町田徹さんの「ニュースの深層」の問題点

2010年11月28日 17:15

NTT問題や郵政公社問題をよく勉強しておられ、「光の道」構想実現への方策等を検討する為のタスクフォースの委員にも選ばれたジャーナリストの町田徹さんの「孫社長が出してきた3度目の『光の道』構想はまたも『机上の空論』」と題する記事が、11月16日付の「現代ビジネス」に掲載されています。私はその週はずっと日本におらず、担当者がコピーを送ってくれなかった為に、昨日初めてこれを読む機会がありましたが、内容がちょっとひど過ぎるので、一言コメントせざるを得なくなりました。


タスクフォースのあり方や、今回出された「骨子(案)」の問題点については、まとめて明日論じる事とし、とりあえず、今回は、この町田さんの記事についてのみコメントしておきます。

実は、私は町田さんとは10年以上前からの付き合いで、ワシントン駐在時代の町田さんに助けてもらったこともあります。町田さんは、NTTの現状については元々批判的な人で、今回もタスクフォースの委員に選ばれたのを契機に、長年温めてきた観点からNTT問題に突っ込んでみようという意欲を持っておられたと推測します。ところが、そこに降って湧いたように「光の道」構想が出てきた為に、ペースを崩される結果となり、腹を立てておられるという事情もあるのかと思います。

(ですから、今回この様な記事を書く事は、私としてはとても心苦しいのですが、あそこまでソフトバンクをコケにした記事を書かれては、さすがに黙っているわけにもいきませんので、町田さんには悪しからずご了承願う事にします。)

今回ソフトバンクの孫社長が提出した「光の道構想の実現案」については、業界にどっぷり浸かってきた人であればある程、大きな違和感を覚えるであろう事は、考えてみれば当然です。それ程までにもこの案は、従来の常識を覆す発想の大転換を含んだ「空前の大改革案」だったからです。

しかし、普通では不可能と思われる「光の道」のような事を可能にしようとすれば、発想の大転換が必要です。私も4年間付き合ってみて分かったのですが、孫さんという人は、常にこれを求めて、あらゆる可能性を極限まで追求し、「目標を下げるのは最後の最後」というやり方をする人です。今回も、「現在の日本の情況では、いくらインフラを整備する事が必要でも、税金の投入は許されないだろう。だから、税金の投入ゼロで初期の目標を達成する方法を考えよ」と、社内に大号令をかけました。

町田さんは、記事の中で、まるでソフトバンクという会社が「仕事の基本も分かっていない会社」であるかのような言い方をされて、こき下ろしておられますが、失礼ながら、これは一流のジャーナリストとも思えないような基本的な認識不足です。実際には、ソフトバンクが仕事の基本が分かっていないのではなく、町田さんを初めとする多くの方々が、ソフトバンク流の「革新的な仕事のやり方」を理解出来ていないだけです。

ソフトバンク自体は、もともとは通信の基本をあまり分からずにこの業界に入ってきたわけですが、ADSL網の構築で散々苦労し、その後買収した日本テレコムやIDC、そしてボーダフォンには、通信事業分野で実際に長年仕事をしてきた人達が大勢います。(かく言う私だって、この世界では相当の経験を積んできています。)また、ソフトバンクは、これまでに数多くの投資や企業売買も手掛けてきましたから、財務のエキスパートにも事欠きません。

社長の号令一下、こういう人達が動員され、合計すれば延べ数千人時間を優に越える時間を費やして練ってきた計画ですから、町田さんの考えられるような「杜撰極まりないもの」であったり、「机上の空論」であったりする筈はないとは思われませんか? 

勿論、このような「案」は、時間の経過と共に徐々に固まっていくものであり、途中で新しいアイデアが出て、方向が少し変ることも勿論あります。特に、今回のようなケースでは、NTTという「よその会社」の懐の中を推測しての作業ですから、「NTTが小出しにしてくる情報に基づいて常に計算根拠となる数字を調整しなければならない」という特殊事情もありました。ですから、町田さんの様な「これを評価する側」にも、「評価対象が流動する事に対する苛立ち」は当然あったことでしょう。

しかし、そういった事は、実はどちらかと言うと些細な問題であり、本質的な問題は、こういう件についてはとても「専門家」と迄は言えない「事業経験のない学者やジャーナリストの委員方」が、本業の合間の時間を利用して、この様な大きな計画を短時間で咀嚼し評価すること自体が、元々無理なのだという事です。

町田さんは「何故ソフトバンク案は『専門家』に相手にされないのか」という言葉を使っておられますが、私は、先ずこの「専門家」という言葉に違和感を覚えます。私の解釈は簡単で、「ソフトバンク案の咀嚼と評価は、とてもこの人達の手に負えるような代物ではなかったのではないか」という事です。

