情報共有と情報秘匿 - 原淳二郎

原 淳二郎

尖閣ビデオは海上保安庁の情報システムの共有フォルダに保存され、海上保安官ならだれでも見られる状態にあったことが分かった。そのビデオが秘密に当たるかどうか議論があるところだが、情報がなぜかくも簡単に流出したのか、情報流出の意図、目的などに関心が集まっている。だが情報共有と情 報の秘匿は一枚の紙の両面。多くの人が情報を共有すればそれだけ秘匿は難しくなる関係にある。どなたかも書いていたが、同じ海上保安庁のビデオで北朝鮮の不審船、シー・シェパードのビデオは公開されたのに、尖閣ビデオはなぜ公開されないのか。公開、非公開の基準がまずあいまいである。


海上での監視や警戒活動のビデオが海上保安官の間で共有するのは当然といえば当然である。何万キロにも及ぶ日本領海でどういう事件事故がどこでど のように起きたのか瞬時に映像で確認できたら、応援に駆けつける時、どういう準備、どういう装備が必要なのかが分かる。それら映像が巡視船船上で 見られることも重要だ。

巡視船の乗組員全員が映像を共有する必要はないだろうが、作戦の指揮命令、作戦行動に当たる乗組員は見ておく必要がある。アクセス権がきちんと決められていたのなら情報共有に問題があるとは思えない。

マスコミや国会では、ビデオが流出した経路や動機、情報管理の杜撰さ、その責任が焦点になっているが、何が公開すべき情報で何が秘匿されるべきなのか、どこまでが共有すべき範囲なのか、だれにアクセス権を与えるのか、についてには関心がないように見える。大学には学生が利用するリポート提出用情報システムがある。もちろん個人情報保護の観点から学内限りのアクセス制限がある。だれがいつ提出したのか、記録され、教師はリポートにコメントをつけられる。他学生が参照できるかどうか、コメントがつけられるかどうか、担当教師がアクセス権限を決める。私は他学生が何を考え、何をリポートしているのか、参照できれば学生にも参考になると考え、全受講生にアクセス許可をしている。紙でリポートを出していたわが学生時代、友人がどんなリポートを出していたのか知る由もなかった。教授からコメントをもらうこともいっさいなかった。その時代に比べれば格段の進歩である。

尖閣ビデオ問題も、情報共有をすれば沿岸警備は強化され、海上保安官の安全も高まるはずである。逆にアクセス制限を高くすれば、他の保安官にとっ て参考にならないし、勉強にもならない。

海上保安庁のビデオと学生のリポートでは比較にならないといわれそうだが、報道を見る限り、どのようなアクセス管理がされていたのかよく分からない。

情報共有は情報システム本来の機能であり、それができなければ情報システムの効果は半減する。情報漏えいの危険があるという理由で情報共有を制限したり、情報が流通しにくくしたら、角を矯めて牛を殺すことになる。