購買力平価でみた日本経済の問題点

2010年09月18日 20:16

久しぶりに為替介入が行われました。確かに「米国要因の円高に効果は限定的」であり、例えば90円/ドル台へ誘導するような効果はないでしょう。が、「やる時は単独でも行う」というメッセージを出した点は良かったと思います。タイミングとしても合格点。まぁ、欲を言えば「もう少し前に行った方が」とは思いますが、日銀も「不胎化しない(非不胎化)」を表明し、後方支援を行っているわけですから、それなりの「本気度」が感じられます。

とはいえ、現状、米国は実体経済も芳しくなく、何と言ってもオバマ大統領が「輸出振興」を標榜している以上、少なくとも対ドルでは今後も、当面、円高傾向は続くでしょう。急激な為替変動に対しては「口先」「さらなる金融緩和(もどき)」「実弾での為替介入」ということで対処するとしても、潮流としての円高を食い止めることはできません。となれば、「円高」を考慮した構造改革が求められることになります。

前田拓生のTwitterブログ


その意味で「内需拡大」が求められるわけですが、「だから」と言って、菅さんが代表選挙の際に連呼していた「雇用」だけではうまくいかないのも明らかです。経済学的には「経済成長→雇用」であり、その逆ではありません。したがって、経済成長にとって必要となる政策を打ち出していくことが必要なのです。ということで、ここでは購買力平価(対ドル)からみた日本経済の問題点、及び、打ち出すべき政策を考えてみたいと思います。

まず、多くの人が利用する日銀作成の実効レートですが、現時点でも名目レートは95年の円高水準を超えています。対ドルだけでみた場合、95年当時の79.75円/ドルは超えていませんが、貿易実績を加味した実効レートでみた場合には、すでに最高値水準にあることを意味します。つまり、円は独歩高だということです。

しかし、この実効レートを実質でみた場合には、かなりの円安水準であることもわかります。実質レートが円安水準であるというのは、日本がデフレであり、他国がインフレだったわけだから、名目為替で損であっても、物価格差で利益が出ているはずだということになります。つまり、名目為替でみるほど「企業は困っていないはず」ということが言えるわけです。これを持って「今の円高は(実質でみると)問題ない」という話があるわけです。

確かにその通りなのですが、この日銀の実質実効レートに使用されるデフレータは、基本的には「企業物価」であるものの、統計上の問題から消費者物価を使用している国も存在している、という点は考慮すべきでしょう。為替レートが最も関係する物価は“輸出物価”であり、一般に輸出物価の方が企業物価よりも低く抑えられています。また、生産者物価も、消費者物価に比べれば低い水準になっているのが普通なので、いろいろなデフレータをミックスして作成している実質実効レートをもって「実質にすれば問題はない」というのは問題があるかもしれません。

ということで、ここからは「国際決済通貨として6割以上ある“ドル”」と「自国通貨である“円”」の購買力平価(PPP)でみていきたいと思います。

国際通貨研究所の推計によると、趨勢的にPPPは円高方向に推移しているものの、スポットレートが87.67円/ドル時点において、輸出物価でみた購買力平価は70.40円/ドルになっています。つまり、米国向け(または、決済がドルでの)輸出においては80円/ドルを上回る程度の円高であっても問題はなく、米国(またはドルを決済通貨とする)貿易では価格競争力があることを意味します。

これは(日銀の実質実効レートからのインプリケーションと同様に)日本が輸出をしている商品は非常に価格競争力があるので、今の80円/ドル台であれば全く問題がないということを意味します。そもそも輸出企業は、日本政府の規制等が及ばないところで戦っているわけですから、独自に人員や中間財をフレキシブルにしたり、生産性を常に向上させることによって世界と戦い、生き抜いてきた企業群です。価格競争で負けた場合には淘汰されるのですが、今程度の円高で大きな問題になることはないでしょう。

ただし現実の為替レートは、理論的には貿易によって決まっているわけですから、世界的なイノベーションでも起こらない限り、今後も世界的な価格競争の結果、実際の(名目)為替レートは円高気味に推移する可能性が高いものと思われます。まぁ、円高傾向がずっと続くとしても、日本の輸出企業は本拠地を日本に置く必要が「あまりない」のであれば、技術だけを内部化し、日本から離れることも可能なはずです。これは日本経済にとって空洞化を招くという意味で問題ですが、個別企業にとっては合理的な行動であるといえます(このような空洞化がドンドンと進めば、円高傾向は修正されるかもしれませんが・・・汗)。

