いくら日米同盟強化をしても、日本に独自の魅力がないと外交力は増さない

大西 宏

ソウルで開かれたG20、また横浜でのAPEC開催期間で感じたのは、世界が大きく変化してきたこと、また流動化しはじめたことです。欧米の影響力が驚くほど低下してしまったこと、さらに中国の影響力が増してきたこと、また国際間の利害対立の構造が複雑になった現実をまざまざと見せつけられました。もうひとつ加えると、経済の弱体化は、外交力が著しく落ちることでした。


G20は、通貨安戦争にまずは歯止めをかけることでの合意があったことは成果だとしても、オバマ大統領が狙った中国の人民元の切上げや、経常収支の赤字と黒字を国内総生産(GDP)の4%以内に抑える厳密な数値目標の設定にも、貿易の不均衡はアメリカの自国の問題だと中国からあっさり足蹴にされてしまいました。

それどころか、人民元安の政策を取っている中国に向かうはずの批判の矛先が、むしろ、米国の量的緩和政策にむかったばかりか、主催国の韓国とのFTAすら、停滞させてしまい、ウォルストリートジャーナル紙が露骨なオバマ大統領への批判社説まででる始末です。

オバマ大統領が、アメリカの影響力は損なわれていないとわざわざコメントしたようですが、そうコメントせざるを得ない状況に追い込まれたということでしょう。
世界の金融システムももはや米国一国が支配できる時代ではなくなり多極化してきていることを感じます。G20は「合意しないことを合意」(G20 leaders agree to disagree)という腐肉な言葉をワシントン・ポストが使っていましたが、簡単に合意が取れる時代ではなくなっています。

【社説】ソウルG20で赤っ恥

横浜で開催されたAPECも域内の経済連携の促進や成長戦略の実行などに取り組むことを柱とした首脳宣言「横浜ビジョン」が採択されたとはいえ、まだ具体性があるとはいえないままに終わったという印象を受けます。

今月に入って起こったことといえば、中国の胡錦濤主席がフランス訪問を行い、わざわざサルコジ大統領が丁重に迎えたとか、英国のキャメロン首相が英国を代表する企業からなる過去最大規模の訪中団を率いて北京を訪問したとか、オバマ大統領がインドを訪問して、営業に勤しんだとかありましたが、各国共に経済の先行き不透明な状況に自国の目先の利益を求め、なりふり構わず政治家がセールスに走り始めました。
このタイミングで英国首相が中国に熱い訪問(大西宏のマーケティング・エッセンス)
さらに中国が、あれだけ中国新疆ウイグル自治区ウルムチで起きた大規模な民族暴動に対して「虐殺だ」と激しく中国を批判していたトルコと1週間にわたる共同突撃訓練をやっています。なにが起こるか本当に不透明になってきました。

かつての東西対立の時代は分かりやすかったのですが、現代は世界各国の動きのベクトルが急速に複雑になってきています。

フィナンシャル・タイムスが、「米中の不和は数ある衝突の1つにすぎない」として、「世界を分裂させる7つの対立軸」という記事を掲げていました。実際そうだと思います。

・黒字国VS赤字国(貿易)
・操作国VS被操作国(為替)
・緊縮国VS積極国(財政)
・民主主義国VS独裁国(政治)
・西側VSその他(先進国と途上国)
・干渉主義VS主権主義(国際的な法体制)
・大国VS小国(G20とその他の国)
世界を分裂させる7つの対立軸

米国か中国か、白か黒かではなく、多次元方程式になってしまっているということですが、ふつう、これだけの軸があると、正解はわからなくなるものです。

ただ言えることは、分裂しつつある世界、多極化しはじめた世界のなかでは、付き合う大きなメリットを持っている国が求心力や影響力、さらに交渉力を持ってくることは間違いありません。

それが今は、中国でしょうが、いつまで中国が魅力ある市場、あるいは製造拠点としてのパワーを保てるかはわかりません。しかし中国一国の影響力が増すことには、いずれの国も警戒感を持っているはずです。

日本の新聞各紙が社説で、日米同盟強化をはかることを主張しているようですが、肝心の米国の影響力が低下しているなかで、日米同盟を強化したところで、日中、日ロ問題が解決すると考えるのは甘いのではないかと感じます。

確かに日米同盟は抑止力という「保険」としては確実に機能すると思いますが、肝心の日本が、経済の成長力を失った状態では、付き合うメリットも魅力もありません。付き合うメリットも魅力もない国の発言力も交渉力も当然低下してきます。

解決の本質は、日米同盟の強化をしようがしまいが、日本が、海外の国々にとって、つきあう魅力があるか、海外の国々にとって頼りになるポジションをとれるのかどうかにあるはずです。

日米同盟強化は、まだいくら影響力が低下したとはいえ、やはり世界の経済大国、政治大国である米国を、アジア地域、あるいは環太平洋地域に引き込み、中国一国の暴走を牽制することにはつながるとしても、それで、日本の外交力が増し、領海問題、領土問題が解決するというものではありません。

ODAなどの経済支援では、財政赤字を抱える日本はますます中国に遅れをとってきます。そんなゆとりはもはや日本にはありません。

日本独自の外交の切り札、それはなにでしょうか。それこそ、マーケティングでよく使うSWOT分析のように、日本にとってのチャンスはなにか、また脅威はなにか、日本が強みにできるのはなにで、克服すべき弱みはなにかを整理し、もっとも日本の独自性を発揮できる道を創造することだと思います。

市場が多様化すればするほど、商品やサービスの魅力ある独自性を持ったブランドは強くなり、独自性をもたないブランドが淘汰されてしまいます。国際社会でも同じことがいえるはずです。

国を開いて、経済交流を活性化し、日本の民間資本が海外により積極的に投資されること、また成長戦略、技術とビジネスのイノベーション戦略に国をあげて本気で経済のダイナミズムを取り戻すことを追求する中で、きっとなにが独自の強みになるかも見つかってくるものと思います。

株式会社コア・コンセプト研究所
大西 宏