問題は「脱原発」ではなく「電力の全面自由化」である

2011年04月12日 15:39

原発担当相に細野豪志首相補佐官が起用されることになった。彼には「アゴラ」や私のブログをお読みいただいているようなので、あらためて原発をめぐるアジェンダ設定についてまとめておきたい。

まず重要なのは、政府が「脱原発か原発推進か」という不毛な論争に巻き込まれないことだ。原子力は発電形態の一つにすぎず、電力はエネルギーの一種である。したがって、まずエネルギー政策をどうするかという戦略を考え、それにもとづいて電力の供給体制という戦術を考え、そのオプションの一つとして原子力がある。この順序を間違えて、原子力か否かという論争にはまり込むと収拾がつかなくなる。


今回の計画停電で露呈した第一の問題は、電力に過剰に依存した社会は脆弱だということだろう。化石燃料を電力に変換すると効率が落ちるので、オール電化ハウスとか電気自動車などの非効率的な技術を政府が補助することはやめたほうがよい。また計画停電のような統制経済ではなく、電力税などによってピーク時の電力消費を抑制する政策をとるべきだ。

長期的な課題は、電力供給体制の多様化である。経済学の教科書では、電力会社は「自然独占」の一種とされていることが多いが、これは昔の話である。現在では、東電の管内だけでもピーク時の電力消費は6000万kWを超えるのに対して、原発は1基100万kW程度。原発そのものには規模の経済があるが、これを東電が集中的にもつことによる規模の経済はない。たとえば福島第一・第二原発を「福島電力」として分割しても、技術的な効率は失われない。

逆にいうと、電気事業法で認めている地域独占が反競争的な規制だということである。独禁法の基準で考えると、各地域の電力会社は数社に分割して競争させたほうがよい。企業分割は独禁法上もっとも強い規制であり、軽々に発動すべきではないが、それによって電力を安定して低コストで供給できるなら、考慮に値する。これまで経産省の行なってきた電力自由化が失敗したのも、電力会社の経営形態に手をつけなかったからだ。

ただ送電網には自然独占性があるので、発送電の分離が必要である。今でも電力の卸売市場があるが、電力会社が送電網の利用料金を過大に設定しているため、工場などから電力会社への売電は送電量の1%程度しかない。送電網を発電会社から分離して広域的に一元化する必要がある。送電網には強い規制が必要なので、東電はこの送電会社になり、発電会社は株式市場で分割して売却すればよい。

このとき、発電会社の採算性が市場で問われよう。原発のコストは、公式には化石燃料に近いことになっているが、総額で18兆円に及ぶ核燃料サイクルなどのコストが算入されていない。こうした巨額のサンクコストが電力会社が原子力に固執する理由だが、株式市場はサンクコストを無視するから、事故のリスクを入れてプラントの割引現在価値を計算すると、原発は火力発電に劣る可能性が高い。

発電方式として何を選ぶかは、株式市場で決めればよい。原発のリスクよりリターンのほうが大きいという電力会社の主張が正しければ、原発が市場で選ばれるだろう。再生可能エネルギーが原発より低コストだという反原発派の主張が本当なら、それを採用した企業が市場に参入するだろう。原発がいいか悪いか神学論争を繰り返すよりも、投資家に自己責任で選んでもらえばいいのである。

もちろんプラントの現在価値の計算にバイアスが入らないように政府が競争条件をコントロールする必要はあるが、発電会社は東電を最大5社ぐらいに分割できるので、基本的に自由競争で問題は起こらない。外資規制も不要なので、海外ファンドも投資するだろう。このように電力業界を全面的に自由化し、市場メカニズムを活用して日本経済を活性化することが、復興の制度設計のモデルとなろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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