中国進出の心理 - 小谷 まなぶ

小谷 まなぶ

 ある大学関係者から問い合わせがあり『日本企業の中国進出の心理』について、研究しているのですが、何かコメントをもらえませんか?と言われた。確かに、日中関係がどうあるべきか話題になっている中で良いテーマだとおもったので、投稿してみようと思った。


 ここ1ヶ月ほど尖閣諸島の問題で日中間が緊迫した状態が続いていた。今は、軟化したといっても、まだまだ、複雑な感情を持った国民が多くいることは事実である。ある日本の企業は、中国への出張の自粛するように通達を出した企業もある。中国側からも日本への観光渡航を自粛するように呼びかけている報道も流れている。『今回の事件は、日中国交回復以後、一番深刻な関係悪化に繋がった。』というコメントを残した人もいたぐらいであった。
 
 私は、中国の上海に14年住み、日本企業の中国進出サポート業務を行ってきた。その立場から見て、今回の事件は、日中間の国民の精神的な部分で影響を与えたが、中国進出を行っている日本人経営者の意見を聞くと、『今の現状を考えれば、中国で事業をやる以外方法がない。』と言う人が多い。
 理由は、3万社以上といわれる日本企業が、すでに中国に進出しているからである。3万社といえば、日本の企業の100社に1社は中国進出して中国に法人をもっていることになる。実際は、法人を持っていなくても、連絡事務所だけもって、日中間の取引や、中国国内との販促するために、準備している企業もたくさんある。
 これだけ、多くの企業が、中国市場で活動していると中国との関係は、日本企業にとって、切っても切れない関係になっている。政治のつながりよりも、民間企業のつながりの方が、強いということが言える。
 また、先日、日本のアパレル製造業者の社長と話をしているときに、こんなこと口に出した。
『今、日本のアパレル製造業は、日本国内では、ほとんどやることが無くなった。日本国内にある仕事は、サンプル作り以外は、ほとんど無く、製造に関しては、ほとんど中国などの海外に依存するようになった。もう、中国を拠点にして仕事しないと仕事を続けることができない。』と話していた。
業界によっては、あまりも製造拠点を中国に移しすぎた結果、中国国内で、日本企業どうしがコミュニティーを作って製造をするようになってしまったのである。
部品、材料の調達から加工工場、輸出業務、物流業務までも、すべての分野で日本企業が中国に進出して行っている。中国であっても、日本企業の連携だけでビジネスが出来てしまうほど、中国で日本企業のコミュニティーが大きくなっている。
 今や、業種によっては、日本国内は、商社機能だけで、日本のクライアントと中国の製造工場との連絡業務だけ行っている企業も少なくない。日本の製造業が、空洞化してしまったのである。
 製造業の海外シフトが進みすぎた結果、民間企業は、中国との関係は切っても切れない状況になっているのは事実である。厳密に言えば、『中国にある日本企業との関係を続けることがビジネスの継続できる条件になった。』といえるのではないだろうか。
 
 民間企業では、今の中国におけるビジネスモデルを、継続して、発展させることが重要であり、中国との関係も良好であることが、中国にいる多数の日本企業の希望であることは間違いない。日本への安定した商品供給は、これらの中国にある日本企業が多くを担っているからである。

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