日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
販売元:文藝春秋
(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆
献本に添えられた手紙によると、本書の企画はホリエモンと私のブログで3月15日に著者のビデオを紹介したのがきっかけだという。本書はそれを含む3回の番組を収録した緊急出版で、まえがきの日付は4月14日という超スピードだが、著者の福島第一原発の事故についての評価は、いま読んでもかなり正確である。
著者は日立の原子力技術者だったので、その工学的な構造についてのコメントは的確だ。今回の事故は原発の危険性を証明したように見えるが、仔細に見ると逆である。原発事故でもっとも恐いのは、チェルノブイリのように核燃料が暴走して原子炉が破壊される事態だが、40年以上たって老朽化した福島第一でも、運転は正常に止まった。
ECCS(緊急炉心冷却装置)が止まるところまでは想定内だったが、予備電源がすべて津波をかぶってだめになり、予備の電力を供給する東北電力の鉄塔が地震で倒れ、さらに電源車の電圧が違う(福島第一はGE製で440V)ために使えなかった。これは福島第二のように予備電源を原子炉建屋に入れておけば防げた単純な設計ミスであり、原発一般の問題とはわけて考えるべきだ。
地震と津波と原発という3つの条件が重なるのは、日本以外では(断層近くの海岸に立地している)カリフォルニアのサンオノフレ原発しかないという。今回の事故は、およそ考えられる最悪の偶然が重なったので、これ以上の事故が世界の他の場所で起こることは考えられない。しかも放射線の被曝による死傷者は出ていない。事故調査委員会が原因を分析して世界に発表すれば、誤解は解けるだろう。
しかし著者は、日本では「原子力の時代は終わった」という。東電のお粗末な危機管理で、原発への信頼が失われてしまったからだ。今後しばらく原発の新規立地は不可能であり、数兆円にのぼる損害賠償のリスクを民間企業が負うのも無理だ。原発の穴を化石燃料などで埋めることは容易ではなく、コスト上昇は避けられない。スマート・グリッドなどの新技術によって、徹底したエネルギー節約を行なうしかない。
本書はテレビ番組を書き起こしたもので完成度は低く、126ページで1143円は高い(電子書籍向きだ)。しかし原発や放射能をめぐる流言蜚語が流される一方、原子力工学の専門家が「御用学者」と罵倒されるのを恐れて発言しない中では、工学的な知識を踏まえた著者のコメントは貴重である。
追記:編集者からコメントが来た。第3章は書き下ろしだそうである。
コメント
世論は比較的冷静のようです。
http://www.asahi.com/national/update/0417/TKY201104170324.html
原発事故直後にもかかわらず反原発派は14ポントしか増えておらず過半数は「現状維持・増やす」のままです。
悲観することなく「原発が悪いのでなく国家の関与の仕方と東電が悪かった」という理性的な理解を広めることが重要でないかと思います。
不詳ですが、MITで原子力博士号取得(約40年前)の大前研一氏に時給500万を国が支払って福島の原発問題が解決するのなら、安いものだと思ったりもしてます。
PS 今回の地震対策の有意義な情報を流せる様に心がけてます。
http://togetter.com/id/dotcom07 http://twitter.com/dotcom07 http://www.facebook.com/dotcom07
> 予備電源を原子炉建屋に入れておけば防げた
> 単純な設計ミスであり、
これは共産党吉井氏が国会で指摘しており、それを東電側がうやむやにしているので『設計ミス+α』と呼びたいですね。αには『腐敗した体質』みたい何かが入ると思いますが、良い言葉が思いつかない。
追伸
『使用済み燃料』は『原発五重の壁』に守られていないというのにも驚いた。
損傷は予備電源だけでないようです。 大前先生も、 これは誤りました。 次のスレッドのほうが正しかったようです。
***
東京電力は19日未明、 予備電源変電設備までの受電が完了したと発表した。
マジか?
これは期待させといて突き落とされるパターン!
電気は水に弱いとかいいつつ水ぶっかけまくりで動くわけ無いだろ
スイッチ オン ボーーーーン!
動かしてから発表してくれ! いつも可能性だけじゃねーか
ポンプが動きません、 だろ?
***
ECCSの全滅は想定外です。 また、 大前先生は電源を失わないために、 原子炉のひとつを停止していなければよかったといっておられましたが、 もし1-3号機のいずれかでこうしていれば、 大惨事になりました。
今回の原発事故でハッキリしたのは、建屋の屋上は比較的脆かったという事でしょうね。
この事故の反省は、「次に同じ地震と津波が起きても大丈夫なようにする」だけでは足りないように思います。
ミサイル攻撃で真上から破壊されたら・・・
簡単に原発を破壊できてしまう。
二次冷却系の短期で修理できない程に破壊したら、忽ち
原子炉内圧力上昇が起こり、爆発防止のために内圧を抜く
作業を行わなければならなくなる。
(その際に少なからず放射性物質が漏れる)
程度の差こそあれ、人為的にイレギュラーを起こす事が出来、今回のような事が引き起こされる可能性がある。
そう、テロ発生リスクを計算に入れると、とても高くつくのではないか?甚大な被害を防ぐ為のコストを掛けて、テロを防ぐ為のコストを掛けて、それでも事故は防げるとは言い切れない。
一度事故が発生したら甚大災害に発展する恐れがある。
今回の事故の所為で、よりテロに対するリスクが高まったと思います。タイトルどおり原子力の時代は終わったと思われます。
上記コメントで、
>原発事故直後にもかかわらず反原発派は14ポントしか増えてお>らず過半数は「現状維持・増やす」のままです。
は確かですが、大事なのは、地方の「受け入れ側」なんですよ。
今なら、上関あたりで調査すればわかる。都会の人が何を言ったって、原発は増やせませんし、しだいに廃炉にせざるおえない。再処理もできないし、廃棄物の週末処理は混迷を続けるでしょう。
そうなれば、早晩アウトです。
(1)「スマート・グリッドなどの新技術によって、徹底したエネルギー節約を行なう」
同意します。東芝・日立・三菱など原発メーカーも一方では太陽光発電+蓄電池(EV車など)とスマートメーターによる総合的な電力管理に参入しています。
(2)原発の穴を化石燃料などで埋めることは容易ではなく」
同意できません。LNG相場は下落しており、ロシアが売りたがっています。
例えば中部電力は新潟県上越市と名古屋市に最新技術を投入したLNG火力を建設中で、来年には一部稼動します。今年さえ乗り切れば、浜岡原発は全基廃炉しても電力供給力は十分になります。
他の原発依存率が高い管内はそれほど簡単には行かないでしょうが、中部電力が成功すれば後追いするに決まっています。利益追求のために。
(3)「コスト上昇は避けられない」
おっしゃるとおり原発の先払い燃料コストや意地費用などでコスト上昇は避けられませんが、これらは特損として代替エネルギー開発と切り離して考えるべきです。国策として株主にも説明しなければなりません。
(1)と(2)を組み合わせることで、近い将来全原発の廃止は可能と考えます。
そして残った国の原子力関連予算は、使用済核燃料=高濃度放射性廃棄物の処理研究に集中して投入すべきです。先生がツイッターでおっしゃたような日本海溝への投棄などという荒唐無稽かつ国際社会の同意を得られない方法は論外としても。