林原の会社更生法適用申請に見る再生法制度の狭間

2011年02月04日 02:14

2月2日、岡山の林原が東京地裁に会社更生法の適用を申請した。林原は、甘味料「トレハロース」の世界生産をほぼ全量担っているバイオテクノロジー開発企業であり、多くの特許を持つ。そして同社は、研究期間が長期に渡るバイオ研究に馴染まないとして、これまで一貫して上場に否定的だった。非上場による資金調達力の不足を補ってきたのは、岡山駅近くの一等地に所有する広大な土地が生み出す利益と含み益であり、この経営方針はバブル崩壊までは順風満帆だった。しかし、不動産価格の下落や、長期投資型の研究開発費や不動産への過剰投資は収益を圧迫し、昨年には金融機関が融資に慎重な姿勢を見せはじめ、資金繰りに窮した。


会社更生法適用申請に至る経緯として、昨年12月からは、私的整理の一手法である事業再生ADR(裁判外紛争解決)による再建を模索し、金融機関に対して総額1,318億円にのぼる債務のうち215億円分を5年間の分割弁済、290億円をDES(デッド・エクイティ・スワップ=負債と株式の交換)引き受け要請することにより、債務超過を解消する事業計画を策定していた。しかし一方で、1990年から2001年までの12期にわたり総額288億円の架空売上を計上していたことや、金融機関への支払利息を資産として計上する等の不正経理が次々と発覚し、143億円の純資産とされた財務内容は、実は540億円の債務超過だったことも明らかになった。一連の不正経理に端を発した同社に対する金融機関の不信感は根深く、さらに1月28日には、これに追い討ちをかけるように、昨年12月に住友信託銀行へ50億円、メーンバンクである中国銀行への400億円の不動産担保を供与したことが明らかとなり、債権者平等の原則に反する詐害行為の疑いも出る中、第1回の債権者集会である2月2日を前に、28ある債権者金融機関全行の同意が必要な事業再生ADRの活用は断念せざるを得なかった経緯がある。(中国銀行株の10.7%(2010年3月現在)を林原グループ企業が保有していたことも、他行の一層の不信感を招いたようだ)

一般に、会社更生法や民事再生法の「法的整理」では、原則として仕入業者等の一般債権もカットされるが、私的整理の場合は、金融機関の債権のみがカットされる。私的整理のメリットとしては、一般債権者の債権が保護され連鎖倒産を防ぐ社会的な効果や、取引停止による資材調達難を回避できる点が挙げられる。また、多くの私的整理では、金融機関以外の債権者や取引先には経営不振が知らされず、信用不安による事業の毀損を回避できる効果も大きい(事業再生ADRでも、未上場企業については開示義務がないため、林原のケースは本来公表されないはずだった)。ただし、法的整理においては多数決で更生計画(または再生計画)案が可決されるのに対し、私的整理においては支援(債権カット)を要請する債権者全員の同意が必要であり、林原のように債権者金融機関の数が多いと、話がまとまらないことが多い。各行は、必ずしも自行にとっての経済合理性だけで判断する訳ではなく、判断材料には「あの銀行には、自行がメーンバンクだった別の再生事案で困らされたから、あの銀行がメーンである今回の私的整理案には同意しない」などという私怨に近い要素すら入ってくる。特に、今回のように一部金融機関の担保設定などというぬけがけが明るみに出ると、いよいよ収拾がつかなくなる。

事業再生ADRを利用すれば、透明性が確保されるとともに、金融機関には課税上のメリットもある。弁済から計画の実行までがごく短期間で行われ、債権者の管理コスト的な負担も少ない。しかし、事業再生ADRとて、金融機関が私的整理に同意する意思形成に強制力はないから、一行でも反対の姿勢を貫けば、法的整理に移行せざるを得ない。会社更生法の適用となれば、実態として更生計画認可までに1年~12年、債権の弁済が最終的に終了するまでには10年程度の長い時間を要し、債権者、債務者双方にとって非常に負担が大きく、社会的にも死荷重だ。

会社更生法は、特例措置で少額債権や連鎖倒産の可能性がある中小企業の債権については早期の弁済ができる。林原の場合も、一般債権が早期に全額支払われる方針であるのはせめてもの救いだが、有形無形で地域経済に与える影響は甚大だろう。筆者は決して、地域の活性化などという経済的非効率を翼賛する立場ではないが、「均衡ある国土の発展」の下で出来てしまった地方都市については、少なくともソフトランディングさせる必要はあると考える。林原のように「上場をめざしていない非上場企業」というものは、経営者一族のお手盛り経営になり、どうしても企業統治が弱い。そして、資本での資金調達できない分、負債が多い。負債が膨らむ過程では、複数の金融機関から借入れをするようになる。林原は極端な例だが、地方都市の中規模以上かつ非上場の企業が持つ特有の傾向を象徴しており、この領域をカバーする再生法や制度の整備が急がれる。

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