人事部の廃止を考えよ -大卒の就職難時代に思った事

2010年12月09日 10:00

経験論の限界は承知しつつも、多くの人間を採用し、その人間と共に働いた経験を基に、意見を述べてみたい思います。「傍目八目」であると良いのですが。

日米の「就職と教育」のあり方の差が余りに大きい事に興味を持った私は、米国で100年以上も前に誕生し、多くの大学で支持されている産学協同のCOOP教育に対する日本の反応を探るべく、数多くの大学を訪ねて見ました。


結局、ごく少数の有力大学は別として、企業の採用基準が変らない限り、日本の大学の教育方針は変らない事に気がつきました。18年前から解っていた筈の「全入時代の到来」を、実際に到来するまで気が付かなかった位ですから、学者に未来志向を期待したのが無理だったのかも知れません。

日本の就職問題を語る時、「就社と就職」問題を再び論議する必要があります。理科系の大学院卒の場合は、「就職」色が強くなった様ですが、学卒の場合は、依然として「就社」の傾向が強いのが現実です。

その一因は、入社の決定に人事部の関与が強すぎる事です。これは学生の責任ではなく、人事部が「就社」試験はしても、専門的な力を試す「就職」試験には、費用の関係もあり、関心を示さない事に問題があります。

即戦力を期待して採用する欧米企業が、直ぐに役立つ専門的知識を中心に選抜するのに対し、潜在能力を重視する日本企業は、大学の格式が潜在能力のバロメーターだと誤認識して、有名大学出身者を採用したがります。

人事部にありがちな「寄らば大樹」に似た安全第一の価値観は、不景気になると採用者に占める有名大学出身者の比率が急増する結果を生みます。

現に、私が奉職した大企業でも、大型合併で人員が一時的に過剰になり、定期採用を中止した後で採用を再開した年は、応募者が殺到した結果、合格者は関東と関西の有名大学に限られ、地方大学とは言えない旧帝大の北大、東北大、名大, 九大まで全滅した例があります。この様な事は、「就職」採用であったらありえなかった事です。

潜在能力ベースの採用は、会社単位で一括採用する方が便利です。一括採用の問題点は、人事部に新入社員の「配属先」を決める、強大な権限を与える事です。配属は、採用された学生の希望を聞く型式を取ってはいますが、実質的には会社都合(人事の裁量権)による一方的配属で、社員は当然会社ベースの「公平な処遇」を期待します。

人事部の弊害は更にあります。配属部門の成績が悪いからと言って、同期の人間より処遇を悪くすれば、「自分の好みでこの部門に来たのではない」と言う不満が出ます。この不満を抑える為にも、「公平」と言う名の下に、成果とは無関係な入社年次ごとに評価する「年功序列」が生まれ、その結果として、職務の異なる社員を、画一的で抽象的な全社共通の「評価制度」で評価する事になります。

「年功序列」評価は「相対評価」ですから、評価者の裁量が大きく影響し、客観性に欠けます。これは、評価に関して不満が出ると、「評価者」の誤りだと弁解できる人事部にとっては便利な制度でもあります。この様に、他人に責任を転嫁する人事部のやり方を、「人事部を、ヒトゴト部と読めば納得出来る」と教えて呉れた上司が居りましたが、あながち冗談とは言えません。

客観性や個々の社員の貢献より「年功」と「相対性」を重んじる評価は「世間では非常識」ですが、これを「社内の常識」として浸透させる為、新入社員から管理職に至るまで熱心に社内教育に励みます。

社内教育の内容は、標準化を推進するプログラムが多く、人事部が掲げる差別化目標とは反対に、社員から個性や創意工夫を奪い、国際競争力を弱める「大企業病」を生み出して来た事は皮肉です。

一方、労働市場の流動性の高い米国の管理職の悩みは、優秀な人間を失う危険に常に晒されるため、個性を尊重することで有為な人材の社外流失を防いでいます。その為か、米国では「親亀がやめると、小亀がついて行く」事が多く、日本より職場の人間関係の絆が強いと言う印象があります。

参考までに申し添えますが、米国の人事評価は、評価の内容を被評価者に開示して署名を取る事が法律で義務付けられており、「本音、建前」の2本建ては出来ません。

価値観を変える事が容易でないのは、どこの国でも同じで、「名刺」を人間価値の「GPS」替りに使う日本の肩書き社会を、個人別に評価する社会に変えるには、もう少し日本が国際競争に負け続けるしか方法は無いかも知れません。

逆に、現行システムで国際競争に勝てるのであれば、人事中心主義を変える必要はありません。然し、日本のコスト高は、外国人の採用圧力を強めており、優秀な外人に「企業内社会主義」文化が通じるようには思えません。就職難時代を機に、日本の活性化の障害となっている、日本的人事部を廃止する事を考えてはどうでしょう。

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