人口減少 ~ 日本国民の価値観からの建て直しを ‐ 稲葉可奈子

2011年01月19日 15:23

『少子化対策大臣』なるものが設置され、子育て支援など対策を講じてはいるものの具体的な見通しは立っていない。子供手当は子育て支援にはなり得るが、少子化対策にはなり得ないだろう。都道府県別の所得と、婚姻数あたりの出生数を比較すれば分かるが、ほぼ反比例である。所得が少ないから子供が産めないわけではない。この事実を直視すれば、『所得が増えれば皆結婚し子供を産む』という理論は成立しない。

では、何故少子化が進むのか。何事も原因を突き止めないと根本からは変わらない。小手先の対策だけでは結局また元の木阿弥となる。人口減少の直接の原因は出生率の低さ、未婚率の高さであることは自明の事実。

では、『未婚率が高い』『出生率が低い』その原因は何なのか?
女性の社会進出が原因だ、と一蹴せずに、もう少し深く考えてみたい。


①なぜ結婚しないのか?結婚するとしてもなぜ遅いのか?

A)社会全体の晩婚化により、独身でも浮かない
B)女性の社会進出により、女性もキャリアを積んでから結婚・出産、が都会では常識
C)各分野の専門性が高まり、男女共に仕事で一人前になるのに時間がかかる
D)自立しなくても生活に困らず、精神的成熟が遅い
E)コンビニなどの発達により男一人でも生活に困らない
F)女性の社会進出により、女性も経済的に自立できる
G)ITの発達により一人暮らしでも孤独を感じにくい
H)結婚するメリットを感じない人が増えた

A), B), C), D)はここ数十年の日本社会の変化の結果として当然であるし、根底にはH)が根強く存在している。つまり、『キャリアを犠牲にしてまで積極的に結婚したいとは思わないから、仕事が一段落してからにしよう』という考えだ。
H)『結婚するメリットを感じない』は、E), F), G)の集約でもあり、加えて家族に対する価値観が大きく影響する。核家族や共働きの増加だけが原因ではないが、家族の絆がひ薄化した環境で育ち『家庭』に良いイメージを持たない(持てない)大人が増えている。『家庭=幸せ』ではなく、むしろ『家庭=しがらみが増えるだけ』という負のイメージしか持てない人にとっては、独身の方がよほど幸せだろう。もはや価値観の問題だ。

②なぜ出生率が低いか?

A)結婚年齢が上がると、必然的に生涯出産数は少なくなる
B)結婚しても子供を持たない、というのも選択肢となった
C)子作りは女性の仕事が一段落してから、という考え方が都会では常識化している
D)高齢出産が増え、自分もまだ大丈夫、と思ってしまう

B)『結婚しても子供を持たない』を敢えて選択するのは、『キャリア>子育て』の価値観があり、子育てによりキャリアを犠牲にするのを望まないためだろう。また、日本の未来に希望が持てないことも原因かもしれない。子供に明るい未来を与えられるならまだしも、子供を待ち受けるのは負債だらけの社会であり、子供が可哀そうだから作る気にならない、という声も聞く。
D)『高齢出産』に対する抵抗がなくなってきており、特に都会では高齢初産が増えている。実績をあげてから出産、高齢出産当たり前だし大丈夫、という思いも理解はできるが、まず、『高齢出産でも大丈夫』という考えは捨てて欲しい。高齢になるほど出産・分娩に伴うリスクは上がり、産後の回復も遅くなる。そして何より子育てが大変だ。子育てがどれ程大変で体力を必要とするか。仕事が人生の全てではない。家族・子育てに対するpriorityをもっと上げるような教育・国民の価値観の矯正・啓蒙が大切となる。

問題の根源はどこか。

便利になった社会そのものは悪くない。甘んじた人間が悪い。
少子化問題を根底から変える対策は、まとめると以下の二点。

Ⅰ.『家庭のイメージ』を根本から変える。
Ⅱ.『日本の将来のヴィジョン』をはっきりさせる。

Ⅰ. 『家庭』に対して良い印象がなければ家庭を持ちたいとも思えない。『温かい家庭』を持ちたいと思えれば、一緒に温かい家庭を持ちたいと思う相手を探す。家庭に対する印象は育った家庭において培われるが、社会の変化に伴い家族の絆はひ薄化している。どうすれば変えられるか。こういう抽象的な問題は国レベルで啓蒙しても届きにくい。間に幼稚園や学校を介すると効果的ではないか。教育機関で親の啓蒙を行う機会を設けることで、草の根的にではあるが、長期的な日本社会の質の改善に繋がると考える。

Ⅱ.自信を持って次世代に託せる日本社会の未来像を描かなければ、子供を作りたくないと国民が思うのも無理はない。安心して子供を産むために必要なのは、目先の補償よりも、長期的な補償である。来年の子供手当の財源確保で右往左往している場合ではなく、数十年先を見据えた国家戦略、具体的な数字を掲げて動き出すべきだ。明確なヴィジョンを国民に示すことで、日本の将来への国民の失望感を挽回でき、強いては、徐々にではあるが少子化是正に繋がるはずだ。

人口減少は必至であるし、人口減少に備えた社会整備、移民受け入れなどの対策も考慮するのは当然だが、それだけでは『日本国家』というものが骨抜きになりかねない。日本なりのアイデンティティを維持するためには『根治的治療』にも着手しなければならない。
(稲葉可奈子 三井記念病院産婦人科 医師)

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