「自動公衆送信」の概念を廃止せよ

2011年01月23日 12:29

先日の私の記事には、現役の裁判官と思われるtoeic_990pointsさんからコメントがあり、建設的な議論が行なわれました。彼の結論は、私とおおむね一致したようです。

池田先生ご指摘のとおり、本判決は対象を「テレビ配信」に限定しておらず、インターネット情報等が一度サーバーを経由して配信される以上、サーバー業者等も、文面上は「送信主体」になり得ます。

この点が重要です。1対1の通信も多数が使うと「公衆」送信で、機材のユーザーだけではなくそれを設置した業者も著作権侵害の「主体」だという今回のまねきTVとロクラクの判決は、論理的にはすべてのネット配信を対象にする結果になります。


今回の判決は「テレビ番組のネット配信を違法にする」という結論がまずあって、それに合わせて「公衆」と「主体」の定義を拡大した印象が強い。最高裁はテレビ番組だけを目的とした業者が違法だというつもりかもしれないが、たとえばデータセンターで地デジを社内に配信している場合はどうでしょうか。Aだけやっていれば違法で、AとBをやっていれば適法ということにはならないでしょう。toeic_990pointsさんはこう書いています:

サーバー、クラウド等がこの判例の射程に入るのかどうかは、プロバイダ責任制限法の点を除けば、不特定者への著作物の転送(それ自体違法な行為)のみを目的とした本件のようなサービスと、インターネット情報への接続サービス(建前上は適法な情報への接続)が同視できるのかという問題になってくるでしょう。

1990年代にはウェブサイトによる「自動公衆送信」の責任はそれを掲載しているISPにあるとされ、警察がISPを家宅捜索するなどの事件が多発しました。これではインターネットが成り立たないということで、プロバイダ責任制限法ができたわけですが、今回の判決が「自動公衆送信」をすべての通信に広げてしまったため、「プロバイダ」として保護される範囲がどこまでなのか、わからなくなりました。少なくともまねきTVのような業者は違法なので、ハウジング業者は危ない。

きのうも業界の関係者から問い合わせがありました。裁判官にとっては、今回の判決の射程は限定されているのかもしれませんが、一般人にとっては「このように自動公衆送信を拡大解釈されると恐い」というのが実感です。企業の法務部は、自分の責任になることを恐れて「予防的」に拡大解釈するでしょう。このような萎縮効果がいかに大きいか、裁判官は知っているのでしょうか。

NTTは、国境のないインターネットに県境をつくるために数百億円の設備投資を強いられています。あるマンションチェーンでは、サーバから全国にテレビ番組を配信できますが、この判例のためにそれをしないで、わざわざ各マンションごとにアンテナを置いて共同受信している。それでも、今回の判決ではアウトですね。

アメリカでは、ケーブルTVが自社のサーバでテレビ番組を録画配信するネットワークDVRのサービスを行なっています。これにもテレビ局が訴訟を起こしましたが、連邦最高裁で「ネットワークDVRは合法」という判決が出ました。世界的には、ネットワークDVRがISPやケーブルTVの有力なサービスになっていますが、日本では自分のDVRをリモートで使うことさえ違法になってしまった。

今回の一連の判決は、通常の通信と区別してHTTPによる送信を自動公衆送信と規定した日本独特の著作権法の構造を最高裁が破壊し、TCP/IPによる通信はすべて自動公衆送信と定めたことを意味します。こうなると通信と区別して自動公衆送信や送信可能化権などの概念をつくる意味はないので、著作権法を改正して廃止し、普通の国のように通信と放送にわけるべきです。

この場合、IPマルチキャストは放送に分類し、ケーブルTVと同様に扱うのが世界の常識です。これを自動公衆送信として通信に分類したことが、日本のネット配信を混乱させた原因です。今回の放送法の改正でIPマルチキャストも放送に分類されることになったので、著作権法上の扱いも放送に統一すべきです。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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