通貨安競争という誤解

2010年12月11日 12:17

リフレ論は下火になるだろう、という記事に対する批判もあったようだが、同じような誤解として通貨安競争というものがある。

これは、欧州や米国の中央銀行が通貨安を意図したものではない、と繰り返し否定しているにもかかわらず、巷にはびこり、非常識な人々の間では常識になっているようだ。ここで改めて、その誤解を議論したい。

論壇における救いは、誤解に基づく議論は、意外と健全なことに、時間と共に下火となると言う点だ。この点で、リフレ論と通貨安競争という議論は似ている。


米国は通貨安競争をする意図はない。なぜなら、それは米国経済の健全化に貢献しないからだ。

1995年に、当時の財務長官のルービンが、強いドルは米国の国益である、と宣言したときから、米国は名実共に、強いドルを志向してきた。このロジックはシンプルで、世界におけるドルの地位低下を防ぐためには、ドルを世界の経済主体に保有、使用させることが一番である。

ドルの地位を守るとどのようないいことがあるか。これは日本人はすぐにわかるはずだ。すべての経済取引がドルベースでなされれば、為替リスクというものを考えなくて済むと言うことだ。これは決定的に大きい。

日本国債が利回りが低く、かつ必ずしもリスクが小さくないと考えると、米国債など海外の国債に資金シフトをためらう理由はないはずだが、唯一、国内志向を説明する理由として為替リスクがある。これを本気でリスクと考えているか、言い訳としているかはどちらでもよく、これが、世界中が同じ通貨であり、少なくとも投資に関してはドルベースで考えている場合には、国内と国外投資について、いずれも同じドルベースで考えればよいから、極めて便利だ。

多くの新興国がドルリンクをすることにより、世界中の投資家からの資金流入を促したが(投資家にとって為替リスクが少なくとも短期にはなくなる)、このメリットは(少なくとも短期的には)新興国に生じるだけでなく、というよりはむしろ最大の恩恵を受けたのは米国だ。米国としては、国内投資家が、国内外無差別、さらに言えば、商品(原油、穀物、貴金属)までもすべてドルベースで考えられることから、最適な投資戦略がとられることになる。

もちろん、貿易取引においても、自国通貨で取引相手国が考えてくれれば、そのメリットは大きい。しかし、やはり、世界の資産市場による支配力、それに尽きる。

米国は1995年以降、新興国の成長に乗って米国経済の発展を維持する戦略に明確に移行した。金融産業がよりいっそう力を持ち、様々な投資規制は、グラススティーガル法の実質廃止を含めて、ほとんどが骨抜きにされた。そして、低金利にもかかわらず、世界から資金を米国に流入させ、それを自国のシリコンバレーなどの成長セクターを含め、世界の成長市場に再投資をした。これが、一種の国という枠組みでのレバレッジを利かせたヘッジファンドとして機能することとなった。そして、米国経済はその力をGDP成長だけでなく、とりわけ世界中の資産市場で強めて行ったのである。

これがリーマンショックにより決定的に崩壊した。そして、今は、そこからの立ち直りの過程にある。

このとき米国経済の立ち直りにとって、最重要なのは何か。

オバマがウォールストリートからメインストリートといったときには、リップサービスの政治戦略以上に深い意味を米国経済にもたらす可能性があった。それは雇用であるはずであったが、実際は、金融市場と金融産業の復活、投資家、記入機関の建て直しであった。

したがって、ヴォラティリティを増やして、かつての投資銀行たちはトレーディング業務で、史上最高益を上げた。それには、アルゴリズム取引といった、付加価値を全くもたらさないものも多く含まれている。

そして何よりも、FRBの金融政策。リーマンショック後は、最後の貸し手ではなく、最後の買い手として、直接、投資家とリスク資産市場を救った。そして、今は、量的緩和ということで、金融市場と投資家にとって有利な環境を維持し続けている。一方、失業率は高止まりしたままだ。

そして、株式市場も、先週は、雇用統計の悪化にはそれほど反応せず、バーナンキのテレビ出演に大きく反応し、株価は維持された。

したがって、米国ドルは弱くなっては彼らは困るのである。

欧州はもっと深刻だ。ソブリンリスクとは、誰かにソブリンを何とか買わせることでしか除去されないが、そのためには、ユーロが暴落するのは困るのである。

だから、通貨を安くしようなどと愚かなことを考えているのは、資産もなく、貿易で毎日の日銭を稼ぎたい貧乏国だけなのである。

日本のリスクはソブリンリスクであるから、いわずもがなである。

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