「光の道」とケーブルTV会社

2010年11月16日 09:25

前回の記事ではケーブルTV会社の利害について語れなかったので、今回はそのことについて書きます。

時折申し上げているように、私自身の「光通信に対する思い入れ」は、今から17年以上前の1993年頃にまで遡りますが、それは、実はケーブルTV会社の将来について、自分なりに色々思い悩んだ結果の事だったのです。


当時の私は、伊藤忠の通信事業部長として、タイムワーナー、USウエスト、東芝と合弁で、後にJACOMと合併することになるTITUSという日本第2位のケーブルTV会社の立ち上げに奔走していました。また、当時の私は、一方では、米国で始まろうとしていた「直接衛星放送(CS放送))」のコンセプトにも心を奪われており、後のスカパーのベースとなるビジネスモデルを一人で考えていたところでしたから、「ケーブルTVが衛星に対抗する為には、双方向でなければならず、電話やインターネットを包含した『トリプルプレイ』を狙わなければ駄目だ」と考えていました。

「トリプルプレイ」の考え方は極めて魅力的でしたが、パートナーだった当時のタイムワーナーは「フルサービス・ネットワーク」という方向性の違ったことを考えていました。それ故、私は、「このままではタイムサーナーと衝突することになるのではないか」とひそかに恐れていましたが、それ以上に心配だったのがNTTの事でした。「NTTが将来電話回線を光回線に張り変え、これで映像配信も意のままにやるようになれば、ケーブルTV会社はとても太刀打ちできないのではないか」と心配していたのです。

ケーブルTV事業は、都市部では「難視聴対策」に、地方部では「地域外再送信」に助けらましたが、米国と異なりケーブルの敷設工事自体に膨大な金がかかる事などから、決して容易な仕事ではありませんでした。特に潜在顧客が多数存在するマンションへの売り込みには大変苦労しました。建物の中にケーブルを引き込み、各戸までくまなく配線する為には、理事会にお願いして住民の何割かの賛成を取ってもらわなければならなかったからです。

これに対して、全てのマンションに電話線を敷設済みのNTTなら、「現在の銅線を新しい光回線に張り変えます。今の電話機のままでよい人は何も変わりません。新しい映像サービスなどを希望される方は、追加料金で色々なサービスが受けられます」と言って営業すれば、「古くなった水道の鉄管を新しいプラスティック素材の管に変えます」と言うのと同じで、誰も反対しないでしょう。また、実際の工事に当たっては、既存の管路をそのまま使い、新しい光ケーブルでこれまでの銅線を押し出していくだけでよいので、全てが簡単、安価に出来るでしょう。そう考えると、心配性の私は、ケーブルTV事業の将来についてなかなか楽観的になれませんでした。

実際には、その頃には光ファイバーのコストも未だ高かったし、NTTは放送事業分野に手を出すことを固く禁じられていましたから、私の心配は杞憂に過ぎませんでした。しかし、それから15年以上の歳月を経た今となっては、既に事情が少し変わってきており、将来がどうなるかについては全く読めません。

私がもし今もなおケーブルTV業界にいたら、総務省に働きかけて、「NTTには絶対に放送と対抗するようなサービスを許可しては駄目だ。NGNが自由に何でもやり始めたら、我々の存続が脅かされる」と主張するかもしれません。しかし、それでは、ユーザーの立場を無視して、進歩を押し止める事になってしまいます。「誰がやるにせよ、ユーザーにとって一番利用価値の高い回線が最低のコストで実現出来るのに、供給者側の利害の為にそれを禁じてよいのだろうか?」と、私は深刻に思い悩まざるを得なかったでしょう。

ケーブルTV会社が、現時点で、「取り敢えずは光の道には反対」という立場を取るのは、理解出来る様な気はします。どんな影響を受けるかがよく読めず、何となく不安だからです。しかし、それでは、彼等はどのような長期的な展望を持っているのかといえば、私にはよく分かりません。

ところで、ケーブルTV会社の事を考える時には、常に「大手」と「中小」に分けて考えなければなりません。この両者は、本質的にずいぶん異なった立場だからです。

筆頭株主の住商に加えて、KDDIが最近大株主になったJACOMなどの大手事業者は、多チャンネルTVサービスで経費を賄った上に、電話とインターネットサービスの収入が加算されるので、現状は良い収益構造が得られています。しかも、多くのところで既に同軸ケーブルを光ケーブルに置き換えてしまっていますから、前回述べた電力系の光通信会社同様、NTTと競合して既存の顧客ベースを守ること自体は、さして難しくはないかもしれません。

