「光の道」と電力系の通信会社

2010年11月15日 10:00

私はこれまで「光の道」関連で無数の記事をアゴラに掲載してきましたが、ケイ・オプティコムに代表される電力系の通信会社の言い分に対する反論は、まだ一度もしていなかったことに気がつきましたので、今日はそのことを書きます。またまた大変な長文になってしまいましたが、我慢してお読み頂ければ幸いです。


もともと1985年に民営化されたNTTが誕生し、あらゆる分野での競争が促進されようとした時、長距離電話会社には、第二電電(DDI)、日本テレコム、日本高速通信(テレウェイ)の3社が参入し、競い合うことになったのに対し、アクセス回線会社には、各地域の電力会社以外には参入者はいませんでした。それも当然で、明治以来、電柱を伝って電線を這わせ、これを全ての建物の中に引き入れる仕事をしてきた電力会社は、その分野ではNTTよりも先輩格だったわけで、他にはそんな芸当の出来る会社は存在しなかったからです。

電力会社が地域ごとに分かれている為、電力会社系の通信会社も当然地域毎に分かれました。大きな事業者としては、東京電力系のTEPCOと関西電力系のケイ・オプティコムが双璧でしたが、TEPCOの方は2007年にKDDIに吸収されました。これに対してケイ・オプティコムの方は売上高1346億円、従業員1009人(2010年3月期)の堂々たる通信会社として存続しています。

メタル回線による電話サービスから出発して現在光回線への移行を進めているNTTと異なり、電力会社系の通信会社は始めから光通信の会社です。(もともと自社内の通信を光ファイバーで行うことから始まっており、TEPCOはこれを1978年にはじめていますから、この点でも恐らくNTTより先輩でしょう。)ISP(インターネットサービスプロバイダー)や長距離電話会社、携帯通信事業者、更には大企業向けに専用回線を貸し出す事業が収益の柱のように見受けられますが、地域によっては直接各家庭までアクセス回線を繋ぎ込み、NTTの「フレッツ光」と同等のサービスを行って、真っ向から競争しています。

例えば、ケイ・オプティコムの「eo光ネット」は、ウェブサイトを見ると、プロバイダー料込みで月額4900円、「eo光電話」とセットにすると5200円、更に「eo光テレビ」とセットにすると25チャンネルで5700円、68チャンネルで7900円となっていますが、キャンペーン価格では非常に安い値段も出ており、NTT西の「フレッツ光」より競争力がありそうです。それもあってか、滋賀県や奈良県では、ケイ・オプティコムの方がNTT西より光回線サービスのマーケットシェアが高くなっていると聞きます。

実は、ここに「光の道」構想に対する一つの難問が存在します。先ず、ケイ・オプティコムは、「光の道」が実現した時には自分達のビジネスがどうなるか不透明ゆえ、当然ながら「絶対反対」の立場です。(「とにかく、今のまま何も変らない方がよい」という事なのでしょう。)次に、ケイ・オプティコムが滋賀県や奈良県ではNTTよりうまくやっているという事実が、「放っておいても、やり方次第でアクセス回線の独占は回避できるし、サービス競争だけでなく設備競争があり得るのなら、その方が良い」という議論を勇気付けています。

KDDIは、一方ではソフトバンクと同様、NTTに対する警戒心はきわめて強い筈です。(KDDIにはとても出来ない「全国展開」で「規模の利益」を手中に収める一方で、光アクセス網からNGNへ、NGNからIPv6へと、数珠つなぎで「技術的な囲い込み」をされると、手に負えなくなるという恐怖心が当然あって然るべきだからです。)しかし、一方では、TEPCOを買収し、大手ケーブルTV会社を次々に傘下に収めつつある現状は、「覚悟を決めて設備競争に踏み切った」とも言えるので、ソフトバンクとは戦略を大きく異にするとも言えます。

