「光の道」タスクフォースの報告書(案)を読んで

2010年11月29日 10:00

「『光の道』構想を2015年までに実現する為の具体案を検討して報告せよ」との原口前総務大臣の指示を受けて、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」の第1、第2合同部会は、11月22日に「『光の道』構想実現に向けて 骨子(案)」というものを発表しました。これを読み、率直に言って、私は頭を抱えてしまいました。


この「骨子(案)」では、先ず「『光の道』構想の推進」と題した第1章で、1ページ弱の現状レビューの後に、いとも簡単に下記を結論付けています。

1)具体的な政策は、インフラ整備に競争が存在して始めて実現できる。

2)民間事業者の競争によるインフラ整備が期待しにくい過疎地域には、国・地方が支援措置をするなど、一定の役割を担うべき。

3)利活用に課題があるので、これを阻害している制度・規制などの抜本的な見直しを図ることが必要。

そして、それから導き出された結論として、「『光の道』構想実現のためには、以下の3本柱の政策を推進していくことが必要である」とし、第2章、第3章、第4章で、この「3本柱の政策」の推進方法について、それぞれ論じています。

①未整備地域における「ICT利活用基盤」の整備の推進
②NTTのあり方を含めた競争政策の推進
③規制改革等によるICT利活用の促進

因みに、第2章と第4章は、共に、紙数にして約半ページしかなく、一つの章だけで合計10ページを費やしている第3章と、際立った対比を示しています。

ご存知の通り、「光の道」に関連して、ソフトバンクからは、タスクフォースに対しても、同社の考える「光の道構想実現への具体案」が提出されていますが、これについては、残念ながら殆ど無視されています。

具体的には、第3章のNTT問題に触れたところで、「この関連で、通信事業者1社から提案されている光アクセス会社構想については、事業成立の可能性(光ファイバー投資額、アクセス回線維持費、バランスシート、工事力の確保等)及び上述のメタルから光へのマイグレーションに係る諸課題を踏まえると、不確実性が高いのではないか」という記載があるのみで、それ以上の言及は一切なされていません。

さて、タスクフォースの委員の皆様の多くは大学教授であられるので、私はここで一つの質問をさせて頂きたいと思います。仮に「2015年までに『光の道』構想を実現する具体的方策を述べよ」という課題に対して、ある学生がこの「骨子(案)」にある様な答案を出したとすれば、あなたはこの答案に何点をつけますか?(この学生に単位を与えますか?)という質問です。

私が教授なら、評点は0点、或いは、100点満点の10点(第3章の一部に、「光の道」にも若干関係する「良い提言」が含まれている故)です。そして、当然の事ながら、この学生には単位は与えません。

理由は下記の通りです。

1)課題である「光の道」構想の実現の為の具体策は殆ど示されていない。そもそも、この答では、回答者が「光の道構想」というものを本当に理解していたのかどうかさえ疑問に思える。(恐らくは、「そんな事は実現出来るわけはないから、真剣に考えるだけ無駄だ」というのが本音なのだろうが、それならそうで、正直にその本音を書くべきだ。)

2)辛うじて「具体策」らしきものが書かれている箇所もあるが、「何故それが『唯一の方策』であると考えるのか」については一切に説明がない。また、「具体策」についても、「それがもたらす効果」についても、「目標数値」や「目標達成年月」についての記述が一切ない。

3)冒頭に、具体的成果は、「インフラ整備に競争が存在して始めて実現される」という極めて独断的な記述があるが、その理由は示されていない。一方では「アクセス回線分野は本来、設備競争に適さないのではないか?(11月15日付の私のアゴラの記事参照)」という考え方もあるのだから、それに論駁せずして、安易に断定することは出来ない筈である。

4)「民間事業者の競争ではインフラ整備が期待しにくいところは、国・地方が支援する」という事が書かれており、これには税金の投入が必要と解さざるを得ないが、これはあまりにも安易な考えではないか? 代替案は検討したのか? 代替案を却下した理由は何か? 税金投入の規模はいつからいつまで毎年どのくらいの金額を想定しているか? それについての国民及び地方公共団体のコンセンサスは取れるという確信はあるのか? 国民に対して税金の投入を正当化出来ると考える根拠は何か?