しかし、だからと言って、NTTに対する恐怖心が完全に払拭出来るわけでもないでしょう。かつての私が心配したように、NGNがフルに動き出すと、「全国カバーの規模の利益」を生かして、どんな新サービスを打ち出してくるかも分からないからです。「光の道」の場合と異なり、NTTの場合は、回線の提供とサービスの提供が一体化していますから、新規にケーブル敷設をしなければならないところでは、太刀打ち出来そうにありません。

現時点でさえ、NTTの代理店の中には、「ケーブルTVは時代遅れで、やがてなくなる。これからは全国をカバーするNGNの時代」と言って営業する人もいるそうですから、営業面でも何と言われるか分かりません。それを考えると、サービスの提供と回線の敷設工事が完全に切り離され、誰もがハンディキャップなしで競争できる「光の道」の方がまだマシでしょう。(自分達も必要に応じて「光の道」の回線を何時でもどこでも使うことができるからです。)

しかしながら、地方の中小ケーブルTV会社の立場は、これとは随分異なるでしょう。これからユーザーの要求が益々多様化し、光回線でなければとてもサポート出来ないという状況になると、自力で現在の同軸ケーブルを光ケーブルに張り替えることが困難な彼等は、より深刻な事態に直面することになります。

しかし、ちょっと違った考え方をしてみると、実は、むしろ逆なのかもしれません。「光の道」は、彼等にとっては、或いは「救いの女神」となるかもしれないのです。事ここに至れば、今はその事をこそ真剣に考えてみるべきだと思います。

地方のケーブルTV会社の経営の実態を見ると、当初は「地域住民向けの自主制作番組」が鳴り物入りで喧伝されたものの、これは採算を取るのが極めて難しいことがすぐに分かり、結局は、「難視聴対策」「域外再送信」「多チャンネル放送(ロングテール)」の三本柱で支えられています。地方においては、地上波放送のチャンネル数が少なく、民放キー局の番組が全て見られるわけではありませんので、「域外再送信」が特に威力を発揮しています。

しかし、放送の完全デジタル化が完了し、放送と通信の融合が促進されてインターネット系の映像サービスが拡充されてくると、政治的配慮の賜物ともいえる「地域外再送信」の威力に、何時まで頼ることが出来るかは全く不透明です。

多チャンネル番組については、「HOG(head-end on the ground)」と呼ばれるアグリゲーション会社に依存できるので、負担があまりないのが救いになっています。しかし、HOGはNTTや電力系の光通信事業会社にもサービスを提供するので、これは両刃の剣です。

つまり、将来全てが自由化され、「TV、インターネット、電話のトリプルプレイ」での競争が一般化した暁には、これらの中小の地方ケーブルTV会社は、NTTや電力系の通信会社には抗すべくもないのです。筵旗をたてて総務省に働きかけ、NTTや電力系の光通信会社に圧力をかけてもらっても、総務省の配慮は短期的且つ限定的な執行猶予にとどまるでしょうから、抜本的な解決にはなりません。総務省とて、地域の住民に何時までも犠牲を強いるわけには行かないからです。

このように考えていくと、実は、地方のケーブルTV会社こそが、巨大な通信会社の支配から外れた中立的な「アクセス回線会社」を、自らの生き残りの為に、積極的に利用する事を考えるべきだと私は思います。今から積極的に「光の道」の議論に参画し、その運営について、色々な条件をつける交渉をしていくことが肝要だと思うのです。

地方のケーブルTV会社は、初心に戻り、地域に密着した自分達の強みを徹底的に追求する道を考えるべきです。自主制作番組は高くついてどうにもなりませんでしたが、自らをあらためて「地域密着型のインターネット・サービス・プロバイダー」と位置づけ、UStreamのノリで格安の番組を作っていけば、或いはここで差別化が出来るかもしれないからです。

「アクセス回線会社」が作った光回線をそのまま同じ条件で使えるのですから、インターネットサービスでは、NTTにもソフトバンクにも別に引けを取ることはありません。「電話はNTTのサービスをそのまま使わせてもらう」という程度の特権なら、ユーザーの利益を害するわけでもなく、総務省も大手通信事業者も目をつぶってくれる可能性はありますから、これを勝ち得れば、「トリプルプレイ」も可能となります。

大、中、小を問わず、全ての事業者にとって、自らの存続は何事にも代え難いものです。しかし、時代の流れに抗って生き残ることは、何れにせよ不可能なのですから、むしろ時代の流れに乗って大きく転進していく事こそを、誰もが常に考えていくべきだと私は思います。

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