こうなると、業界では、ソフトバンクのみが孤立しているかのようにも見えるかもしれません。(現実に、「光の道」がソフトバンクの思惑通りには進むはずがないと考えている人達の多くは、この事を大きな論拠の一つにしているようにも思えます。)しかし、この事については、もっと深く考えてみる必要があります。

一言で言えば、電力会社系の通信会社の「光の道反対論」には、「利用者の観点に立っていない」という弱点があるように思えますし、また、一方では、彼等が「光の道」と共存する事、更に言えば、それを更なる発展のバネにする事は、十分可能だと思えるからです。

先ず、ケイ・オプティコム等の一部の人達が主張する「設備競争論」は、耳には当たりがよいのですが、実際には大きな疑問もあります。

「競争」は何故良いことなのでしょうか? それは、「ユーザーに、より良いサービスを、より早く、より安く提供する」という目的の為には、「競争が極めて有効だ」と理解されているからです。つまり、「競争」は「手段」であって、「目的」ではありません。もしも「競争」の為にサービスの提供が遅れたり、高いものについたりするなら、それは「良い競争」ではなく、「悪い競争」だと言えます。

どんな自由競争論者であっても、「水道管を二本並べて敷く」といったような競争が有用だとは言わないでしょう。飲食店などが密集していて、需要が極めて高そうな場所では、水道管を二本並べて敷くような競争をしても、或いはお互いに商売が成り立つかもしれません。しかし、これでは、全体で見ると二重投資になりますから、本来ならもっと安く出来た筈のサービス料金は高止まりしてしまいます。

一方、過疎地では、二つの水道業者が競争していても、そのどちらも、水道管の敷設なんかしないでしょう。商売にならないからです。結果として、その地域の住民は、これからもずっと、水道ナシの生活を余儀なくされますが、そんなことがあってよいと言う人は誰もいない筈です。つまり、水道事業のような場合は、自由競争、設備競争は、マイナスにこそなれプラスにはならないという事を、誰もが認めるだろうという事です。

電力事業は、現在は「一地域・一事業者」です。「電力供給の自由化」が今盛んに言われているが、それは、「余った電力を足らないところで自由に売れるようにする」という事であって、「電線を並行して敷く競争をする」という事ではありません。電線自体は、勿論、今使われている既存の電線を使うのです。

私は、「通信事業も、線路のところは水道管や電力線と全く同じであるべきだ」という事を、再三申し上げていますし、「同じ場所に光回線を二本並べて敷くような競争は、済んでしまった所は仕方ないが、今後はすべきではない」と思っていますが、それは、全体としてコストアップになり、ユーザーの為には全くならないからです。

次に、ケイ・オプティコムは、「そんな事になれば、自分達の存続が脅かされる」という事をよくおっしゃっておられますが、これは「供給者側の論理」であって、「需要者側の立場」は全く無視されてしまっています。

かつて、ソフトバンクが「8分岐まとめ買い」を条件とするNTT東・西の光回線の卸売りのやり方について、「公正競争を阻害する」として変更を求めた時に、これに最も強く反対したのはケイ・オプティコムでした。そして、その理由は、「バラで卸売りされた光回線を使って、安い値段で通信サービスを行う会社が出てくると、自分達の存続が脅かされる」という事でした。こうなると、総務省が心穏やかでいられるわけはなく、結果として「8分岐問題」は「変更なし」という事で決着してしまいました。

しかし、この措置は、果たして正しかったのでしょうか?

ケイ・オプティコムの場合がそうだと言っている訳ではないので、誤解しないで頂きたいのですが、仮にある会社(A社)が採算的にあまり合理性のないやり方で回線を敷いてしまったとしましょうか。当然ユーザー価格は高止まりせざるを得ません。そこに別の誰か(B社)が、もっと合理的なやり方で回線を敷設する方法を考え、総務省に事業免許を申請したとしましょう。総務省は、「B社に免許を与えたら、A社が立ち行かなくなるかもしれないから」という理由で、B社への免許交付を逡巡してよいのでしょうか?

