就職活動から自己分析によって変容した「就活」

石川 貴善

明治以降の時代では、就職活動では面接や筆記試験などでふるいにかける方法は共通していますが、組織や社会的な要請とともにその意味合いは大きく異なっています。中でも就職活動と「就活」の違いは明らかにする段階にきているのではないでしょうか。


就職活動の変遷をたどると「紹介」→「大学の成績ベース」→「リクルータ経由の人間関係」→「エントリーシートとSPI」→「自己分析とお祈りメール」と変わっていますが、大学卒の学生が増加する中で選考方法や基準などが次第に曖昧になっています。

アゴラ-1

そもそもエントリーシートは、90年代初頭にソニーが始めたものですが、学歴による先入観やフィルタリングを極力排除するため、また履歴書の書式では内容が限られることから学生時代に活躍した内容などを分かるようにするために行われました。その後、自己啓発セミナーなどの影響と思われる「自己分析」の手法を取り入れてから、その目的・内容などが大きく変容し、戦後経済の中で組合対策に奔走した日本型労務管理も、完成の域に達しました。

企業にとって学生が自己分析を行うメリットとして
(1)求めている能力をいかに持っているか、学生自身でアピールするため評価しやすい。
(2)自分の内面をさらけ出すことにより、組織への一体感を高めやすい。
(3)本来自由業や公務員などに向いている、自己分析に違和感や抵抗を覚える学生をふるいにかけ、ミスマッチを未然に防ぐ。

ことがあります。逆に自己分析を進めていくことによって、下記のように様々な弊害が見られるようになっています。

1)自己の理想化が大きくなると、自分自身の本来の姿が見えなくなりやすい。
2)今までの生き方で影響されたものにふれるため、メディア業界の志望が増える。
3)面接などで評価が高いほど、入社してから理想と現実とのギャップに苦しみやすい。
4)同じく長時間労働と重なり、派遣・アルバイトを含めて1割以上が罹るとされているメンタルヘルスの一因に。
5)多くの日本企業の現場で現在抱える課題は、すでにポジティブシンキングや自己分析の域を超えている。
6)組織と融合する適性が強いことから既存の価値観や枠にとらわれやすく、例えば製造業(国際分業)やメディア(媒体の境目があいまいに)で抱えているパラダイムシフトに、若手ながら抵抗勢力の側に回りやすく、イノベーション停滞要因の1つに。

解決策としては「就活」を本来の就職活動に戻しながら、実際に働き出してからのキャリア形成を含めて見直すべきものと考えます。

1)試用と職階限定の流動化市場
多くの日本企業では逆ピラミッド構造となってポストや業務でひずみが生じていますし、今の「就活」では仕事内容とのミスマッチが生じがちです。実際に仕事や企業規模などの適性は、働いてみてからでないと分かりませんので、試用期間の拡大と第二新卒市場を拡大しながら、「回転ドア」となる労働市場を形成する段階に来ているものと考えます。

2)エリア総合職のような選択型キャリアパス
エリア総合職は金融機関を中心に、実質的に女性を対象とした職種ですが、家庭の事情などから安定した仕事を行うか、リスクを取ってでも頑張りたいのかを、会社側の都合もありますが本人がある程度選択できるキャリアパスにしていくことも一策です。既に公務員の世界ではあえて昇進試験を受けない、企業でも管理職を避けるため”ほどほどに働く”ことが実質的に行われていますが、企業側で追認することにより、ポストの濫造などを避けながら機動的な人件費の使途と適材適所に合わせた運用を行う段階に来ているでしょう。

コメント

  1. hamong より:

    >1)試用と職階限定の流動化市場

    よくよく考えたら博士課程修了者における研究者の労働市場はほぼこれに当てはまるように思えます。
    博士課程修了者で企業以外の研究者を目指す場合、初めに大学や産総研など独立行政法人の研究機関にポスドクとしてエントリーします。
    この時、自分の論文の本数、研究の指向性、どんな技術を持っているかが応募先に重要となるのでミスマッチはほとんど起きません。採用は現場の担当者(教授やプロジェクトリーダー)が面接に応じるので、何が出来るか、論文を書けるか、研究費を申請できるかなどの即戦力適正が重要視されます。また、大学の研究室の場合は周りが学生なので彼らの指導ができるかどうかも大きなポイントになります。これは1000万程度の研究費で雇われる場合、1人のポスドクで400~600万が人件費として使われるため、費用対効果を求めて即戦力とチームワークが極めて重要になるからです。

    ポスドクはいわゆる「試用」の段階に当てはまり、実績を積む(論文、特許、研究費など)ことが出来れば助教に推薦してもらえたりパーマネント雇用に移ります。その後はある程度安泰ですが、研究費を稼ぐには最低でもコンスタントに業績を上げる必要があるため、研究者として生きていくのは非常にシビアです。

    上記のケースは博士課程修了者が企業以外の研究者を目指す場合ですが、企業の場合でも大学や大学院卒とは異なり、転職者市場(技術、業績などが重要視される)と同様な就職活動を行います。