米国の終わりの始まり

2010年11月05日 08:55

バーナンキは何を求めているのか。

米国中央銀行FRBは、FOMCで長期国債の追加買入を決定した。規模は6000億ドル。これを2011年6月末までに実施するという時期を明確化したために、単月でのフローでの購入規模が確定したこと、そしてその額が国債市場で大きな割合を占めること、さらに6月末までは、この政策が継続することで、フローの国債買取を止めることは起きないと見込まれること、この3点により、市場には大きなインパクトをもつこととなる。最後の点は、FOMCメンバーが入れ替わることが予定されており、新メンバーは、量的緩和拡大に慎重な考えを持つ者が多いと予想されていることから、今後の政策の方向性転換を市場関係者は危惧していたので、これを払拭するという効果がある。


したがって、事前に予想されていた規模とほぼ同じ(平均的な予想を2割程度上回る。しかし、2週間前までは、極端な拡大を期待していた(1兆ドルや2兆ドル)市場関係者もいた)ことから、それほどのサプライズはなかったものの、量的緩和の拡大が実現したことにより、米国資産市場の流れはほぼ決まった。

日本の市場関係者やメディアは、これを絶賛している。それに比べ、日銀がふがいない、という失望と、日銀もこれに追随すべきだ、というプレッシャーが市場を渦巻いている。今日の午後(原稿を書いている時点は11月5日午前8時)には、日銀の政策決定会合での政策変更の決定がアナウンスされるはずであるが、私は少し心配している。

日銀は、米国FRBに追随するべきではない。なぜなら、米国の金融政策は長期の衰退への道を自ら選んでいるものだからだ。

FRBの量的緩和、米国債買入で何が起こるか。市場に資金が余る。資金があまるというが、これは市場という匿名の主体が保有するものではなく、ある特定の実在する投資家が保有するマネーだ。このマネーは世界へ飛ぶ。インフレ懸念、資金余剰、国債利回り低下により、米国国内資産市場へも資金が流入するが、まともな投資家なら、米国よりも新興国、次の新興国候補(アフリカ、中央アジアなどを含む)へ資金を移す。どんなに保守的な投資家でも、少なくともリスク分散の観点から、米国で膨らんだ分は、ほかの国へ移す。資金余剰からリスク許容度が高まるということは、米国国債以外へ資金が流れやすくなることであり、米国内よりは国外に流れるということだ。
それなら、国内景気も世界景気もよくなり、世界的好景気の恩恵は米国にも還流し、好循環ではないか、と思うかもしれない。

それは罠だ。

世界は成長し、各国はウインウインになると思われているが、そうではなく、常に世界は有限でゼロサムゲームなのだ。少なくとも政治力は違う。覇権という絶対的な権力とはあくまで相対的な力により成り立っている。

つまり、世界が成長し、米国も成長するが、世界の成長率の方が高い場合、経済の覇権は、米国から失われていく。されに、重要なのは、資産バブルが起きたときに、成長経済では、実体経済へのプラスのスピルオーバーがある。金利低下、リスクテイク増加により、実需で投資やチャレンジが生まれ、実体経済の新分野、新プレイヤーがテイクオフする。米国、成熟経済は、実体経済の投資機会が限られており、既存のプレーヤーが防衛に走るから、このスピルオーバー効果はきわめて限定的となる。そして、実体経済にスピルオーバーしなければ、金融市場に還流し、さらなるバブルを作る。リーマンショック前の金融資産バブルの再来だ。

相対的に新興国実体経済が浮上すれば、経済的覇権は新興国あるいはその連合に移り、経済的覇権は政治的覇権、外交の力となっているから、それは世界的な権力移動が行われるということだ。

これが誰の眼にも明らかになるころには、バーナンキは死んでいる可能性が高く、少なくとも、人々から忘れられているだろう。いわんや、バーナンキをけしかけている市場の声という匿名性に隠れた特定の投資家たちは、食い逃げを完了させているし、おそらく、新興国の新たな覇権に寄生していることだろう。

日本は、そもそも覇権などない。小さく内需拡大、国内景気をちょっとだけ回復させればいいのだ。覇権を持っている米国とは違う、と言うだろう。

そのとおりだ。日本は米国とは違う。だから、米国金融政策に追随する必要はないのだ。

すべてを捨てて国内景気を浮揚する必要はない。覇権を持っていないのだから、新しい世界で、その覇権から最大限の経済的利得を得る方法を考えればいいのだ。量的緩和をけしかけるほど、世界を制覇できるような資本を持った投資家などいないのだ。だから、量的緩和にバイアスをかける必要はない。

奇しくも欧州中央銀行ECB総裁トリシェは昨日こういった。「ECBはFRBとは違う。ECBにはECBの役割があるのだ。」

白川総裁に期待する。

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