財政破綻に備えた資産防衛を考える時なのか

井上 悦義

財政破綻のシナリオが公然と語られ始めている。しかしながら、「ジャパンアズナンバーワン」など日本を賞賛する声にうぬぼれ、長年続いた「GDP世界第2位」といった経済的地位にあぐらをかき、「平和ボケ」した国民の間に危機感はいまだ浸透せず、むしろ財政破綻論を「オオカミ少年」と嘲笑する声も絶えない。

政治も、歳入の約4割を占める赤字国債の発行に必要な「公債特例法」を中心とした予算関連法案の否決が現実味を帯びても、なお政争に明け暮れ、危機感が微塵も感じられない。このようななか、財政破綻はもはや避けられない既成事実なのであろうか。


財政危機が表面化すれば、国債価格の下落(=金利上昇)を通じて、国債を大量に抱える金融機関への打撃は極めて大きく、金融恐慌とも呼べる大不況が日本に襲い掛かり、戦後最大の危機が到来するだろう。

そのなか、銀行、証券会社、生命保険会社の経営破綻時の預金者、投資家などの保護制度はどのようになっているかを調べてみた。

銀行は、「預金保険制度」により、当座預金や利息の付かない普通預金(決済用預金)は全額保護の対象となり、利息の付く普通預金や定期預金なども、預金者1人あたり1金融機関ごとに、元本1000万円までとその利息が保護される。しかし、この制度は、外貨預金などには適用されない。

また、日本国内に本店がある銀行や信用組合などの国内拠点には適用されるが、それら金融機関の海外支店、政府系金融機関、外国に本店がある銀行の在日支店には適用されない。さらに、これは「預金」を守るためのものなので、証券会社や保険会社にも適用されない。

証券会社を通じて購入した有価証券などの資産は、証券会社の資産とは別に「分別管理」されているため、証券会社が倒産しても、それが原因で資産が戻ってこないことはない。預り金などの信託を受けた信託銀行が倒産した場合でも、信託資産は信託法により銀行の資産とは区別されているため、投資家の資産は保護される。

さらに、万が一、顧客からの預り金を信託銀行へ信託する前に証券会社が倒産してしまったなど、何らかの事情で資産の返還が適切に行われない場合は、すべての証券会社が会員となっている「日本投資者保護基金」から1000万円を上限に補償がなされる。(ただし、財源は約500億円と少ない。)

一方、生命保険は、国内で事業を行うすべての生命保険会社が加入する「生命保険契約者保護機構」により、一定の契約者保護が図られるが、制度上、保障される保険の減額は避けられなくなるだろう。

伝統的な生命保険会社は、大量に国債を保有し、平均残存期間も長いため、国債価格が下落すれば、経営に大きな打撃となる。「生命保険契約者保護機構」の財源も、借入限度額が4600億円(プラス政府補助)と少ないため、資産規模が大きい生命保険会社が1社でも経営破綻するような事態になれば、財源の枯渇もありえる。財源が枯渇してしまえば、破綻した生命保険会社の受け皿さえなくなってしまうということもあるだろう。財政危機が表面化すれば、政府も破綻した生命保険会社を満足に救済できるだけの体力はない。

しかし、それにしても情けない。危機に備えた対策を考えないと駄目なほど、いつから日本人はこれほどまでに危機に疎くなり、堕落したのか。

財政破綻をきっかけに大改革が行われるのは間違いないため、財政破綻を歓迎する向きもある。また、投資機会と捉え、この機会を虎視眈々と狙う機関投資家や個人投資家もいるのだろう。しかし、コントロールの効かない激しいインフレを日本が襲ったのであれば、そこには悲惨な光景が広がっているはずだ。

激しいインフレにより現金(日本円)の価値は大幅に毀損する。大不況が訪れ、街には失業者・ホームレスがあふれ、治安も悪化し、自殺者は増加する。

あなたも他人事ではない。大切な資産だけでなく、大切な人を亡くしてしまうかもしれないのだ。仮に資産防衛に成功したとしても、悲惨な光景を目の前に幸せを感じられるか。このような世界をどうして歓迎できようか。

ギリシャやアイルランドなどが、まだ国家の体を成せるのは、国の経済規模が小さく、EUやIMFを中心に、世界各国が資金援助を出来ているからである。IMFの融資財源は1兆ドルに満たず、米国も1兆ドルを超える財政赤字が4年連続になろうとしているなか、“毎年”150兆円を超える国債を発行し続ける日本を救える機関や国はどこにも存在しない。