5)上記の「民間事業者によるインフラ設備競争が期待しにくいところ」とは、具体的にどの様な場所であり、そこに含まれる人口は大体何人と想定しているのか? (光の道構想は、国民の100%を対象とすることが明示されているわけだから、この数字は極めて重要である。)

6)第2章の冒頭に「超高速ブロードバンド基盤については、整備率は約90%であり、残り約10%の『世帯』では未整備の状況にある」という記載があるが、実態は90%整備されているのは「局施設」と「とう道(地下埋設)部分」だけであり、「架空線部分」は50%、「各世帯への引き込み」は33%である。この事実を知っているのか? もし知っているのなら、何故正確にそのように記述しないのか? 何故「整備率」という「言葉の定義さえ定まっていない指標」を敢えて使うのか? この言葉が独り歩きした時に多くの人達に対して与える誤解については考慮しなかったのか? 

7)第3章の前半に「他方、設備設置事業者からは、現行スキーム以上の光ファイバーのオープン化は、インフラ整備のインセンティブ低下をもたらし、技術革新や多様なサービス提供の妨げとなるとして、反対の意向が示されている」という記述がある。この様な事実を事実として記述するのはよいとしても、そのような考えを支持するのかどうかが明確でないので、意味のない記述になっている。(本来は、この様な考え方の長短を論じ、「国民の為にはそれを支持するのが妥当かどうか」を明確にすべきである。)

8)NTT東西の組織形態の見直しに関連して、「資本分離」「構造分離」「機能分離」の三つのやり方が列挙されているのはよいが、それぞれのプロとコンを、予断を持たずに詳細に比較した形跡は見当たらない。にもかかわらず、「機能分離を行うことが、現時点においては、最も現実的且つ効果的と考えられる」と安易に結論を出しているのは、大きな問題である。理由を示さない結論には何の価値もない。

9)「NTTを如何なる形で分離しても株主に対する影響が生じる」のは当然である。また、「分社化の程度が大きくなれば影響も大きくなる」のも事実だろう。しかし、この「影響」が「良い影響」なのか「悪い影響」なのかは分からないのだから、先ずはその事を論じるべきだろう。NTTの株主は、NTTがボトルネック設備を保有する公益的な部門を包含した会社であり、それ故に「公益の観点から常に掣肘を受ける可能性がある事」を当然熟知して株主になっている筈だ。一方、今回の課題は「如何にして『光の道』を実現して公益に寄与するか」を考える事にあるのだから、仮に「公益」と「株主の利益」が不幸にして相反する事態になれば、回答者は、先ずは「公益」を優先的に考え、その上で「如何にして株主を納得させるか」に意を注ぐべきである。今回の記述にはその姿勢が全く見られないので、あまり評価できない。

10)「『構造分離』をすると時間とコストがかかるので、『機能分離』の方がよい」と読み取れるような記述があるが、これは論理的におかしい。先ず、コストはメリットとの兼ね合いであるから、「コストがかかるから望ましくない」と断ずるのは本末転倒だ。また、時間がかかるか、かからないかも、「どちらが望ましいか」を判断する為の材料とはならない。メリットがあるのなら、時間をかけてでもやればよい。一旦何が最も望ましいかが決まれば、後は方法論の問題であり、これは別途考えればよいことだ。初めから「メリット・デメリット」と「方法論」を混同して論じる姿勢は評価出来ない。

11)「資本分離」や「構造分離」は、当然「機能分離」を内包するのだから、仮に「資本分離」や「構造分離」の方が望ましいと決まれば、移行プロセスはあらかじめ並行して検討しておき、法案成立と共に直ちに「機能分離」を行い、その後「資本分離」又は「構造分離」に進む事にするべきだ。(そうすれば時間の節約が出来る。)回答者は、時間がかかることを案じるだけで、この様な前向きの工夫を行おうとはしていない。このような姿勢は残念だ。

