実質金利の連動性が高まる世界

2010年11月26日 10:18

「どの国の中央銀行も最終的に責任を有しているのは自国の物価と経済活動の安定に対して」(白川・日銀総裁)だとしても、ある国の中央銀行の行動は他国にも影響を及ぼす。それは、各国間では財・サービスの交易が行われており、資本移動も自由化されている状況が拡大してきているからである。取引機会の拡大の中で、裁定というタイプの活動が活発に行われるようになれば、各国間で(リアルな)経済変数の連動性が高まることになる。

例えば、裁定の結果として、もし(1)先物カバーなしの金利平価条件、即ち、内外金利差は為替レートの予想増価率に等しい、と(2)相対的購買力平価条件、即ち、為替レートの予想増価率は内外の予想インフレ率の差に等しい、の2つが同時に成り立つならば、内外の実質金利水準は均等化することになる。要するに、(1)と(2)から、為替レートの予想増価率を消去すると、内外金利差は内外の予想インフレ率の差に等しいとなるので、(名目)金利から予想インフレ率を引いたもの(即ち、実質金利)は、内外で等しいということになる。


このうち、(1)先物カバーなしの金利平価条件というのは、内外での投資収益率の期待値が等しくなるという話である。名目金利の高い(低い)国に投資しても、その国の通貨は将来安く(高く)なるので、為替差損を含めた総合的採算は同じになるという条件で、資本移動が自由で、取引費用等がかからず、投資家がリスク中立的であるならば、成立すると期待できるものである。

他方、(2)相対的購買力平価条件は、国際的に財・サービスについて一物一価が成り立つように為替レートの水準が決まるという(絶対的)購買力平価条件を少し緩めたものである。インフレ率の高い(低い)国の通貨価値は、相対的に減価(増価)していき、その増減率はインフレ率の差をちょうど相殺するものなるという条件である(注)。

(注)なお、以上のことは、この記事でも説明されている。この記事は有益なものだが、論理的には(1)と(2)の条件がともに未成立でも、偶々その乖離が相殺しあって国際的な実質金利の均等化が成り立つ場合も考えられるので、「両者が成立している必要がある」という点は正しくない。必要条件ではなく、十分条件である。

現実には、これら2つの条件は厳密には成立しているとはみなせない。投資家がリスク回避的であったり、財・サービスに関して裁定を行うのは運輸等の費用がかかりすぎたり(そもそも不可能であったり)するからである。しかし、グローバルな資本(および経済)統合が進行するとともに、結果としての国際的な実質金利の均等化という傾向自体は強まってきていると(まだ、それほど確たる証拠はないけれども)私はみている。

誤解のないように繰り返すが、現状でももちろん完全な均等化が成立するような状況にはない。しかし逆に、各国が全く独立に実質金利の水準を選択できると考えることは妥当ではないと言える程度にまでは、グローバル化が進展し国際的な資本移動が自由な現状においては、実質金利が国際間で連動性を高める傾向が強まってきているのではないか。要するに、完全な均等化仮説もいまだ非現実的であるが、完全な市場分断仮説も非現実的になっていると考える(池田さんのこの記事で紹介されている図を参照のこと)。

そこで、1つの思考実験として、仮に国際的な実質金利の均等化が成り立ち、世界のすべての国々が共通の(単一の)実質金利水準に直面している状況を考えてみよう。このようにグローバルな資本(および経済)統合が完全に進んでも、資本と並ぶもう1つの主要生産要素である労働は資本や財そのものほど可動性が高くないといった事情から、各国ごとに潜在成長率やそれと密接な関連をもつ自然利子率(需要と供給の一致を実現する実質金利の水準)は異なるであろう。すると、自然利子率が相対的に高い(低い)国では、単一の実質金利は低(高)すぎてインフレ(デフレ)傾向の陥るといった事態が生じる可能性がある。

念のために付言すると、自然利子率の定義から、「自然利子率>現実の実質金利」であれば需要超過(インフレ傾向)になり、「自然利子率<現実の実質金利」であれば需要不足(デフレ傾向)になるといえる。

いま世界で起きていることは、こうした状況の先駆けだとも解釈できそうな気がする。すなわち、米連邦準備理事会(FRB)は、金融危機後の自国の自然利子率の(たぶん一時的な)低下に対応すべく、自国の実質金利を引き下げるべく懸命な緩和策をとっている。しかし、名目金利のゼロ制約等から十二分な実質金利の引き下げには成功しておらず、景気の本格的な回復には至っていない。ところが、他方でこうした米国の動きに引きずられる形で世界的な実質金利の低下傾向が生じることで、自然利子率が相対的に高いとみられる新興国等ではインフレ的傾向が生じている。そのために、新興国側からの米国の金融政策に対する非難の声が高まっている。

日本経済についても、その潜在成長率は低下しており、そのことを反映して自然利子率も低位にあるとみられる。それならば、実際の実質金利を自然利子率の水準まで引き下げられればまだよいが、完全な市場分断が成り立っているわけではない現状では、一国の中央銀行の努力だけで、いわば「国際相場」から全くかけ離れた実質金利の水準を実現できるわけではない。もしそうだすると、少なくともその限界を埋め合わせる程度には、潜在成長率(自然利子率)を引き上げる努力なしには、デフレから脱却できないということになる(なお、このときFRBが実質金利を引き下げようとしていることは、日本にとっては支援材料だといえる)。

関連文献:北野一『なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか』ダイヤモンド社、2008年。

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