まねきTV最高裁判決についての補足

2011年01月20日 11:27

きのうの記事について現役の裁判官からコメントをいただいたので補足します。もちろん私は法律の専門家ではないので、以下の議論は「普通の国民の疑問」だと思ってください(長文で細かい話なので、関心のない方は無視してください)。

toeic_990pointsさんは、次のようにコメントしています:

本判決のポイントは、「まねきTV」が著作権法の「自動公衆送信の主体」とされた点です。著作権は、著作権者以外が同主体になることを禁じていますが、最高裁は、同主体の意義を、「当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者」と解釈し、その上で、まねきTVが、不特定多数からベースステーションを預かり、自分のテレビアンテナに接続していたことなどを理由に、同主体に当たると判断したものです。


おっしゃる通りです。「カラオケ法理」がハウジングにも適用される点がポイントですね。この場合、まねきTVに置かれているロケフリが「自動公衆送信装置」かどうかが争点です。それが自動公衆送信装置でなければ、まねきTVは公衆送信の「主体」ではありえないからです。これについてtoeic_990pointsさんは次のようにコメントしています:

この判断を前提にすれば、「市販の機材の所有者が自分に送信する」行為の場合、TV局が「自動公衆送信の主体」に当たると判断されると思われ、かかる行為は本判例の射程外です。

違います。この「射程」が今回の訴訟の最大の争点です。知財高裁の判決では、まねきTVのサービスは

  • ベースステーションは,名実ともに利用者が所有するものであり,その余は汎用品であり,本件サービスに特有のものではなく,特別なソフトウェアも使用していない

  • 1台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する1台の専用モニター又はパソコンにすぎず,1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることは予定されていない

という点を主たる理由として、「市販の機材の所有者が自分に送信する」サービスだと認定されました(p.37)。これに対して最高裁判決は、

著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある

という初めての解釈を示し、

当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。

という理由で、まねきTVのサービスは「市販の機材の所有者が自分に送信する」ものではないと判断したわけです(pp.4-5)。つまり不特定多数の利用者が自分あてに送信するサービスは、結果的に「公衆」に送信するので自動公衆送信になる、というのが今回の判決の新しい解釈です。

これは法律論としては、わからなくもありません。極端な話、まねきTVに100万台のロケフリが置かれてそれぞれの所有者が受信した場合、まねきTV全体としては100万人の「公衆」に送信していることになるからです。

しかしこのように解釈すると、不特定多数の加入できる通信はすべて公衆送信ということになるでしょう。たとえばGmailは自分のメールだけを処理するシステムですが、誰でも加入できるので、最高裁の定義によれば公衆送信です。したがってGmailにテレビ局の画像を添付して送った場合は、それが自分あてであっても違法になり、グーグルの日本法人は訴えられる可能性があります。

わかりやすくいえば、今回の判決はEメールもウェブサイトも同じだと判断しているのです。そういう解釈も、法律論としては成り立つのかもしれないが、これによって「判例の射程」は爆発的に広がり、およそインターネットで行なわれるすべての通信に対して、権利者が訴訟を起こすことができるようになります。もちろん

今回規制されたのは、第三者が、番組を無断で海外にネット配信する行為です。第三者のネット配信が不可能になった訳ではなく、TV局の許諾があれば当然可能になります。

しかし公衆送信についてはBGMにも個々に許諾が必要であり、現実には不可能です。このような問題があることから、今回の放送法改正では、ネット配信も有線放送と同様に包括ライセンスでOKということになったのですが、最高裁はそういう流れとは逆の判決を出してしまいました。

「まねきTV」のようなサービスの存在は、テレビ局がかかる新事業に進出する上で、大きな障害となります。テレビ局は多大な機会利益を逸する可能性があり、だからこそ、今回の提訴に踏み切ったのではないでしょうか。

テレビ局については私のほうが知っているので断言しますが、そのような海外向けサービスを彼らが行なう予定はないし、やっても利益は上がりません。NHKの国際放送でさえ、政府の補助金なしではできない。だから在外邦人のためにまねきTVのようなサービスが成り立っているのです。

今回の争点は、海外向けネット配信などというすきまサービスではなく、テレビ局が禁止している地デジの全国配信なのです。たとえばNTTのBフレッツでは、キー局の番組を全国に流すことができますが、それをわざわざ県境で止めています。著作権法で「当該放送区域内」の再送信しか認めていないからです。まねきTVが認められると、明らかに1対1の通信であるBフレッツで全国に(あるいは全世界に)配信することも合法になります。テレビ局は、それを恐れているのです。

そしてIT企業の法務部が私と同じように解釈すると、ホスティングやハウジングを新規事業として行なうことは社内的に禁止されるでしょう。既存の事業についても、海外に移転しないと危ない。このような過剰コンプライアンスが日本経済をいかに汚染しているか、最高裁は知らないのでしょうか。

最高裁がtoeic_990pointsさんのような(ある意味で純粋な)法律論で今回のような判決を下したのだとすると、問題は深刻です。こういう判決が法律的には正しくても経済的には大きな損害をもたらすことを認識していないと思われるからです。裁判官はテクノロジーの専門家ではないのだから、彼らの知識が時代についていけないのは仕方がない。そのために知財高裁ができたのだから、せめてその判断を尊重するのが最高裁の節度でしょう。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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