民主主義は魔法の杖か-石水智尚

2010年11月22日 14:45

嫌中派の方が中国を批判する理由の一つとして、民主的な政治体制でない事をあげる方が多いようです。日米を含む先進国においては、国家を経済的・文化的に発展させる土台として、民主主義は重要な制度の一つであると考えます。しかしながら民主主義が完璧な制度でない事は、民主化されたロシア連邦政府がチェチェン共和国などの連邦国家の独立を武力阻止している状況を見れば明らかです。そういえば、日本の東条内閣も、ドイツのヒットラー政権も、民主的なプロセスによって誕生しました。


中国に高いレベルでの民主化を要求する米国ですが、誕生した瞬間に現在のレベルの民主主義を実現した訳ではありません。植民地時代には、非民主的手段で江戸幕府の鎖国をこじ開けました。また奴隷制度という歴史があり、南北戦争後もタスキーギ梅毒実験のような問題があり、それらを自らの力で乗り越えて、現在の民主的レベルに達しました。民主主義というのは、現代の米国人や日本人にとっては自明と感じられるかもしれませんが、初期には形式的な民主主義の時代があり、政治や人権など、国内のいろいろな問題を乗り越え、国民自身の文化的成熟のレベルに応じて、民主主義のレベルアップが行われてきた事を忘れるべきではありません。

民主主義政府ができる前は、政治を国(=独裁者とその政府)が独占しているので、行政に不満があっても、国民自らがなんとかしようという積極的な参政意識は希薄です。独裁から民主制へ形式的に移行しても、大多数の国民の参政意識が自発的に高まるまで、一部の人間による政治の独占は続きます。参政意識が高まっても、大多数の国民の文化的成熟度が高まるまでは、長期的に民主主義を維持できるようになる迄にはいくつもの落とし穴があります。強い民族主義や利己主義のぶつかり合いによって合意形成が困難になり、イラクのようにグループ間で内戦に突入する可能性があります。あるいは多数派の国民の民族主義的エゴを達成しようとする、ロシアのような政府を生み出すかもしれません。こうして考えると、国民の文化的成熟度と無関係に民主主義や自由主義を導入する事は、当事国の国民にとって更なる不幸を生み出す可能性があります。

中国は清の滅亡から毛沢東の時代が終わるまでの長い混乱と停滞の時代がありましたので、現代の中国という社会が、民主主義とか自由主義という概念を十分に理解しているとは考えられません。�眷小平が改革開放の結果、最近になって2億人くらいの国民が文化的な生活を享受できるようになりました。彼らは民主主義というものを理解しつつあると考えますが、残りの大多数(11億人)はいまだ、そこに到達していません。民主主義の基本は多数決です。一部の人権活動家の意識が高まるだけではどうしようもありません。国民の大多数が文化的に未熟な状態で、形式的な民主主義を与えられたら、いったいどうなるでしょうか。世界最大の民主的社会が生まれるか、漢民族の独裁政権が生まれて「もともと中国の領土」を回復する為に韓国やベトナムへ侵攻をはじめるか、あるいは国家が細かく分裂して21世紀の戦国時代がはじまるか、誰にも予測できません。もし内戦が始まれば、欧米の武器輸出産業にとっては絶好の商機でしょうが、中国国民と、日本を含む周辺国家にとって、非常に困った状況になるのは明らかです。

世界のある地域の政情が安定している時、それを納めているのが独裁者であれ共産党であれイスラム原理主義者であれ、パワーバランスが保たれている必然的な理由がある事を忘れるべきではありません。民主主義は魔法の杖ではありませんから、議会制民主主義に移行した国が、たちまち日本や米国のようになる訳ではありません。無責任な民主主義のプッシュは、単にパワーバランスを壊して、当該地域の国民を不幸にするだけかもしれません。中国は毛沢東の時代にチベット民族を激しく弾圧し、その後も2度の天安門事件を起こしました。しかしながら現在の政府は、国の発展(=経済的発展)という戦略的目的の為に、段階的な民主的レベルの向上(=治安維持を目的とした規制の緩和)を行っている事実を認識するべきです。

中国政府が民主的レベルを向上させる必要がなぜあるかですって?合理性を重んじる中国人にとって、規制を緩和しなければ経済が発展しない事は自明だからですよ。
(石水智尚 インターネットソリューションズリミテッド役員 ブログ

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