上記に関してだけ言うなら、「ユーザー価格は高止まりしてもよいから、通信事業者の利益を守るべきだ」と考える人はまずいないでしょう。しかし、もっと微妙な問題になると、判断はかなり難しくなるのが実情でしょう。「ユーザーの利益を代弁する」立場と「事業者の健全な発展を助ける」立場の板ばさみになった監督官庁は、対応に苦慮することになります。

いや、ずばり言うなら、少なくともこれまでなら、こういう場合、「監督官庁は事業者の立場に立つのが普通だった」と言ってしまってもよいでしょう。事業者の顔は毎日見えているのに対し、一般ユーザーの顔は見えないからです。

しかし、これこそが、監督官庁がいつも自戒していなければならないことなのだと思います。たとえ「癒着」のような事は一切ないとしても、毎日接触のある事業者にはどうしても甘くなり、その分ユーザーに対する配慮が浅くなる傾向がある事は、常に否めないという事です。(日本においては、全般的に物の値段が高止まりする傾向があるが、その一因はこんなところにもあるのかも知れません。)

さて、それでは、「光の道」と、電力系の光通信事業者(KDDIはその一部でもあります)とは、どのようにすれば折り合いをつける事が出来るのでしょうか?

先ず、これらの事業者も、自分達で回線まで敷いて競争する自信がないところは、「アクセス回線会社」の回線をどんどん利用していくべきだと思います。「光の道」構想が実現すれば、「アクセス回線会社」の光回線は、誰でもが、みんな全く同じ条件で借りることが出来るようになるからです。つまり、電力系の通信事業者は、「アクセス回線会社」の回線を借りるか、自分で回線を敷設するかを、いつでも全く自由に決められるという事です。

次に、電力系の通信事業者は、当然、今まで通りの営業を、何の支障もなく継続することが出来ます。「光の道は設備競争の否定だ」と誤解している方も多いようですが、そんなことは全くありません。「光の道」構想は、「もうこれ以上無駄な設備競争はやめませんか?」と言っているだけであり、既に電力系の通信会社の設備が打たれていて、競争が実現しているところでは、そのまま競争を続ければよいという事です。

現在のソフトバンクの提案では、「アクセス回線会社」には、現在のNTT同様、国が40%程度の株を継続して保有することになりますが、別に国の補助金が投入されるわけではありません。また、この会社は、自ら通信サービスを直接顧客に提供するわけではなく、NTTの残存部門(通信サービス会社)やソフトバンク、その他の通信事業者がこの回線を借りて顧客にサービスを供給する訳ですから、全てを一気通貫で提供する電力系の通信会社の方が有利に立つ事はあっても、特に不利になる事はない筈です。

「アクセス回線会社」のウリは、メタル回線との二重構造を一気に解消して合理化を計ることですが、電力系の通信事業者は最初から光回線一本なのですから、最初から合理化が為されているとも言えます。従って、現時点で償却がある程度進んでいる地域なら、「アクセス回線会社」に比して、コスト構造上特に遜色があるとは思われません。

このように考えると、電力系の通信会社が、今後とも経営の合理化に努めて、「アクセス回線会社 + NTT(又はソフトバンクなどの他の通信会社)」と真っ向から競争していこうという意欲がある限りは、現在NTTと競合している状況以上の不利が生じることは、全くないと思います。

それどころか、新たに回線を敷設することが採算上難しいと思われる地域についても、「アクセス回線会社」の回線を積極的に利用して営業規模を広げ、業容の拡大を計ることが出来る様になるので、状況はむしろ良くなると思うのですが、如何でしょうか? もしそう思われないのなら、「かくかくしかじかの理由で、競争上不利になる」という事を、数字で示してご説明頂くべきと思います。

長くなりましたので、今回はこれまでとし、次回は、ケーブルTV会社と「光の道」の関係について述べます。

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