原発の未来、国民的合意の期待 ― コストに注視を   ‐ 石井孝明

2011年03月22日 13:54

震災で起こった原発の事故、そして東日本での電力不足と停電。過酷な現実によってエネルギーと原発への国民の関心は高まった。未来をどうするべきかの議論が、これから始まるであろう。それへの期待と、重要な論点となる発電コストをここで考えたい。この危機は、エネルギーをめぐる分裂した国論をまとめるチャンスに転じることができる。残された私たちがよりよい社会を創り出さなければ、亡くなった数万人の犠牲者の御霊(みたま)を安らかにはできない。


■「議論の空間」が作られなかったエネルギー政策

日本は経済活動で「無資源国」という重荷を背負う。ところが国民のエネルギー問題への関心はそれほど高くなかった。これは原発をめぐる対立で、国民の合意を集約する営みがおろそかになったことが一因であろう。これまで、政府と原発を巡る推進派と、それに対する少数の反対派の対立があった。推進派は反対派からの自己防衛に力を注ぎ、政府は国民的な合意を積み重ねるという取り組みが真剣に行われなかった。

これは反対派に一因があった。「怖いんだ。だから止めろ!」。私は原発を巡る電力会社と市民団体の対話集会で、ある活動家の絶叫を聞いた。反対派には、恐怖という感情に基ずく主張が目立った。そして代替案を出して、現実の政策に反映させる手腕も努力も欠けていた。そのために主張が世論の広い支持を受けることがなかった。この態度がもたらしたのは反感だ。官僚、学者、電力会社、原発メーカーなど社会的に「エリート」と分類される推進派からは、反対派を異質な存在とみなし、黙殺・軽蔑する傾向を私は感じた。

「自分の仕事を罵られる悔しさが分かるか」。私は取材で、ある電力会社の原子力担当幹部から反対派への憤りを聞いた。不当な批判への悔しさは理解できるが、冷静に考えるべき問題を感情的にとらえていることに驚いたことがある。

こうした対立の結果、日本ではエネルギー問題を考える際に、「原発の賛成、反対」という二項対立で問題をとらえるようになった。政府・推進派は反対派と合意をすり合わせることなく原発を作り続けた。意見を集める場が少ないために大多数の国民は、金を払って電気を利用するだけの単なる「消費者」になり、自らエネルギーの行く末にかかわることはなかった。これは危険な結末をもたらした。原発への疑問は、正しい指摘もあるのに聞いてもらえない「カサンドラの叫び」になってしまった。

その状況は今回の震災、そして原発事故で変わるだろう。国民全体で、未来を考える状況が生まれるかもしれない。そこでの建設的な議論と、国論の統一の希望がある。

■忘れてはならない経済性

しかし、エネルギーの未来についての議論では合理的な思考が望まれる。そして省エネの推進と自然エネルギーの普及が解決の方向であることは明らかで、その点では国民の合意を作り出せるだろう。しかし日本の電力の3割を作る原発への対応では意見が分かれるはずだ。原発を考えるべき多くの論点があるが、特にその中で経済性の問題を指摘したい。

経産省の試算では原発の発電コストは建設費と再処理費用を含めても電力のキロワットアワー(kWh)当たりで5.3円、日本の発電コストの平均は6.7円になる。一方で自然エネルギーは太陽光で47円以上、風力9-12円、バイオマス発電12.5円、地熱22-20円と高い。

建設費も高額だ。電事連(電気事業連合会)によれば発電能力130万kWの原子炉は1基3500億円程度。同じ発電能力を持つには住宅太陽光(3.5kw)では愛知県の世帯数と同じ360万世帯での設置と10兆円以上の投資が必要だ。風車は約1万機が必要で琵琶湖1つ分の土地が必要となり建設費も1兆円程度かかる。

2003年に電気事業連合会は使用済み核燃料の再処理費用の見積もりを今後80年間にわたり総額18.8兆円と試算した。再処理はまだ実施されていないが、楽観的試算と批判されている。大変な巨額だが、他のエネルギーのコストも直視しなければならない。石油が史上最高値となった08年に日本は23兆円の石油を輸入した。この額は「製造業御三家」の鉄鋼、自動車、電子電気の輸出額とほぼ同じだ。今後は新興経済国の需要の増加でエネルギー価格の高騰が見込まれ、石油・化石燃料に頼ることはできない。

推進派の試算であることは考慮しなければならないが、自然エネルギーのコスト面の厳しい現実が分かるであろう。経済性から考えれば、急速な脱原発は現実的ではない。代替案のないまま「原発を止める」選択は日本経済の縮小しかもたらさない。原発の発電を維持しながら、省エネを進め、自然エネルギーの能力の向上を待つのが合理的な策だ。

エネルギーをめぐる政策の議論では一つひとつ問題を検証して、国民的合意を丁寧に作り上げたい。国民の合意のある政策は、力強く、持続するものになる。そして衆知を集めた合意は日本の国の姿をよりよいものにするはずだ。

石井孝明 (経済・環境ジャーナリストBlog

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