電子書籍、粗製濫造の世界へようこそ

2010年12月28日 16:01

前回「紙で発刊できる作家は初版印税が保証されるため、まだそれほど端末が普及していない電子書籍より紙の書籍で発刊する」、「しばらくの間は日本での電子書籍は紙の書籍と同程度の価格で同時発刊というかたちで普及していくことだろう」と書いた。これは現状の紙の出版ビジネスを考慮するとこのようになるだろうとの予測である。では、この状況を一変させる可能性はないのだろうか? 


“紙で発刊できる作家”というのは、言い換えれば、良質なコンテンツクリエイターということである。もちろん紙で発刊しているすべての書籍が良質なわけでもないことは当然だが、それにしても自費出版を除けば出版社が数百万円という紙書籍発行のリスクを負うのであれば、それなりの品質の書籍、売れる書籍を発刊したいと思うのもまた当然だ。であれば、現状では編集者がフィルターとなり、ある程度の品質を担保しているものが紙の書籍として発刊されているといえるだろう。

では、電子書籍はどうか? 著者が執筆のみならず編集もして電子書籍化し、販売までおこなう場合、ともすれば、著者以外のだれの目にも触れることなく、いきなり発刊できてしまうのが、究極の電子書籍の世界だ。こうなれば内容が公序良俗に触れていようが、他人のコンテンツを模倣しようが、おかまいなく“商品”として棚に並べられる。当然違法性の強いものはその後削除されるだろうが、それを指摘されるまではそのままだ。最近のアップストアでの海賊版騒動やAmazonでの「小児性愛者ガイド」騒動でもわかるだろう。

つまり、品質がいい悪いも関係なく、第3者のチェックもなく販売されるのが電子書籍の世界、粗製濫造の世界なのだ。ただ、間違いなく良質なものも含まれるだろうから玉石混淆ではあるだろう。そうなると玉をどうやって見つけるかが重要になってくる。であれば玉がそろいやすい出版の仕組みをもつ出版社が有利である。

現在の紙の出版社のように、電子書籍であっても編集者が著者以外の第3者として、内容に関わることによって、その品質を担保できる仕組みがあればいいわけだ。だが、編集者が関わるといっても、その人件費を考えるとそう簡単ではない。電子書籍で稼ぐことができるというビジネススキームができていない現状、それら人件費を含め投資ができないのだ。

逆をいえば、儲かるかもしれないというビジネスモデルさえできれば、新しいビジネスとして華ひらく可能性がある。投資家も出てくるだろう。お金を集めることができれば、紙の初版印税に代わる前渡し金を著者に支払うことができる。であれば、紙に固執しなくても著者のリスクは減るので、紙で発行できる作家が優先して電子書籍版を発行することも可能になる。

端末の普及は、それが低価格になれば爆発的に進むのはkindleで証明されている。また、米国のベストセラー作家Warren Adler氏の新作が独占的にkindle版として発刊されるように、良質なコンテンツが電子書籍版で発刊されればそれに拍車を掛けるわけである。とにもかくにも電子書籍だけで利益を出せるビジネスモデルが必要なのだ。

今年NTTドコモとモバゲーのDeNAの出資で設立されたエブリスタは、iモード上でのコンテンツ投稿サイトだが、会費月210円のプレミアム会員になれば、有川浩、大沢在昌、片山恭一ら、プロの小説家の書き下ろし作品を読むことができる。当然編集者はいるだろうし連載中は原稿料が発生しているが、彼らはすべて“紙でも発行できる”作家たちである。それにも関わらず携帯電話だけでのサービスに書き下ろしているわけだ。サービスが始まってまだ1年も経っていないので新しいビジネスモデルといえるかの判断は難しいが、このように成功したIT企業などが率先して投資して、魅力的なサービスを用意するのであれば、今後ますます電子書籍が普及していくのは間違いない。

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