何が日本の経済成長を止めたのか

2011年02月02日 11:05

NIRAから、星=カシャップによる「何が日本の経済成長を止めたのか?」と題する研究報告書を送っていただいた。要約版は日経新聞にも出たので読んだ人も多いだろうが、もとの論文は現在の日本経済の問題点を多くの実証データで分析しているので、政治家や官僚のみなさんにも読んでほしい。

nira


この報告書のポイントは、日本の成長率がなぜこんなに急に落ちたのかということだ。日本経済が成熟したとか労働人口が減少するとかいう問題は、たしかに成長を減速させる要因ではあるが、上の図のように英米などは一人あたりGDPが増えても成長率はそれほど大きく減少していないのに対して、日本は90年代以降、成長率が急激に落ち込んだ。その原因として、彼らは次の3つの要因を指摘する:

  • 90年代の不良債権処理の失敗:バブル崩壊によって実質的に経営の破綻したゾンビ企業を銀行が追い貸しによって延命し、政府がそれを不適切な銀行監督政策で支援した結果、生産性の低い企業が数多く残って経済全体の成長率が低下した。

  • 規制改革の遅れ:小泉内閣で行われた郵政民営化を初めとする規制改革は、先進国では20年以上前に行われたものだが、それさえ抵抗勢力によって中途半端に終わった。それ以降の内閣では高度成長期の延長上のバラマキ政策が続けられ、低成長に戻った。
  • 金融・財政運営の失敗:経済の落ち込みに対して政府は、生産性を上げないで財政支出で総需要を支えようとしたため、非効率な公共事業が増えて財政を悪化させた。日銀はインフレ目標(0~2%)を実現できず、ゼロ金利の長期化はゾンビ企業を延命する結果になった。

この20年をみると、成長率が大きく上がったのは小泉政権の時期だけだった。したがって小泉改革の検証が重要だ。

  • 金融システム改革:不良債権を処理して金融を健全化した

  • 郵政民営化:金融を民営化したことは成功だが、民主党政権が元に戻した
  • 労働市場改革:非正規雇用は増えたが、労働市場は柔軟になっていない
  • FTAの推進と農業改革:ほとんど進んでいない
  • 規制改革:部分的にしか実現しなかった
  • 地方財政改革:財源の少ない自治体の抵抗で不十分に終わった

「小泉改革が格差を拡大した」などというのは間違いで、むしろそれが後の政権で巻き戻されたことが停滞の原因だ。民主党政権の「新成長戦略」の大部分は在来型の産業政策で、成長率を高める効果は期待できない。アジアへのインフラ輸出などの重商主義的な政策は、外需依存への回帰で効果は疑わしい。「観光立国」は、経済に与えるインパクトがほとんどない――と報告書は指摘している。

おおむね多くの経済学者のコンセンサスで、あまり目新しい指摘はないが、ゾンビ企業がまだかなり残存して生産性を下げているという実証データはおもしろい。JALのように劣化した企業がゼロ金利で延命され、そこに正社員がロックインされている結果、新しい企業もイノベーションも生まれない。

菅政権は「平成の開国」を看板にしているが、この報告書も指摘するように日本が輸出によって成長できる余地は少ない。むしろ対内直接投資や企業買収など「外→内」の金の流れを促進して「内需型」産業の効率を上げ、多様な企業の競争によって高度成長期から変わらない企業システムを変えることが重要だ。

このためには、金とともに人も動かなくてはならないが、90年代以降の政策はその逆だった。報告書も指摘するように、この20年の支離滅裂な経済政策は既存企業の正社員の雇用を守るという点では一貫している。そのために利益の上がらない企業が延命され、若年労働者の採用が減り、結果として雇用が大きく失われてしまった。日本政府は会社でいえば「実質破綻企業」であり、すべてを守ることはできないのだ。何を捨てて何を守るかの優先順位を明確にする政治決断が求められている。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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