基本的には、羽田の昼間帯についてはこの「6,000kmペリメーター」基準を厳守すべきと考えるが、一方で深夜・早朝帯に限っては成田がクローズしている時間帯ということも考慮し、欧米方面の長距離線を入れてもよい。もしくは昼間帯にも一部自由枠を設定すれば、長距離線の就航にはプレミアムを設定することで「成田線よりも運賃は高いもののアクセスの良い羽田を利用出来る」という利便を利用者に提供することも可能である。

今コンベンションをどう東京や日本に誘致するかということが話題になっているが、この羽田にこの「6,000kmペリメーター+α」基準を当てるとかなりやりやすくなるのではないだろうか。ビジネスマンはソウルやシンガポールから早朝に羽田に降り、すぐに東京都心で会議に出られるし、夕方に羽田から帰れば東アジア圏内では実質的な日帰り出張が可能になる。

また、羽田にはあくまで観光路線を就航させないということも重要と考える。現在国交省が進めている対外航空交渉の結果、羽田にはマレーシア・コタキナバルに飛ぶ路線の就航が決定している。本来こうした観光路線は、成田空港など比較的アクセスの弱い空港であっても競争力を損なうことはないわけで、アクセスの良さを活かしビジネスユースにフォーカスした競争力向上を目指すという視点から見れば「枠の無駄遣い」と言わざるをえない。あくまでもビジネスユース優先で旅客全体の利便を向上させるべきだと考える。

更に、成田の「貨物ハブ」としての機能低下も叫ばれているが、近距離国際線を丸々羽田に持ってきて、浮いた枠の一部でも貨物に充てられれば香港や仁川との競争上も有利になる。無論、まず公租公課を下げるべきということが大前提だが、日本は中国・韓国の経済成長を”利用”する国家戦略の緒として空港政策をフル活用すべきではないだろうか。

要は、羽田の既存の国内線枠を「聖域」化せず、羽田・成田両空港の国際線枠と一体的に捉えて再編することで、首都圏空港全体の競争力を向上させられるのではないかというのが私の考え方である。

そもそも、羽田国際線枠の扱いの経緯としては、最初に国交省が示した「1,947kmペリメーター」基準に問題があった。1,947kmというのは羽田=石垣線の距離であり(羽田就航の国内線では最長の距離)、これに含まれる国際線はソウル線などごくごく少数に限られる。つまり、この1,947kmペリメーター案は結局羽田を実質的な国内線空港と再定義するに等しい話である。結果的には都や横浜市の突き上げでなし崩しになった案だが、これが最初に出てきて一連の論議のたたき台になってしまっているために、結局今の内際分離を根本的に問い直す機会を逸したのではないだろうか。

そして、国際線の枠数もはじめ3万回という話が、石原都知事、猪瀬都副知事・中田横浜市長(当時)を中心としたメンバーの突き上げで6万回になり、そして前原前大臣になってからは10万回程度まで引き上げる方向、とどんどん国交省自身の方針がブレている。無論、羽田を再国際化し、北東アジアのハブを目指すというなら国際線枠は多いに越したことは無いが、増やすたびにゼロサムよろしく国内線向け枠から差し引いてくるばかりで既存の国内線枠を再編しないというのはそもそも不合理である。

「羽田を再国際化すると成田が地盤沈下する」という千葉県の懸念も、結局のところは「羽田に何を付け足すか」だけが議論されていて、成田を含めた全体最適の議論が最初からまるでないこの一連の経緯を踏まえれば当然かもしれない。千葉県や地元自治体の言動を「地域エゴ」と言うのは簡単だが、成田は首都圏で唯一の4,000m滑走路を有する極めて有用な空港であり、伊丹のように潰す理由は全くない。

ここまで述べてきたような『羽田国内線を含めた』機能分担見直しを行うことは、中長期的にインフラ投資を抑制することにもつながる。現状羽田には4,000m滑走路がないため、再国際化が進めば必ず滑走路の延伸や新設を求める声が出てくるだろう。しかし、成田の4,000m滑走路を近中距離線に無駄遣いすることをやめれば新たな羽田へのインフラ投資の必要性は必ずしも大きくなくなる。

現に、すぐに横田空域見直しが出来なくとも、羽田・成田は向こう5年間の間に現在のインフラで70万回まで枠を増やせることが既に担保されている。横田空域の一部ないし全部の返還や成田空港への単線進入空路の見直し等、更なる運用改善が実現できれば新規インフラ投資無くして100万回も可能である。航空市場の長期的な展望として、北海道新幹線やリニア中央新幹線の開通で国内線需要が大きく減退することを勘案すれば、結果的には得策ではないだろうか。

こうして空港関連の新規インフラ投資が必要なくなれば、旧空整特会の存在意義がいよいよ疑われることになる。私は、構造改革特区制度等を利用した無駄な地方空港を廃港にするためのフレームワーク作りをすべきだと考えているが、これが出来れば不要な空港を廃し、必要な空港を現行インフラで存続させるだけの財源しか要らなくなる。

以前、ある民主党議員は公租公課を下げられない(=旧空整特会を廃止できない)理由として代替財源の手当てが出来ないという問題を挙げていたが、財源は使途があって初めて必要になるものではないのか。使途が消え失せれば財源自体も不要になるのは自明であり、その不要な財源のために経営破綻し公的資金が投入されているようなキャリアにまで年1,000億円も上納させるのは理屈に合わない

前原前大臣は来年度から航空機燃料税に限って半減させるとしたが、公租公課を下げることは結局、日系キャリアと国内空港の競争力を向上させることに直結する。日本の航空政策で特にまずいのはこの公租公課であり、加えて空港政策の失敗をただすことで9割くらいの問題は解決出来るのではないだろうか。

馬渕新大臣には、所管大臣として半世紀もの間歪みを溜めてきた空港行政を根本的に転換することを一国民として強く期待したい。

米重 克洋(?JX通信社代表取締役社長/学習院大学経済学部4年)

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