日本は、自助努力で立ち直るしか方法はないのだ。それが出来なければ、財政破綻からコントロールの効かない激しいインフレが到来する可能性がある。そこで待ち受ける世界は悲劇だ。そのような世界が嫌なのであれば、今、「痛み」を受け入れ、改革に邁進するしかない。

日本にはもう時間がないのだ。政策論は出尽くしている。足りないのは、国民の危機感の共有と政治の実行力だ。

井上悦義(アゴラ執筆メンバー)
ブログ:http://d.hatena.ne.jp/etsuyoshi/ Twitter:http://twitter.com/etsuyoshi

コメント

  1. mekashin01 より:

    改革というのは
    公務員、年金生活者、生活保護者など
    政府のお金で暮らしている人に今よりも貧乏になってくれ
    ということなのです。

    あなたの親にそのことを説得することはできますか?
    友達の公務員に給料を大幅に減らしてくれといえますか?
    自分ができないのに政治家にできるわけありません。

    日本の年金、福祉が先食いで設計されたことが問題で
    どちらにしろ払わなければならない
    それが急かゆっくりかの違いだけです。

  2. hariwo より:

    金融機関と生保がばたばたと倒れることは理解できますが、
    激しいインフレ・大不況・失業者やホームレスが街にあふれ・・・の部分については、論理の飛躍がありはしませんか?
    私は本当にそのようになるかについては否定的な意見をもっています。
    というのは、日本にはもっと買われてもよい企業・人・商品・資源がたくさんあるにもかかわらず、為替や規制やとんでもない不採算・非効率のしりふきのために買いにはいりずらい部分があると思っています。その負の部分が清算されたとき、日本がどうなるのかとても興味があります。

  3. hogeihantai より:

    資産防衛でなく「ピンチはチャンス」国債暴落必死だと確信できるのであれば、これで大儲けしたらどうですか?

    2009年3月から長期国債先物は個人でも取引できるよう最小単位が1000万からとなってます、証拠金が20万円もあれば取引できます。暴落すると信じるのであれば先物を売ればよいのです。現在10年物で1.3%だから仮に金利が下がっても損は限られてます。金利の上限は青天井だから10%位に急騰すれば大儲けですよ。低リスク、ハイリターンの投資です。

    固定金利ローンで不動産を買うのも良いでしょう。藤巻健史氏がブログ(確か前々回のブログ)で解説してます。

    何時暴落するかが問題ですが、今一番可能性がある引き金は第三次オイルショックではないでしょうか。中東はかなりきな臭くなってきました。湾岸諸国やサウジアラビアに火がつけば世界恐慌、その可能性は高くなってきましたね。

  4. ケット より:

    資産のある人は国民の何割ですか?
    さらに、「今円が紙切れになっても世界のどこでも稼げる」人は何人いますか?

    「2012、国家破綻は必ず来る!資産防衛100の方法」という本は山ほどありますが、その中に一つとして、資産がない貧困層に向けられたメッセージはないのです。
    貧困層は、その時には死ぬほかないのでしょうか?

    生存権を前提にするか否か、最初にそれだけ、誰もがはっきりさせたほうがいいと思います。
    生存権を否定するなら、それによる弊害をどう処理するか、も。何の害もなく貧困層が黙って家で餓死したとしても、その死体処理にそれなりの社会コストはかかりますので。

  5. sudoku_smith より:

    >あなたの親にそのことを説得することはできますか?
    >友達の公務員に給料を大幅に減らしてくれといえますか?

    民間企業では、仕事がなくなれば、同僚や部下に「すまない、仕事も給料もないんだ。やめてくれ」と言わなくてはいけないことがあります。
    なぜ公務員には言ってはいけないんでしょう。
    親が子供の稼ぎを浪費したら、「やめてくれ」というのは扶養者としては仕方のない事でしょう。
    問題は、「浪費」なのです。個人レベルでなく、社会の仕組みとしてのね。

    先食いは、確かに問題ですが、「してしまった」と「している」は違います。今、先食いしているなら子供は「やめてくれ」と言う権利があると思います。

  6. backstreet0219 より:

    かつては自民党、今は民主党である政権与党を中心とした政府は国債のデフォルトを想定しており、いつ誰が国民に通告するか盥回し状態である。今こそ、権力の監視役であるメディアがその事実を報じ、財政破綻末期である事を国民に認識させる事が必要である。