ごく普通に東京電力の賠償スキームを考える

2011年05月22日 06:44

被害者および国民全体のために素直に普通に考えるとどのようなスキームになるか。

① まず、賠償は仮払いを国が直接直ちに行う。


賠償の対象は審議会などの検討を経て決定する。風評被害などをどこまで賠償するかは審議会の検討を踏まえて、内閣が最終的に判断、決定し、賠償を行う。この範囲については、個別被害者から訴訟を受ける可能性があり、それは司法判断となる。また現在進行中であるから、賠償責任も範囲も本来は確定しないはずだ。だから、国が全責任を取るのはおかしいという議論がありうるが、同時に一義的に東京電力の責任と内閣が断定的に発言するのもおかしい。したがって、正式に決定は出来ない。

原賠法第三条の但し書きを適用してすべてが国の責任であると判断しない限りは最終的な責任主体は確定しない。ということは、逆に言うと、一義的に東京電力の責任という判断はいかなるロジックをもっても誤りである。個人的な意見として東京電力に責任を負わせろという投書が新聞に掲載されるのはありうるが、権威ある日刊紙が社説としてそう断定するのですら、社説の立場としては難しく、ましてや、政府が断定することはありえない。ここにも政府の完全な論理的誤りが存在する。これは、裁判で決まるもので、政府の意見はあるだろうが、司法判断を待つしかない。だから、現実には最終的な賠償責任主体を確定せずに走るしかない。

② しかし、この訴訟責任あるいは賠償支払い負担額が確定しないと、東京電力の資金調達は困難となる。事後的に賠償額が膨らむ恐れがあることから、通常なら、融資は行われないし、市場の投資家も出資できず、東京電力は資金難に陥り倒産する。一方、電力供給は維持する必要があるから、倒産するのであれば、プレパッケージドで倒産させないといけない。

この場合には、株主の財務的責任は果たされることになるが、これは極めて通常の倒産プロセスだ。債権者の財務的責任は、ここから、残余財産や将来の再生可能性から、再生手法とともに議論される。司法試験を通った弁護士でなくとも、それどころか法律を学校で勉強したことがなくても、高校生でも株主と債権者では債権者が優先され、株主が最初に損失をこうむることは知っている。普通に整理すればまず株主が責任を取ることになる。

このプロセスに異議があるとすれば、既存の株主で、将来の賠償責任およびその額が確定していないからその異議は妥当だ。一番の問題は、政府が、当初の賠償額の判断を行い、同時に、減資や増資も判断し、さらにその増資を引き受ける主体にもなるという点である。政府が同時に3つの立場のプレイヤーとなることが問題なのだ。政府の複数の役回りを区別するときに混乱が生じる可能性があるということだ。

普通の市場の論理で考えれば、増資の引き受けを政府以外にまず優先させて公募し、それが成立しなければ政府が増資を引き受けるということになる。しかし、今回は直感的にもそこで投資家が現れると思えないから、政府が直接増資を引き受けていいという判断が妥当だろう。しかし、ここはルールを守る、きちんとした公正な手続きを踏むことによって、利害関係者と国民をフェアに取り扱うことは重要であり、工夫が必要だ。

③どう工夫するか。詳細は別の機会に述べるが、一つの有力案は、東京電力を分割し、一つは、賠償を含めた事後処理の箱とし、旧東電で、もう一つ新しい箱を作り、稼動資産をすべてそちらに移すという案だ。これは多くの有識者が提案していた案だ。ポイントは、賠償は過去のものとして責任を取るが、これからの電力供給についてはこれを切り離すということだ。

分離方式にするにせよ、それ以外の方法をとるにせよ、on goingとなる「新東京電力」は政府が主導することになる。リストラや経営陣の報酬を制限したければ、そうすればよく、新しい人材を連れてくるのであれば、好きなように(今後の経営を最適にするように)設定すればよい。この点で、過去に報道された分離方式とは現在の株主のステイタスは逆となる。

この新東京電力の企業価値は将来のキャッシュフローだが、これは2つの要素で決まる。破綻から回復し将来収益を上げられるだけ十分に投資が行われるかということと、将来のビジネスモデル、とりわけ料金設定がどのような水準になるかということである。実は前述した政府の役割にはもう一つあり、料金設定を含め、ビジネスモデルを決定しているということであり、これが東京電力の処理案の妥当性の判断を最も難しくしている要因なのだ。つまり、これまでもこれからも(東電ではなく電力供給およびそれを請け負う産業全体の改革が行われない限り)電力会社の運命も収益も政策によりすべて決定される。したがって、東京電力の妥当な企業価値を算定することは、政策が決定されない以上、不可能であるのだ。

④ ここで、この政策について議論することは興味深いが意味はない。なぜなら、政府は将来の電力政策の意思決定が出来ないからだ。浜岡原発の停止をするのが、一世一代の意思決定で、それ以上は何もできないからだ。

政策により収益が内生的に決まるこのような場合、妥当な東京電力の価格はいくらになるだろうか。一つの割り切りは簿価ということになるだろう。そして賠償以外の今後必要となる、原発などの解体、処理費用を算出する。簿価からこの費用を差し引き、しかし、賠償費用は差し引かずに算定された結果を、旧東京電力の価値とする。これに賠償費用額の期待値を勘案して決める。そこから負債を差し引いたものが株主価値となる。

しかし、現在進行している汚染水の処理の費用だけでも莫大になるといわれており、そのほかの処理費用を含めれば、賠償費用を差し引かなくとも、すでに債務超過になると思われる。したがって、株主価値をゼロと判断することも妥当となる。この結果、既存の株主価値については賠償の議論を含めて算定しないことになり、前に進むことが出来ることになるだろう。

⑤ 本当の問題は、原子力および電力供給全体の問題で、この事故の財政的負担を他の電力会社が負うのは問題外としても、今後の原子力の位置づけや法制、将来の事故の賠償の問題、今後電力税を賦課するかなど、様々な要素がある。しかし、真の問題を議論する前に、目の前の問題を処理しないことには前に進まない。また金融業界としても、あまりに期待値が下がってしまったので、普通に処理が行われることで、現在よりはかなりポジティブに捉えるのではないか。

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