勿論、誰か熱心な方がおられて、技術と財務のプロを引き連れてソフトバンクに押しかけ(或いは呼び付け)、丸二日ぐらいかけて「膝詰めで一項目ずつ質疑しながら精査する」という労を取っておられれば、ある程度の理解をされる事は出来たでしょう。しかし、ヒアリング等での「せいぜい数十分程度の質疑応答」で、この壮大なプロジェクトの全体像についての納得が得られる等という事は、本来あり得るべくもない事です。

しかし、このような本質的な問題については、私の次の記事で論じるとして、今日のところは取り敢えず、今回の町田さんの記事の問題点を指摘させて頂くに留めさせて頂きます。

先ず、町田さんの議論の最大の問題点は、事業計画や財務計画の評価方法が若干古めかしい事です。現在主流になっている事業の評価方法は、「オペレーション・キャッシュフローを何よりも重視し、『事業の性格』と『市場予測』から『EBITDAの長期推移』を予測して、それに基づいて資金調達の可能性を割り出す」という手法*です。孫社長はこの手法を極限まで追求する人ですが、町田さんには基本的にこの感覚が欠如しているようなので、これではなかなか議論が噛み合わないわけです。

* キャッシュフローとEBITDAさえ健全であれば、後は財務的な手法で如何様にも解決出来る問題であり、「資本・負債比率」や「初期における累積損」は、さして気にすることではないという考え方。これは別に町田さんの言う「ハゲタカの手法」というようなものではなく、ごく常識的な考え方です。

例えば、孫社長は、ボーダフォンの買収に当たり、2兆円近い買収資金を、一銭も資本市場から調達せず(つまり本体を増資することなく)、全て借り入れで賄いました。これは一見滅茶苦茶なやり方であり、欧米のアナリストの中にもこれをCrazyと評した人はいましたが、それにはそれなり、きちんとした成算があっての事でした。

というのも、通信事業は、膨大なCAPEXを要する設備産業ではありますが、毎月「利用者からの現金収入」が見込め、しかも「利用者の急減リスク」や「貸し倒れリスク」は極めて小さいので、「健全なキャッシュフロー」が「借入金返済の原資」を間違いなく創出してくれるからです。現実にソフトバンクにおいては、借入金返済は当初の予想をも上回るペースで進んでいます。(町田さん、この点はご心配なく。)

キャッシュフローより貸借対照表、特に固定資産の価値などを重視する保守的な事業評価手法が身についていると思われる町田さんは、「先行きのない(存在しない方が利益を生み出す)NTTのメタル回線施設の資産価値」に対する思い入れがなお大きいらしく、これを一気に償却して、涼しい顔をして累積損失に計上する事などは、神をも恐れぬ所業であり、「NTTの既存株主の資産価値の冒涜」とも感じられるのでしょうが、こういう事は、事業をリストラして収益構造を向上させる為には、極めて当たり前の措置です。勿論キャッシュフローにも何の影響も与えません。

「債務超過」の問題についても同じであり、計算を詰めていくと「このままでは債務超過になってしまう」という事が分かれば、「それでは若干の増資が必要だなあ」という事になるだけの事であり、それに対応して資本政策に手を入れればよいだけの事です。そんなに天地がひっくり返るような事ではありません。

次に、町田さんは、「ソフトバンクの一連の主張はNTTの経営問題の歴史についてあまりにも無知且つ無神経すぎる」と断じ、「株主権の制約」問題についても言及しておられますが、この問題については、私が孫さんに代わって全面的に受けて立ちましょう。私も現在は「光の道」を推進しているソフトバンクのチームの一員ですが、「歴史についてあまりにも知り過ぎている」と言って頂く事はあってもよいですが、間違っても「あまりにも無知」とは言って欲しくないですね。

詳細については、11月18日付の「光の道はNTTの株主にとって朗報かも」と題する私の長文のブログ記事をご参照頂きたいのですが、過去に起こったことを真摯に検証もせず、「NTTの構造変革が株価にもたらす影響」や「株主権の問題」について、無責任で予断に満ちた論評をする方々に対しては、私は怒りを禁じられずにおります。現時点では、町田さんを含むタスクフォースの委員の一部にも、そういう方がおられます。

次に、「新設のアクセス回線会社の株式の40%相当を国が持つ」という提案に対し、「それでは税金投入と同じではないか」とか、「もし新会社が破綻したら、結局は税金投入が必要になるではないか」と言われる人が時々おられ、どうも町田さんもその一人のようなのですが、これも極めて不思議な話です。

