参議院予算委員会で、仙谷官房長官が野党側の参考人として出席した経産省の古賀茂明審議官を「はなはだ彼の将来を傷つける」と恫喝した問題は、決算委員長が仙谷氏に異例の注意をするなど、波紋を広げている。
この問題は、今に始まったことではない。古賀氏は国家公務員制度改革推進本部事務局に出向したが、彼の出した改革案が「過激」だとの理由で、昨年12月という異例の時期に経産省に戻された。それ以来10ヶ月あまり「官房付」という窓際ポストに留め置かれ、今年の夏の人事異動では大手企業への天下りを打診されたが、彼がそれを拒否したため、望月事務次官から「10月末までに勇退しろ」といわれたそうだ。
古賀氏は今年の6月に『週刊エコノミスト』で民主党の公務員制度改革を批判し、その後も9月の『週刊東洋経済』に「民主党政権『脱官僚』というウソ、国民の期待を裏切る天下り規制の骨抜き」と題する論文を発表した。これがみんなの党の目に止まり、参考人として国会に呼ばれたわけだが、昨年まで行政刷新担当相として彼の上司だった仙谷氏は、飼い犬に手を噛まれた気分だったのだろう。
自民党時代には、こういう事件はよくあった。政治家が官房長に官僚を名指しで「あいつを何とかしろ」と指示し、それに従って懲罰人事や懲戒処分を行なうのは日常的だった。たいていの場合は正論をいって政治家の機嫌をそこねたケースなので、内閣が替わると元のポストに戻されたりした。私も経産省の研究所にいたとき戒告処分を受けたが、同僚に「キャリアなら一度や二度は訓告ぐらい食らっている」と慰められて驚いた。
ただ古賀氏のような懲罰人事は、懲戒処分より重い。さらに再就職先のない「肩たたき」は、生活の場を失うだけに深刻だ。彼は再就職先をさがしているそうだが、こういう形で職を失うと、引き受ける民間企業はまずない。役所の報復を恐れるからだ(仙谷氏はそれを露骨に脅している)。そしてこのような懲罰を恐れる若い官僚は自由にものをいえなくなり、前例踏襲と既得権の保護が横行するわけだ。
だから問題は、官僚が個人的に利権を漁ることではなく、このように硬直的で政治的圧力に弱い官庁の人事制度にある。天下りも、年功序列の横並び人事の結果であって原因ではない。その意味で今回の仙谷氏の行動は、民主党が自民党の最悪の部分を継承したことを示している。私は7月に小泉元首相が詠んだ川柳を思い出した。
自民党らしさ出てきた民主党 小泉純一郎
コメント
>問題は、このように硬直的で政治的圧力に弱い官庁の人事制度にある
問題は人事制度ではなく、人事権行使者に対する対抗勢力が無いことにあると思います。(民間企業は労働組合が不当人事を監視している。労働組合の仕事は春闘だけではない)
権力は暴走するものです。人事制度をどのように変えようと人事権と言う権力もまた暴走することでしょう。