「自然エネルギー財団」より電力事業のイノベーションを

2011年04月20日 20:42

孫正義氏が、太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及を促進する「自然エネルギー財団」を設立すると発表した。震災の被災者に100億円を投じた上にエネルギー開発に10億円を投じる行動力には敬意を表するが、この財団は的はずれである。


以前の記事でも説明したように、日本のエネルギー政策が混乱してきた一つの原因は、何よりも先に「原発か反原発か」あるいは「化石燃料か再生可能エネルギーか」というイデオロギー対立があり、経済成長のためにどういうエネルギーのポートフォリオが最適かという戦略が置き去りにされてきたことにある。

経済学的にいえば、目的関数はエネルギーの(安全性を内部化した)効率性であり、社会的コスト当たりの発電量を最大化することだ。もう一つの変数は、地政学リスクなどに対応するオプション価値である。この二つの変数で最適化すると、原子力と化石燃料をベースロードに使い、分散型の再生可能エネルギーはその負荷を減らすピークロード対策にあてる現在のエネルギー政策はおおむね妥当なものだろう。

もちろん再生可能エネルギーを普及させるのは結構なことだが、そのために必要なのは技術開発ではなく採算性である。現在の地域独占のもとでは、電力会社が再生可能エネルギーを導入するインセンティブはない。高コストで出力が小さく、送電網が不安定になるからだ。民主党政権が「グリーン・エネルギー」に補助金を出したりして熱心なのでおつきあいしているだけで、補助金のハシゴがはずされたら、どうなるかわからない。

最初に「再生可能エネルギーを最大化する」という特定の手段を自己目的化すると、採算を無視して太陽光発電所を建てろといった話になりかねない。これは孫氏が主張した「光の道」と同じく、戦略(エネルギー政策)よりも先に戦術(特定のインフラ)を決める主客転倒である。被災地では、NTTは復興に光ファイバーを敷設するよりも携帯電話の基地局を優先している。そのほうが費用対効果が高いからだ。光ファイバーが通信手段の一つに過ぎないように、再生可能エネルギーも発電手段の一つに過ぎない。

それよりも業界が孫氏に期待しているのは、IPP(独立系発電事業者)として電力事業に参入することだ。霞ヶ関では、東電の解体や発送電の分離が論議されているが、いくら送電網を分離しても、新しい事業者が参入しなければ意味がない。いま日本には50以上のIPPがあるが、ほとんどは重厚長大企業やガス会社などの公益企業で、東電に正面から挑戦するベンチャー企業はいない。

いま電力事業に必要なのは、技術開発ではなく地域独占を超える新しいビジネスモデルである。孫氏がこれほどエネルギー産業に関心があるのなら発送電の分離を提唱し、ソフトバンクをどこかに売却して、その資金で電力事業に参入してはどうだろうか。もし再生可能エネルギーが本当に原子力や化石燃料より効率的なら、既存の電力会社よりもうかるだろう。何が最適のエネルギーかは市場で決めるのがベストである。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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