専門用語は、全くの造語の場合もあるけれども、大抵は日常用語を転用したものであり、言葉自体としては日常用語と同じものである場合が大半である。しかし、同じ言葉であっても、専門用語として用いられているときには、日常用語としての用い方とは意味内容ないしは定義が異なることは理解しておかねばならない。
例えば、弁証法関連の用語にアウフヘーベン(aufheben)というのがあって、日本語では止揚(しよう)と訳したりしている。日常用語としてのアウフヘーベンは、棚の上にものをのせるといった意味でも用いられる。しかし、「止揚する」というのは、「棚の上にものをのせる」という意味ではない。
経済用語に関しても、日常用語を転用したものが多い。ただし、やはり同じ言葉でも、意味内容や定義は異なることが少なくない。とくに留意すべき例として、「貯蓄」という用語がある。経済用語としての貯蓄は、「可処分所得(税引き後の実際に使える所得額)のうち、消費支出に充てられなかった残差」を意味している。消費支出に充てられなかった可処分所得の使い途としては、(1)投資(のための財・サービスへの)支出、(2)金融資産の増加、(3)金融負債の減少、の3つが考えられる。
しかし、日常用語としては、(2)の場合のみを貯蓄と言うのが普通であろう。さらには当該の金融資産が銀行預金や国債の場合には、貯蓄だが、買い増す金融資産が株式などのリスク資産の場合には、そもそも貯蓄という表現もあまり用いず、むしろ投資と言うことの方が多いと思われる(いわゆる「貯蓄から投資へ」というスローガンは、こうした日常用語としての用例に基づいたものである)。(3)は、平たく言うと、借金の返済である。そして、日常感覚では、借金の返済を貯蓄とはほとんど言わない。
ところが、経済用語的には、借金を減らすことに所得を充当することも(消費以外に使っているのだから)「貯蓄」に立派に含まれる。実際、例えば預金が20万円増えることと借金が20万円減ることは、ネット(純)ポジションでみると同じことにほかならない。この辺の定義の違いに無自覚的だと、思わぬ誤解が生じかねない。典型的には、「内部留保」をめぐる誤解がある。
課税後の企業所得から配当を控除した残りである内部留保は、「企業貯蓄」のことである。そして、企業貯蓄というと(内部留保という語感からも)、既述のような日常感覚だけでものを考えていると、現預金等の金融資産で貯まっているかのように思いがちである。しかし、上記の(2)になっている部分も皆無ではないけれども、大方は(1)か(3)に使われているのが、実際である。とくに近年の日本企業は、投資は基本的に内部留保の範囲内で行い、内部留保の残りは借金返済に充ててきたといえる。
したがって近似的には、企業の貯蓄投資差額=金融機関借入の減少、とみなすことができる。金融機関借入の減少は、金融機関側からみると、いうまでもなく貸出の減少である。そしてこの間、日本の金融機関は、貸出の減少分を国債購入を増やすことで対応してきた。こうして結果的には、企業の貯蓄投資差額=国債購入の増加、ということになってきた。
野口悠紀雄氏が指摘するように、2000年以前は、家計の貯蓄投資差額=預金増加、預金増加=国債購入の増加、というかたちで、家計貯蓄が国債消化に使われていた。しかし、直近では高齢化の進行を反映して家計貯蓄率は急速な低下を示しており、家計保有金融資産の増加はほとんど止まっている(先日公表された総務省の全国消費実態調査によると、家計のバランスシート規模は調査以来はじめて縮小した)。それに代わって、企業の貯蓄投資差額=借入減少、貸出減少=国債購入の増加、というかたちで、企業貯蓄が国債消化に使われているのである。
この意味で、企業に内部留保を賃金支払いの増加等に使えと要求しても、当の内部留保(の投資を上回った分)は、既に国債の消化に使われてしまっているのだから、手元に使える現預金の形であるわけではない。そうした要求をするのなら、それに先立って、まず政府の側が国債の償還を行って企業に金を戻すことが前提条件として欠かせない、という話になる。いまや、そのことに意識的であるか、無意識的であるかにかかわらず、民間貯蓄の大宗は最終的には国債消化に使われている、というのが現実である。
コメント
私も以前は混同していたのですが、例えば、貯蓄のsaving は、投資家にとっての担保となるもので、ロスチャイルド言うの胎化された蓄えであり、弁済性を持つものです。そしてまた、彼の言う割引率discountとは、フローで考えられる利益だと認識していたのですが、国際法上の公会計基準が損益計算書が別に記載し、尚且つ、簿価から時価計算に置き換わり、フローとストックがワンセットになってしまったのが、先生がご提示された経済産業省(国連)の言う
