為替介入で円高を阻止しろと簡単にいうけれど - 藤沢数希

藤沢 数希

USD/JPYは85円(1ドル=85円)を下回る水準まで下がってきている。そこで輸出企業の多い日本では、財務省や日銀が為替介入をして円高を阻止せよ、という声が日増しに高まっている。そこで今日はそもそも為替介入とは何かということを簡単に説明することにする。


まず日本の為替政策は財務省の管轄で、日銀が独自に為替介入をすることはできない。もちろん実際にドルやユーロを売買するのは日銀だが、それは財務省の指示に従ってやることになる。それではドルに対して円を安くしたい、つまりUSD/JPYを買い支えたいということになったらどうするかというと、日本円を売ってドルを買うわけだ。そこでまず日本円を用意しないといけないのだが、これは財務省が政府短期証券、つまり満期の短い国債を発行して市場から調達する。政府短期証券を1000億円売りだして、それを民間の銀行が1000億円買えば、財務省は日本円が1000億円手に入る。逆に民間は1000億円吸い取られる。それでこの1000億円を使って日銀のトレーダーが民間の銀行に円売りドル買いの注文をガンガン出す。そうすると財務省は1000億円分のドルが手に入る。ざっと12億ドルぐらい。基本的にドルを買えばドルがマーケット・インパクトで上がっていくから(円が下がっていく)、円安に誘導できるだろうというのが為替介入の仕組みだ。

本当かどうかは自明ではないが、日本経済は円安の方が良いと信じられている。日本は輸出産業が多く、また輸出産業の方が政治力も強いので、日本で為替介入といえばそれは円を売ってドルやユーロを買うことだ。ということで財務省の口座にはドルがたくさんあって、このドルはアメリカ国債になっている。その額はつもりつもって100兆円を超える。これらは外国為替資金特別会計で公開されている。ところで為替介入というのは国民のお金でアメリカ国債を買うことなのだが、郵貯のお金でアメリカ国債を買うなんてけしからんと騒いでいた人たちが、今度は為替介入しろと騒いでいるのは見ていてなかなか楽しい。

さて100兆円もアメリカ国債やユーロなんか買って、それらはドル安、ユーロ安で日本円に対して暴落しているのだから、何が起こったかというと、つまり、30兆円ほどぶっ飛ばしてしまったのだ。国民のお金を。30兆円といえば1年分の税収に匹敵するほどの金額だ。日本国政府は為替証拠金取引は投機的だということでFX業者のレバレッジに規制をかけようとしているが、財務省のやるFXトレードは全てが国債の発行、つまり国の借金でやるのでレバレッジは無限大だ。その巨大なFXのポジションで30兆円もやられて、個人投資家のレバレッジはけしからんといっているのはなんとも趣深い話だ。ちなみにFXというのはゼロサム・ゲームなので、この30兆円はヘッジファンドなどの利益になったのだけれど。

ここまで読んでわかったと思うが、為替介入は(短期)国債で日本円を調達してそれでドルなんかを買うということなので、国が借金して公共事業をするというのと仕組みは実は同じなのだ。つまり為替介入をすると国の借金が増えるのである。あれほど国の借金を批判しているマスコミが、為替介入に関しては何もいわないのはとても不思議だ。

それにUSD/JPYは一日に数十兆円、時に100兆円以上も取引される巨大なマーケットだ。そこで日銀が数兆円分ちょろっとドルを買ったところで実際には何も起こらない。ようするに為替介入というのは「気持ちの問題」なのだ。こんなに円高が進めば日本国政府は黙っちゃいないよ、という態度を示してトレーダーを威嚇するのだ。しかし実際に日本国政府ができることは非常に限られているし、みんなそのことを知っているので、トレーダーが本当に威嚇されるかどうかはわからない。

コメント

  1. yamachan54 より:

    外国債はいずれ日本政府が吹き飛んだときの重石になる効果があるでしょう。1000兆円の借金に対して100兆円の外国債があると考えれば、デフォルトしても円は精々10倍の円安(1ドル850円)ですむ。
    これは本当にすばらしいことだと思います。
    利率の差もすばらしい。利率1%で国債を発行して利率3%の債券を買えば、たとえば1500兆円の借金に対して500兆円の外国債で利払いを合わせることができる。
    日本政府は積極的にキャリートレードすべきです。

  2. mother07 より:

    「ということで財務省の口座にはドルがたくさんあって、このドルはアメリカ国債になっている。」素人なのですいません。お尋ねしたいのですが、なぜドルのまま持たずに、日本政府が換金することは許されない米国債をわざわざ買うのですか?

  3. hogeihantai より:

    一日で数十兆、時に100兆以上も取引されるのは確かですが、その殆どはその日にポジションを手仕舞いするデイトレーディングですから相場には中立です。実際に相場を左右するのは株と同じく実需です。従って数兆円のロングの日銀のドル買い介入は充分効果があります。効果があるからこそ欧米の非難があるにもかかわらず、日銀は過去に何度も介入したのです。

  4. sudoku_smith より:

    現状はマーケットは介入を気にしてないですよね。「やらないよりやったがまし」程度でしょう。
     たぶん、為替介入やリフレ論(インフレ期待)で日銀を非難する人は、こういった「介入するにも資金が必要」ということがわかっておらず、ただお金を印刷すればよい。と思っているのではないでしょうか。ましてやそれが各国の経済状況を基盤にした相対的な関係であり、一国だけでどうにかしようとしてもどうにもならない事を分かっていない。頭の中は江戸時代の鎖国状態なのでしょう。
     いずれにせよ為替や金利はすでに日銀のような中央銀行の手をすでに離れ、市場自身で決まっているのではないかと思います。ですので、その市場を活発にする基盤を整えることが回りくどいけど早道なのではないかな。

  5. 松本徹三 より:

    あまり効果がない上に、どうせ短期間で息切れする為替介入などをするよりも、最近話題に上がり始めた「貯蓄税」を円建ての預金に対してのみ適用し、外貨建ての預金には適用しない事にしてはどうでしょうか?

