番外編「PB後進国日本の現実」

2010年10月14日 10:54

【渥美俊一氏を偲ぶ】

 いまから3ヵ月前、戦後日本の流通業界をけん引してきた、経営コンサルタントの渥美俊一氏が亡くなった。享年84歳。わたしの取材にも何度か応じてくれたが、そのたびに衰えぬ論理的思考力と深い見識に驚かされた。

 「ペガサスクラブ」という団体がある。一般人には馴染みが薄いけれど、小売流通業に携わっている人間でこの名前を知らないのではモグリと言われても仕方がない。
ペガサスクラブとは、読売新聞記者時代に渥美氏が当時自力で年商1億円(日商30万円)以上の小売業経営者にチェーンストア作りの運動を呼びかけて1962(昭和37)年に創設したメンバーシップ制の研究団体。現在も隆盛である。

 渥美氏は3年半かけて全国行脚し、延べ1300人の経営者に会い、

「チェーンストア産業作りで世の中に貢献をしないか」
「商業の世界で生き甲斐を求めないか」
「そのためには、お互いに共同研究をやろうではないか」

と誘ったが、初期のメンバーになったのはたった13社だった。なぜならば、渥美がそのためには、

「趣味を捨てろ」
「増資を続けてつつましい生活をしろ。贅沢はご法度」
「金儲けは目的ではない。客層が増えることだけが己のバロメーターであり、世の中への貢献のバロメーターであり、それを商業人としての生き甲斐にしろ」

と彼らの人生観にも厳しく迫ったからだった。だが、その13人の主要な顔ぶれは、いまからふりかえってみれば、凄いメンツが揃っていた。

 中内功(故) 39歳 (ダイエー)         
 伊藤雅俊   37歳 (イトーヨーカ堂)      
 岡田卓也   36歳 (イオン・当時岡田屋)    
 二木英徳   26歳 (イオン・当時フタギ)    
 西端行雄(故)45歳 (マイカル・当時セルフハトヤ) 
 岡本常男   37歳 (マイカル・当時赤のれん)  
 大高善雄(故)54歳 (ヨークベニマル・当時紅丸商事) 
 大高善兵衛  27歳  同上
 高木久徳   38歳 (ユニー・当時ほていや)     
 西川俊男   36歳 (ユニー・当時西川屋)     
 和田満治(故)30歳 (いずみや)           
 大西隆    29歳 (アピサーク・元大西衣料、問屋)
 さらに江南、田中駒、サンコー、扇屋、柏屋の13社で結成された。
※年齢は1962(昭和37)年当時

 翌年、長崎屋と西友(当時西友ストアの堤清二)が参加してきた。したがって、その後の日本の小売流通分野の1兆円組すべてがペガサスのメンバーだったということになる。
当時のダイエーの年商が30億円。岡田屋は18億円、イトーヨーカ堂は5億円、マイカルは3億円しか売っていなかった。そこから1兆円企業になった。40年かけて1万倍の売上になったことになる。

【PBの全責任はチェーンストアが負うべし】

チェーンストアの商品開発

 いわば小売流通業界の巨人たちを指導してきた渥美氏が、日本のプライベートブランド(PB)について舌鋒鋭く批判していたのを昨日のことのように思い出す。取材時に彼はPBをこう定義付けしていた。

「チェーンストア(販売者)が新しく生産と集荷の体制をつくることで生れた開発商品。品質の「トレード・オフ」を特徴とし、ストアブランドとは区別する。業界常識や類似のナショナルブランド商品の3分の1前後の売価を目指すのが普通。もちろん商品と材料との仕様はすべて、マーチャンダイザーであるチェーンストアが新しくつくる。マーチャンダイジングというのは製品開発)ることだから、全責任はチェーンストアが負わねばならない」

 品質のトレード・オフとは、商品の性質や使い方を、つくる立場(メーカー)からではなく、使う立場(消費者)から画期的に便利で、おいしく、美しく、楽しいモノへと変更するという意味だ。渥美氏は、これは江戸時代商家の伝統の延長線上にある、商業本来の努力軌道であると述べていた。

 さらにダブルチョップ、わたしがいうところの自称PBについては
「ベンダー(既存取引先)とチェーンストアとが共同で責任を負う新商品ブランド(チョップ=商標)のこと。実際には開発利益はベンダーの独占となりやすい。商品開発をする以上、チェーンストア自社で全責任を負うべきである」
また渥美氏は最後の著書となったであろう『チェーンストアの商品開発』のなかでこう書いている。

「近ごろ商品の表装には小売業の社名を冠しながら、客からの問い合わせ先は『生産者(製造者)あるいは『販売元』として、メーカーあるいはベンダーの電話番号だけを表記している例が漸増している。これはもってのほかの反社会的行為と、私は発見のたびに強く弾劾している。また商品について不祥事が起こったときに、直ちに生産者側に釈明や安全証明を要求すると公表する一部小売業の態度は、右と同じく販売者としての責任放棄であり、商道徳としても避けるべき態度と理解してほしい」

 お読みいただければわかるように、ほぼわたしが伝えている定義というか、欧米小売業の常識に添っている。「PB後進国日本の現実」をお届けしているとき、「加藤が勝手に決めてどうする」といったご叱声をいただいたが、これはわたしが決めたものではなく、グローバルスタンダードを紹介したまでである。問題なのは、渥美氏の薫陶を受けながら、それに背いた表示を行っている小売業が多く存在することだ。こういうのを「確信犯」というのだろう。

ノンフィクしション作家 加藤鉱

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