因みに、タスクフォースの席上で「NTTはNTT法に基づいて設立された会社であり、国の方針に従わなければならない」という「事実」について語った先生を、「この発言の為にNTTの株価が下がった」と言って非難している人がいるようですが、これは、「事実を秘匿して株主を騙し続けよ」と言っているにも等しく、とんでもない話です。(町田さんがそういう人の一人でないことを祈るばかりです。)

NTTの既存株主は、「NTTが、独占的側面、公益的側面を持ち、それ故にNTT法で縛られている」という事、「『会社(株主)の財産権』は、憲法上、一定条件下で『公共の利益』に劣後する」という事を、当然知っていると見做されて然るべきです。

新設のアクセス回線会社は、要するに現在のNTTの一部が分離独立するものですから、株主は横滑りするのが一番自然です。(その意味では、先のヒアリングで提出したソフトバンクの提案書の24ページの第2案の方が分かり易いと言えるでしょう。)しかし、何れの場合でも、国について言うなら、現在のNTTの持ち株をそのまま移転させるわけですから、新規に現金を投入するわけでもなく、勿論税金の投入などにはなりません。

「それでは、新会社が破綻したらどうするのか」という事を聞く人に対しては、「それでは現在のNTTが破綻したら、実質40%の株主である国はどうするのですか?」とお聞きしたいと思います。アメリカを代表するGMだって破綻したのです。NTTが破綻する可能性だってゼロではありません。

何れにせよ、NTTの構造改革やアクセス回線会社の新設は、国策の重要な一環ですから、国が叡智を集めて、「会社の健全な存続」と「公益」が両立する形を、何としても作り出さなければなりません。

最後に、町田さんの今回の記事の中で、明らかに「被害妄想」とも思える部分についても、一言コメントしておきます。

先ず、町田さんは、先回のヒアリングでソフトバンクが提出した資料について、前日の夜に提出した24枚に加えて、更に27枚の資料を当日の朝に送ったのは、「タスクフォースの委員の事前学習を妨害するために小策を弄したのだ」として糾弾しておられます。十分事前学習をしてもらえるよう、もっと早く最終資料を送っていればよかったのはその通りですが、こういう場合、「当日配布の資料」もあるのはよくある事であり、そんなに目に角を立てることなのでしょうか? 
とにかく「学習を妨げるために小策を弄する」など、普通は想像さえ出来ないことで、このような町田さんの発想には、唯々驚くばかりです。

私自身も関与しているので、事実関係をありのまま申し上げますと、社長が発言者となるこういう資料は、社長のチェックが2-3回入ります。その都度、社長からダメが入りますし、「こういう説明をしたほうが分かり易いのではないか」という新しいアイデアも出てきますから、事務方はその度に修正作業に入ります。

孫社長は日本の実業人の中でも最も忙しいのではないかと思う程忙しい人で、会議の設定はいつも綱渡りですから、最終チェックは大抵「ぎりぎりのタイミング」になります。そうなると、今回のように、事務方が資料の最終版を作るのは、会議の前日の徹夜作業という事になるのです。「小策を弄した」等という馬鹿げた疑いをかけられるようでは、真面目に仕事をしている事務方の人達があまりに不憫です。

次に、町田さんは、「ある事で自分が孫社長に質問したところの音声が聞き取りにくいのは、ソフトバンクにとって都合が悪かったので、ソフトバンクがUStreamの編集者に圧力をかけて、わざと音声を小さくしたのではないか」とお疑いになったらしく、「記事だけ読んだ人にそう思わせるような書き方」をしておられます。(私はTwitterでこの事を指摘されました。)友人として敢えて町田さんに忠告させて頂くなら、この書き方は、ジャーナリストとしてはかなり問題です。

私も気になったので、実際にUStreamの録画を全部視聴してみましたが、特に「その部分の音声だけが聞き取りにくい」という事は全くありませんでした。そうではなくて、この録画を通して、質問者側の音声は全て押しなべて、明らかに聞き取りにくかったのです。現実にこの会議を直接傍聴していた人にも聞いてみたところ、会場でも聞き取りにくかったと言っていました。(ですから、この事は町田さんも分かっていた筈です。)

これは勿論問題なので、何故そうなったかをUStreamの人に間接的に問い質してみたところ、音声はラインからは録音させて貰えず、外部スピーカーから出てきた音を拾ったそうです。となると、カメラから見て列の左側に並んでいたタスクフォースの委員の席のマイクかケーブル、或いは入力機器に問題があり、音声入力が低かったとしか思われません。(現実に、録画の一部には、事務方が途中でマイクを取り替えているところも写っていました。)

取り敢えず、今日のところはここ迄で止めておきます。明日、あらためて、タスクフォースのあり方についての本質的な問題について論じます。

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