    そうすると膨大な個人の預金資産が円売り外貨買いに走り、この方がより大きな円安をもたらすことになるでしょう。こうして円安が実現すると、日本の輸出産業を助けて雇用増が実現するのみならず、資産を外貨に転換した預金者は、節税をしただけでなく、若干大きな利息収入と巨額の為替差益を得て、みんな幸せになります。

    円安基調が固まった頃に、預金者は少しずつ円を買い戻し、為替差益で貯蓄税の支払いをはじめれば良いと思います。

  6. qoonnie より:

    そもそも円高ってそんなに悪いのか?
    デメリットばかりが取り上げられるのは変。
    指摘しているように「輸出企業の方が政治力が強い」とかそういう事なんじゃないの。
    大手マスコミもしかり。
    「輸出企業の連中が自分の利益の為に騒いでいるだけです」
    なんて言ったら広告ストップされるから絶対報道しないよね。

  7. enderuku より:

    自衛隊がアメリカのヘッジファンドの株主や社員を皆殺しにすればいいんじゃないでしょうか(´・ω・`)
    国が傾くんだ、戦争でしょこれは。

  8. ナベ より:

    これ読んで反論してhttp://d.hatena.ne.jp/keiseisaimin/20100819/

  9. yossy0346 より:

    反論も何もマスゴミの借金報道はめちゃくちゃだからなぁ。建設国債と赤字債の区別すらついていない。かつて国債が増えるのがそんなにまずいのなら郵便貯金が増えるのはどうなんだ?とあちこちで問うたら「郵便貯金は借金ではなく貯金だからいいのだ」と言われて牛乳吹いたw。
    しかし、日本の外貨準備も少なくとも実効レートぐらいは見て増やしましょうというのはわかる。

  10. jij999 より:

    「為替政策の限定性」に関する議論は野口ゆきおに代表されるように一般人にも珍しいものではないでしょう。一方、藤沢さんのいうように「財務大臣の威嚇発言」は海外投資家の投資行動原理に対し大きなインパクトがあると言われます。これを全くしらなかったのが、前財務大臣の菅総理 笑。

    金融政策と為替政策によって国家というねずみ講主体が輸出産業に補助金をバラ撒いて、米国債で大損こいて(http://www.mof.go.jp/siryou.htm)、やり逃げ・・・・。さらに、エコポイント・環境自動車で輸出産業にこれでもか、というほどのミルクを与える。

    日本人はマクロ経済に関して不勉強で、おまけに、政治経済学的な嗅覚もない。そして今日も騙されるために起きて騙されるために寝るのである。

  11. hinoyojin より:

    昨夜は84円台に突っ込みました。 でも為替介入が気になりますね。
    株もFXも投資って難しいですね。 勉強しなくては!
    分かりやすくて良いサイトですね! 勉強になります。

  12. yamachan54 より:

    松本さんの「貯蓄税」構想は完璧だと思います。
    黙っていれば5年はかかってしまうデフォルトを数ヶ月で実現できるすばらしいアイディアですね。
    貯蓄1400兆円のうち、400兆円流出すれば、ゆうちょ銀行を含む邦銀の買い支えが止まり、自然に赤字国債が止まります。そのとき初めて、社会保障を切るか、税を上げるかの二者択一が議論されるでしょう。
    目先の円高・円安は些少な問題ではないでしょうか。
    為替は結局、国の実力相応のところに収斂するわけですから。

  13. julan より:

    市場から集めた「円」ではなく、輪転機で刷った「円」でドルを買ったら良いのでは?

  14. harappa5 より:

    >市場から集めた「円」ではなく、輪転機で刷った「円」でドルを買ったら良いのでは?

    インフレの可能性は、ありませんか?

  15. hnxyy655 より:

    実は民主党に意見として話をしたのですが・・
    例えば政府紙幣を700兆円規模で発行しておいて備蓄した上で(流通させる準備のみ)政府がトレーダに対し強いメッセージを出すのはどうでしょうか?

    要するに投資家が怖くなって円買いしなくなればいいだけの話なので実際に流通させなくても700兆円規模の政府紙幣がいつ市場に流通するか解らない状態を作っておくだけで強烈なインパクトになると思います。

  16. hca02673 より:

    松本徹三さん、随分古い話なので、今となっては時代遅れかもしれませんが、下記のコメントの基本的な考え方には、いたく同感するのですが、
    、、、、
    >最近話題に上がり始めた「貯蓄税」を円建ての預金に対してのみ適用し、外貨建ての預金には適用しない事にしてはどうでしょうか?そうすると膨大な個人の預金資産が円売り外貨買いに走り、この方がより大きな円安をもたらすことになるでしょう。
    、、、
    いかんせん、これでは、日本中の預金が現金(日銀券)に替わるだけです。
    したがって、資産税を設計する場合には、どうしても現金に対して課税せざるをえませんが、しかし、現金に課税する場兄は、金融政策になりますので、問題が生じると思います。

  17. requiosld より:

    中国は単独介入で、効果を上げている。