「所得 ≡ 消費 + 投資」
であり、
所得 ≡ 消費 + 投資 + 政府支出 + 経常収支
ここへと繋がり、財政出動=Q2
となり、
投資=貯蓄
となるわけですが、諸外国とは違い、金利が安い国のストックは意味を持たないものと考えられます。ケインズの言う限界税率の3割を大きく超えているので、どれほど会計を厳格化しても、12月のボーナス時期に貯蓄率が上がり、2月の確定申告時に大幅に下がり、4月にまた株価が上がり、貯蓄率が上がる。今は、金利による圧力よりも、資金移動の流動性選好は、税率にペッグされていると思います。
1月12日発表の日銀「貸出資金吸収動向」によると2010年の全国銀行の貸し出し残高は前年比1.9%減、一方実質預金は2.7%増の541兆円で企業が手元資金を多めに確保しているとあります。
銀行は企業貯蓄を国債購入に充てているのは事実ですが、だからといって企業が預金を下ろすことを拒否はできません。手元資金を賃上げの原資にするというのも賛成できませんが、技術的には全く問題ないはずです。
先生の理屈では企業貯蓄は国債に化けているから設備投資等の資金需要にも銀行は応じられないという事になります。これはクラウド アウトの理屈ですが、銀行にしてみれば全く逆で民間の資金需要がないから預金は国債で運用せざるをえないということだと思います。
アレックスジョーンズや、マイケルムーアらのアンチブッシュ派はロンポールを支持していました。国民皆保険はそういった草の根運動から始まったのですが。ロンポールはまた、国連の常任理事国の議決権の中で、戦争参政権だけでも米議会に戻そうとしました。
しかしながら、国民皆保険だけで難航し、その後の大きな法案の可決どころではなくなってしまいました。それは、私が、国民皆保険に反対して、それが導入されると、収入0円でも国民健康保険料を払わないといけなくなると必死に訴えていたので、影響はあったと思われます。
国連の最大のスポンサーはロックフェラーです。世界的に国連への分担金は滞納が当たり前のようになっていて、本来であれば、ベトナム戦争の時に、国連は消滅してもおかしくなかったのです。
2000年以前は、国の経済統計の中でも借金総額は大蔵省の掲げるそれだけでした。経済産業省は一度、アメリカにより解体された旧内務省で、後藤田正晴が内務省の復活にあれほど傾倒したのは、内閣が極めて強烈な権力を誇っていた時代だからであり、警察だろうが、軍だろうが、議会がなんでも動かせる権力の時代の復活です。元警察官僚がそれを支持したのは言うまでもありません。
アメリカでは通常、国の借金の定義は長期国債のみに限定しており、バーセルにある国際決済銀行の定義する国の借金とは、地方債も含めた広義のものでしたが、短期においては、一カ月(不確かです)以内のものは含めない、民間銀行からの借り入れは含まないなど、いくらでも抜け道はあり、地元でも、財務省が推奨して、国債(地方債は含まない)の民間銀行借り入れ移行が進んでいました。地方債に関しては、競争の原理を導入するということです。
ここで言う国債は、国が行う事務であり、地方が負担するという部分の国債を言います。例えば、麻生内閣の定額給付金はまさしくそれにあたります。国会を通して法案が成立し、地方は借金を引き受け、事務作業も引き受けます。
高橋教授が指摘した埋蔵金は、数字上の便宜のものであり、実際に現金を引き出すとなると、国の財務事務を行う日銀がFBを発行し短期市場から現金を引き出し、それを銀行(ご丁寧にほぼ全ての銀行)に預け入れ(金利国民負担)それを国民は現金又は預金引き出しという形で受け取りました。
しかしながらそれらの埋蔵金は、地方の国債引き受け分が増えただけです。それを民間からの借り入れとする。つまり、民間借り入れが減った便宜上の数字が回りくどく金利を生みなが
ら、地方負担としての借金に生まれ変わり、それを民間借り入れに置き換えるならば、バーセル委員会の定義する国の借金ではないよということです。(笑)
企業内留保もそういったロジックを利用しないと引き出せないようになっており、ネットグロス決済(銀行間での不足部分のみを日銀調達分で補う)ようになってからは、資金ショートは考えにくく、日本振興銀行が、最初のペイオフ導入のモデルケースとなったのは、会計士や、弁護士からの指摘で、資金ショートではなく、宇都宮弁護士がグレー金利の撤廃を強行導入したためです。
橋本弁護士が彼らの敵にあたるというのも少なくない人が知っていることと思います。
訂正;;
橋下徹弁護士でした。かつては中小ローンの顧問弁護士として、負け知らずの手腕を発揮されていたらしいです。