12)「構造分離」にせよ、「機能分離」にせよ、「どこで分離させるか」を慎重に検討し、明示しなければならない。具体的には、「設備」と「それに関連するコスト」を何処で切り分けるかだ。人によって同じ言葉を違う意味で使うケースが往々にしてあるので、全てを明確に記述することが必要だ。

13)「『光の道』整備促進の観点からは、いずれの経営形態も概ね中立的と考えられる」という記述があるが、その判断の根拠は何ら示されておらず、全く意味不明である。そもそも、それぞれのシナリオについて、「如何なる形で『光の道』の整備を行うのか」という具体的な記述が当然あって然るべきだが、これも完全に欠落している。

14)ソフトバンクからは「『光の道』実現の為の具体案」が提出されているが、これ以外には「具体案」となるものは、現時点では何も提出されていない。従って、ソフトバンクの提案に「現実性」と「妥当性」があるかどうかの最終的な判断は別として、この提案に対しては、先ずは真摯で精力的な検討がなされるべきは当然だ。しかし、現実には、これがなされた形跡は殆どない。

15)ソフトバンクの提案については、「事業成立の可能性に色々な面で疑義がある」という趣旨の記述があり、5項目にわたってこの疑義の対象となる項目が列記されているが、「何処に疑義があるのか」の具体的記述や、「それに対してソフトバンクにどのような質問をし、どのような回答を受けたか」の記述はない。末尾に「不確実性が高いのではないか」という記述があり、全てはそこで終わっているが、これも全く意味を成さない。他にもっと優れた具体案があるのならともかく、他には全く具体案がないのだから、もし「不確実性が高い」と判断したのであれば、そこでとどまらず、何とかしてその不確実性を低めるよう、ソフトバンクと徹底的に議論すべきではなかったのか?

16)「光の道」構想を実現する為には、本来ならNTTが最短距離にある。回答者は、総務省の力も借り、NTTから具体的な提案を引き出せる立場にあったと思われるのだが、何故それをしなかったのか? 

17)ソフトバンクの提案に対しては、NTTから「数字が合っていない」「不可能だ」というコメントが早い時点から出されている。このギャップを埋める為に、「両社で数字を持ち寄り、膝詰めで話す」ように要請することも出来たと思うのだが、何故そのような努力をしなかったのか? NTTが「経営情報を秘匿する必要性」を理由に、色々な数字の公開を拒否してきた事は承知しているが、総務省にはNTT法に基づく権限があるのだから、公益の為に必要と判断すれば、そのような数字も求められた筈だ。これを敢えて総務省に求めなかった理由は何か? 

大体こんなところです。

言いたい放題の事を言わして頂きましたので、タスクフォースの委員の先生方に失礼があったなら、深くお詫びせねばなりませんが、国の将来を考えると、止むを得ないことでした。「これまでの様な『当たらずさわらずのやり方』は、もうこれ以上繰り返すべきではない」と強く感じているからです。どうか悪しからずご了承ください。

ソフトバンクの提案は、あまりに唐突、且つドラスティックであり、多くの方々が消化不良に陥って、扱いに苦慮されたであろう事は十分に承知しています。しかし、今は、本当に蛮勇を奮って、日本を根底から変えていくべき時期に来ていると思っています。今までのやり方を繰り返していたら、またまた「too late, too little」となり、日本はどんどん沈んでいってしまいます。

勿論、悲嘆に暮れているだけではどうにもなりませんから、ソフトバンクとしては、具体的な手も打っています。先ず、片山総務大臣に対して、この「報告書(案)」を不満とする意見書を提出。民主党の政調会、議連、更には首相官邸にも出向いて、意見を具申しました。

また、こういうアプローチについては、批判する方も多い事は承知していますが、「分かり易い形」にして国民の関心を喚起するべく、全国紙と地方紙に大きな意見広告も出しました。議論はこれからだと思っています。

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