"FUKUSHIMA"後、世界の原子力は縮小するのか?

2011年04月14日 01:04

福島第1原発の事故は依然として予断を許さない状況が続いている。史上最悪の原発事故といわれたチェルノブイリと同じレベル7であることを政府は発表した。むろん多数の死者を出したチェルノブイリと今回の”FUKUSHIMA”は、人々への健康被害という点では比べようもないのだが、それでも21世紀に日本という先進国で大量の放射能が放出されたという事実は重い。311以前は官民あげて日本の原発を世界に売りこむため、民主党の大臣も日本の原発のセールスマンとして世界を飛び回ろうとしていた。自民党も民主党も原子力を推進してきた。エネルギー安全保障の観点からも日本は原子力に頼らざるをえなかったのだ。今後は日本国政府の原子力政策もスロー・ダウンせざるを得ないと思われる。しかし今週末に行われた地方知事選を見ると、原発のある全ての県で原発廃止を訴える候補を退け現職知事がそろって当選した。日本の原子力は非常にきびしい局面に立たされているが、少なくとも可及的速やかに全ての原発を廃止するというような積極的な脱原発という方向にはいかないように思われる。すでに3分の1の電力を原発で担う日本にとって、それは経済的には自殺行為に他ならないからだ。それでは世界の原子力はどうなるのだろうか?


オバマ大統領は”FUKUSHIMA”後も、10年以内に石油の輸入量を3分の1に減らすため、再生可能エネルギーと共に原子力発電も積極的に推進していくことを発表している。アメリカ国民は、良くも悪くも国外の「事象」に感心が薄く、アメリカの原子力産業にとってはそれが幸いしたのかもしれない。80%の電力を原子力に頼るフランスも当然のように原子力政策に変更がないことを宣言している。今更変更しようがないからだ。そこで注目されるのは中国の動向だ。現在、世界に441基の原発があり、60基の原発が建設中である。そしてその60基のうち半分が中国だ。東芝-ウェスチングハウス社が開発した原子炉AP1000が中国の原発のフラグシップとして採用されている。AP1000は第3世代の軽水炉であり、125万kWの発電力を持つ。これ1基で65万人程度の都市の電力を全てまかなえる。Passive-Safetyデザインの採用により、あらゆる電源が消失しても、自動的に冷却水が循環するように設計されている。つまりこの最新の原子炉なら、福島の事故は起こらなかったのである。最新の軽水炉ははるかにパワフルで、かつ安全性が高まっているのだ。中国政府は今のところ明確なメッセージを発していないが、国民に日本の原発事故に対して中国には影響しないから冷静になるように繰り返しうったえていることから、中国政府としては原子力政策を”FUKUSHIMA”後も変えたくないという意思が見え隠れしている。

現実的に世界の電力に関する制約条件を考えると、世界の電力消費を補えるエネルギーはふたつしかないことがわかる。石油、石炭、ガスなどの化石燃料と原子力だ。太陽電池や風力のような再生可能エネルギーは依然として非常に非力であり、現状では補助金頼りで先が全く見えない。化石燃料はおそらく原子力よりは安いが、CO2などの温室効果ガスを排出し、窒素酸化物のような汚染物質を撒き散らす。WHOによると世界で大気汚染が原因で死亡する人は年間200万人以上である。汚染物質の半分は自動車の排ガスで、ついで石炭による火力発電などが続く。仮に世界の火力発電を原子力発電に切り替え、電気自動車にすれば100万人以上の人命が救われることになる。化石燃料は「今のところ」安価なエネルギー源だが、それはおびただしい数の命を犠牲にしているのである。いずれは枯渇し、中東などの地政学的に不安定な地域に遍在する化石燃料に依存することは、持続可能ではないだろう。

中国は第3世代の軽水炉を中心に原子力政策を進めようとしているが、アメリカの状況を見ると原子力の別の道が見えてくる。オバマ政権発足に伴いアメリカ合衆国エネルギー長官に就任したノーベル物理学賞受賞者のSteven Chuは、”Small-reactor”と呼ばれる小型の新しい原子炉を開発する研究プロジェクトに多額の研究助成金を与えている。これは巨大な施設が必要な旧来の原子炉ではなく、自動車と同じぐらいの大きさのコンパクトな原子炉である。福島原発の事故では、核燃料はあと数年間は冷やし続けなくてはいけない。逆にいえば、そういった熱をうまく利用すれば、コンパクトな原子炉が開発できる。たとえばビル・ゲーツは濃縮ウランではなく、劣化ウランを燃料とするSmall-reactorを開発するテラ・パワーというベンチャー企業に多額の投資をしている。他にもHyperioやNuSCALEといったベンチャー企業がこの分野で競争している。スリーマイルで苦境に立たされたアメリカの原子力産業は、水面下で着々と進化していたのだ。

60億人の人口を抱える地球が今後も経済成長していけば、明らかに地球環境がもたない。そして化石燃料の値段が高騰すれば、結局困るのは貧しい下の半分の人たちなのだ。ビル・ゲーツなどの慈善事業に積極的な世界のリーダーたちはこういった地球規模の問題を真剣に取り組んでおり、その有望な解決策が安価なSmall-reactorの大量生産なのである。途上国では必ずしも現在の軽水炉のような大型の原子力発電所を安全に運用できるわけではない。簡単に使えて、車を輸出するように、世界中に輸出できる原子炉が必要なのである。そして劣化ウランのような核燃料廃棄物で発電できれば、それこそ資源は無尽蔵に存在することになる。

最後に今後の世界のエネルギー政策に対して筆者なりの予測を示しておこう。”FUKUSHIMA”後、世界の原子力は縮小するのか? 筆者の答えは”YES”である。ただし縮小するのは原子力により作られる電力ではなく、原子炉のサイズだけだろう。

参考資料
Air quality and health, WHO
AP1000, Westinghouse
原子炉のイノベーション、池田信夫ブログ
「ゼロへのイノベーション」 ビル=ゲイツ、エネルギーについて語る。TED
TerraPower
Hyperion Power
NuSCALE Power
原発を擁護する、アゴラ
原子爆弾と原子力発電所の作り方、金融日記
風力発電の不都合な真実―風力発電は本当に環境に優しいのか? 武田恵世

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