原子力の時代は終わった - 『日本復興計画』

2011年04月30日 11:34

日本復興計画 Japan;The Road to Recovery日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
販売元:文藝春秋
(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆


献本に添えられた手紙によると、本書の企画はホリエモンと私のブログで3月15日に著者のビデオを紹介したのがきっかけだという。本書はそれを含む3回の番組を収録した緊急出版で、まえがきの日付は4月14日という超スピードだが、著者の福島第一原発の事故についての評価は、いま読んでもかなり正確である。

著者は日立の原子力技術者だったので、その工学的な構造についてのコメントは的確だ。今回の事故は原発の危険性を証明したように見えるが、仔細に見ると逆である。原発事故でもっとも恐いのは、チェルノブイリのように核燃料が暴走して原子炉が破壊される事態だが、40年以上たって老朽化した福島第一でも、運転は正常に止まった。

ECCS(緊急炉心冷却装置)が止まるところまでは想定内だったが、予備電源がすべて津波をかぶってだめになり、予備の電力を供給する東北電力の鉄塔が地震で倒れ、さらに電源車の電圧が違う(福島第一はGE製で440V)ために使えなかった。これは福島第二のように予備電源を原子炉建屋に入れておけば防げた単純な設計ミスであり、原発一般の問題とはわけて考えるべきだ。

地震と津波と原発という3つの条件が重なるのは、日本以外では(断層近くの海岸に立地している)カリフォルニアのサンオノフレ原発しかないという。今回の事故は、およそ考えられる最悪の偶然が重なったので、これ以上の事故が世界の他の場所で起こることは考えられない。しかも放射線の被曝による死傷者は出ていない。事故調査委員会が原因を分析して世界に発表すれば、誤解は解けるだろう。

しかし著者は、日本では「原子力の時代は終わった」という。東電のお粗末な危機管理で、原発への信頼が失われてしまったからだ。今後しばらく原発の新規立地は不可能であり、数兆円にのぼる損害賠償のリスクを民間企業が負うのも無理だ。原発の穴を化石燃料などで埋めることは容易ではなく、コスト上昇は避けられない。スマート・グリッドなどの新技術によって、徹底したエネルギー節約を行なうしかない。

本書はテレビ番組を書き起こしたもので完成度は低く、126ページで1143円は高い(電子書籍向きだ)。しかし原発や放射能をめぐる流言蜚語が流される一方、原子力工学の専門家が「御用学者」と罵倒されるのを恐れて発言しない中では、工学的な知識を踏まえた著者のコメントは貴重である。

追記:編集者からコメントが来た。第3章は書き下ろしだそうである。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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