TPP参加は農業だけでなく、日本そのものを変えるいいチャンスだと思う

2010年11月22日 14:39

あまり各国の関心がなかったAPECで唯一の成果は、日本がTPP参加を検討すると表明したことだったのではないかと思います。
しかし、その後は現役の保安官による尖閣ビデオ流出問題や、法相の軽率発言などをめぐる政局にマスコミや国民の関心が釘付けになってしまい、議論が停滞してきているように感じます。


APECの開催時期には、経済界からは参加推進期待の声が高まり、またお決まりのように農業団体の反対の集会、またそれに呼応するかのように政治家の反対の決起集会がありました。
また経産省や農水省がTPP参加の影響の試算を提出しあったのですが、この問題についての国民的議論が十分に盛り上がらないままに時間が経過してしまっているように感じます。

なぜ、経産省と農水省のTPP参加による影響度の試算が異なったのかに対しても、もっと議論が欲しいところですが、それも断ち切れ状態ではないでしょうか。

とくに農水省は、これまで食料自給率について、カロリーベースで算出し、自給率が40%にまで落ちたという、実態をはぐらかす偏ったキャンペーンを展開してきた前科があるだけに、その試算の妥当性については国会やマスコミでもっと議論があってしかるべきだと感じます。

特に一般に流通する海外の米は値上がりしてきており、日本の米価と差が縮まってきているにもかかわらず、あえて、過去に最も安かったころの輸入米価を使って試算し、TPPで農業の自由化が起こると「国産米が1割しか残らない」としていることは、もはや質の悪い作文であり、悪質な意図を感じます。

これまで、道路や鉄道また空港整備で、つくることを前提にして、「需要予測」を行ってきたのとまったく同じやりかたで、貿易自由化を阻止するために、ことさら打撃を強調する数字を無理やりつくっているとしか思えません。

その点を、ブログ「月明飛錫」さんが取り上げていらっしゃるのでご参照ください。やる気のある農業関係者の人たちに冷水をかけ、さらに農業の海外進出の機会すら奪うことになることはまったく考慮されていません。

「食料自給率が14%に低下」の嘘

さて、日本にとってどのような成長戦略をとるのかは、目先の景気の立て直しだけでなく、将来をも決める重要な課題であることはいうまでもありません。

なぜなら高齢化がさらに進んでいくことは自明のことであり、それを支えるためには、当面の増税も必要でしょうが、長期的に経済を成長させることが必要になってきます。でなければ税収も枯渇します。デフレを懸念する声は声高に叫ばれますが、デフレそのものよりも怖いのは景気の後退であって、日本の場合はそれが、致命傷になってきます。

景気後退が続くと、国内の経済や社会が支えられなくなってくることだけにとどまらず、日本の国際的な存在感や影響力を減衰させます。経済の停滞によって日本の外交交渉力さえ弱めてきていることに気がついている人は多いはずです。それは日本の安全保障にも大きく関わってきます。

政治家のなかには、新党日本の田中康夫代表のように、開国か鎖国かという発想は古く、「コンシューマ・インの哲学に基づくフェア・オープン・シンプル=公正・透明・簡素な通商を促進すべきとしながらも、TPPが、あまりにも広範囲な経済協定であるために反対の立場を示している人もいます。

TPPは、多国間で物品の関税だけにとどまらず、金融も保険も医療も、そして電波・放送にもおよぶので、もっと「FTAやEPAをきめ細かく締結する事がWinWinな通商」となってくるという考え方です。

「TPP」の謎!?

「FTAやEPAをきめ細かく締結する事」は、現実として進んでこず、積極的にそれらを行ってきた韓国から大きく立ち遅れてしまっています。

また皮肉なことに、その例でも示されている電波・放送こそ国際的に通じるものにしなければ、日本は永遠に情報通信革命から取り残されてしまいます。特殊な市場からは世界に通じるソフトもハードも生まれてきません。放送局という既得権益保護のために、電波行政が国際的な動きとは、かけ離れてきていることは、池田信夫さんがたびたび取り上げていらっしゃることです。その一例である地デジ問題がわかりやすく、こちらのエントリーをお読みください。
地デジという壮大な無駄づかい

もうひとつ重要なことは、今参加しなければ、さまざまな協定の中味が日本抜きで決まってしまい、日本が参加せざるをえなくなったときに、日本にとっては最悪の条件になっていることも想定されるということです。

TPP問題、「日本の開国」が唐突にでてきたことは否めませんが、TPP問題は、物品の関税にとどまらない問題だけに、成長戦略とともに、日本の将来のあるべき姿について議論をするいいテーマだと思います。農業保護派、改革慎重派、積極開国派で政界再編されてもいいぐらいの重要なテーマではないでしょうか。

日本が活力を取り戻すためにはさまざまな産業の構造改革、またそれを促進する諸制度の改革が必要です。
しかし、日本の構造改革はいつのまにか「民営化」にすり替わってしまったり、「弱者切り捨て」と決め付けられるようになってしまいました。手段や結果と本質が逆転した議論だと感じます。

「成長戦略」と「TPP」を軸に国民的な議論を行わなければ、なにが問題かもあやふやなままに目先の経済対策だけで終わってしまいかねません。

「国家戦略」と「始末」の違いの認識もなく、学校でITを活用した実験、あるいは電子教科書の促進のための小さな予算すら削ってしまう政治が事業仕分けの名のもとに平気でまかり通ってしまっているところにもそんな混乱を感じます。
デジタル教科書、正念場 - 中村伊知哉

日本が潜在力を持ちながら、競争力を失ってきたのも当然といえば当然の結果ではないでしょうか。政党間の駆け引きに終始する政局にはもううんざりです。もっと政治は、日本の将来に責任をもって、その責務を果たすべきです。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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