持続不可能なグローバル・インバランスが元に戻るということ - 藤沢数希

2010年10月21日 01:45

2007年のアメリカの住宅バブル崩壊をきっかけに、世界同時金融危機が起こり、世界中の金融市場がパニックに落ちいった。2008年9月にはアメリカの名門投資銀行のリーマン・ブラザーズが破綻した。この時、多くの金融機関がサブプライム・ローンを組み込んだ金融商品によって莫大な損失を出し、瀕死の状態だった。そして、サブプライム・ローンや世界の金融バブルにはほとんど無縁だったはずの日本の実体経済が、皮肉なことに世界の先進国の中で一番落ち込み、回復も鈍かった。また、最近では莫大な政府債務を抱えているにもかかわらず、日本の円はとても強くなっている。実はこういった一連の現象は、グローバル・インバランスの調整という文脈でよく理解できるのである。


経常収支/GDP [%] (2007)
出所:OECDのウェブ・サイトより筆者作成

まず経常収支というのは、外国に対してモノやサービスを売った金額から買った金額を引いた貿易・サービス収支と配当や利息などの所得収支を足したものである。この定義を考えればすぐにわかるのだけれど、どこかの国の経常黒字はどこかの国の経常赤字に対応している。上の図はバブル崩壊前の2007年の経常収支のGDP比である。ドイツ、中国、日本などが経常黒字国で、アメリカなどが経常赤字国であることがわかる。

たとえばアメリカに日本の会社が2万ドルで自動車を売ると、この会社は2万ドルを手にする。これはアメリカの中央銀行が発行したドルという債券に投資したと考える。また、このドルでアメリカ国債を買ってもいいし、アメリカの株を買ってもいい。日本円に戻せば、日本円を売った人がこのドルを持つことになる。このような外国の債券や株への投資の収支を資本収支という。これもちょっと考えれば次の関係が成り立つことがわかる。

 経常収支 + すべての資本収支 = 0

つまりアメリカが莫大な経常赤字を計上するということは、同じ金額をアメリカにせっせと投資していた国がたくさんあったということである。これは具体的には経常黒字国の中国や日本の莫大な外貨準備として積み上げられたりしていた。当時、アメリカはこのように世界中からお金を集めて、そのお金を世界的な金融業により世界中で運用するという金融立国のビジネス・モデルが上手く回り、大変経済が好調であった。アメリカの金融資産の価値がどんどん上がるので、強いドルをある意味で歓迎していたのである。アメリカのドルが強くなるので、さらに世界中からモノやサービスを買える。アメリカの経常赤字が拡大するとともに、日本などの輸出国は景気がよくなっていた。そしてその経常赤字をファイナンスするため、世界中からアメリカにお金が集まっていた。それによってさらにアメリカの金融資産が値上がりした。こうして世界の経常収支、あるいは資本収支のインバランス(不均衡)が世界的に拡張していった。これがグローバル・インバランスである。

また、上のグラフをみると、アイスランド、ギリシャ、スペインなども突出して経常赤字が大きいことがわかる。これらの国にも見かけの高いリターンにより世界中から投資資金が流れ込んでいたのである。ちなみに日銀のゼロ金利政策による超金融緩和は世界中に潤沢なマネーを供給して、これらの国の住宅価格高騰などのバブルの発生に一役買っていた。

しかしこの巨大なグローバル・インバランスがアメリカのサブプライム・ローン問題をきっかけに破裂すると、すべてが逆回転しはじめたのである。アメリカの持続不可能な経常赤字が急激に縮小したので、当然のように日本の経常黒字も急激に縮小した。GDPは次の式で表される(経常収支の中の所得収支は無視している)。

 GDP = 民間消費 + 民間投資 + 政府支出 + 経常収支

経常収支がシュリンクした日本でGDPが急落した。これがアメリカのサブプライム・ローン問題と無関係だった日本の経済が大きく落ち込んだ単純な理由である。また、アイスランド、ギリシャ、スペインなどの経常赤字国(過剰債務国)のバブルもアメリカと同様に破裂したのである。アメリカの金融危機は文字通り世界同時金融危機となったのである。

そして現在も世界はこのグローバル・インバランスの調整プロセスがつづいているのである。経常赤字国、つまり過剰債務国は、債務返済のために消費や投資を控えなければいけない。そのため資金需要が落ち込み、アメリカやヨーロッパの金利が大きく低下する。日本の金利は最初からほとんどゼロで低下余地がないので、欧米諸国と日本の金利差は一気に縮小した。そして教科書通りにドルやユーロは円に対して切り下がっていった。このように安くなったドルやユーロは欧米諸国の輸出を増加させ(日本の輸出を減少させ)グローバル・インバランスを是正していく。最近の円高もこのような世界の大きな流れの中にあっては、多少の介入をしたところで簡単に動かせるようなものではないことがわかろう。

日本のような成熟した先進国は、工場で作ったものを欧米に売って外貨を稼ぐというような途上国型のモデルから産業構造を変革しなければいけないのである。筆者は、いっそのことバブル崩壊前のアメリカのビジネス・モデルを真似して強い円政策で金融立国を目指してみてもいいのではないかと思うがどうだろうか。法人税、所得税などの税制や金融規制を改正して、世界中から金融人材を呼び込み、アジアの金融センターに返り咲くまたとないチャンスなのだけれども。

参考資料
為替介入で円高を阻止しろと簡単にいうけれど – 藤沢数希、アゴラ
はっきりいうと今は円高ではない – 藤沢数希、アゴラ
なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学、池尾和人、池田信夫
国際金融論講義、深尾光洋

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