他方、企業物価でみたPPPは105.18円/ドルなので日本国内の企業全体にすると、今の円ドル為替レートでは、国内企業は世界的にみて「価格競争力がない」ことになります。とはいえ、輸出をしない企業にとって価格競争力がなくても、そもそも世界とは競争しないのだから問題はなく、逆に、輸入業者にとっては有利とみることも可能です。これは消費者物価でみた場合、さらに顕著になります。消費者物価でみたPPPは135.79円/ドルですから、現状の(名目)為替レートであれば、ドンドンと輸入をすべきであるということになります。

しかし、この(消費者物価の)PPPの状態で輸入をするということになれば、当該輸入財における国内の競合財が価格競争に負けて国内企業が淘汰されることを意味します。実際、ファスト・ファッション企業やLCC(格安航空会社)などが参入したことによって、小売やサービスの業界に大きな影響を及ぼしています。

とはいえ、このような例は比較的少なく、今までは市場開放をしてこなかったり、規制がかかっていたことによって国内企業を保護してきたので、為替変動が国内企業に影響を及ぼす割合が少なかったと考えられます。が、一方でこのような保護策によって、各種実証データで明らかなように、国内産業、特にサービス業や中小の国内製造業等は大手製造業に比べて著しく生産性が低い状態でも生き残ることのできる社会を造り上げてきた、ともいえます。

「生産性が低いから淘汰しろ」という乱暴な話ではないのですが、例えばNetの普及によってドンドンと内外の垣根がなくなり、財・サービス市場でもグローバル化が進展してきているわけですから、現状のような円高は、これを原因としてデフレを加速させる可能性もあるわけです。つまり、現状の「円高の問題」というのは「輸出企業に対する問題」というよりも、むしろ国内産業、特にサービス業や中小の国内製造業等の問題であると認識すべきだと思います。

といっても、「だから円高を止めましょう」という話ではありません。上述の通り、政府・金融当局は一時的に流れを逆流させることはできても、潮流としての円高を変えることは不可能です(つまり、「円高」になる速度を弱めることは比較的容易かもしれないが、円高そのものを「止める」ことはできないということ)。

なので、潮流としての円高に対しては、国内産業の生産性を高めていく以外にありません。そのためには政府は「保護」ではなく、規制緩和を行っていくことこそが重要であり、企業の新陳代謝がスムーズに起こるような社会にしていくことが求められます(何をどのような順番で緩和していくのか等は議論があるところだと思いますし、それは政治が行うべきだと思います)。新しい企業が新しい発想でいろいろな事業を行う中からイノベーションが生まれ、そして、国の柱になるような産業も生まれてくるものです。

とはいえ規制緩和等を行えば、当然に多くの企業が淘汰されることにわけですが、「公的な意味を持つ産業」や「共益的な事業」等については、経済的な意味だけで淘汰されないような仕組みが必要です(これが「新しい公共」など)し、既存産業が新陳代謝する場合には雇用も流動化しなければならないのですから、雇用のセーフティネット(再雇用教育等)も今以上に重要になってきます。また、新しい企業を興す際にはそれなりの資金が必要になるものの、現状ではリスクマネーが流れないために起業ができないという問題もあります。これでは「企業の新陳代謝」など生まれません。その意味でアーリーステージにある企業でも資金が付けられるような仕組みを構築することで、資金的なセーフティネットを考えていくべきでしょう。

まぁ、簡単な話ではありませんが、このような政策をいち早く打ち出していけないと、世界情勢を考えた場合、構造改革に費やせる時間もあまりないように感じます。

「円高に対しては断固な措置を取る」と言い続けている菅政権ですが、「円高」に対して金融的な措置や小手先の介入などでは根本的に対処できません。円高になっても、それに打ち勝つだけの「強い日本」を創り上げることが求められているのですから、そのための政策を“早急に”打ち出してほしいものです。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