東電憎しの風潮の中「日本の電気代は世界一高い」などという発言が、様々なところで聞かれたが、それは事実に反している。確かに日本の電気代は安くはないが、欧州各国よりはおおむね安い水準になっている。
出所:OECD/IEA ENERGY PRICES & TAXES 3rd Quarter 2009
2010エネルギー白書
また、電気代の時系列を見ると、イタリアやドイツなど、脱原発に対する世論が以前から強かった国の電気代が近年急上昇していることが読み取れる。これは化石燃料価格の高騰が響いていると思われる。逆に電気代の安い国は、石炭か原子力、あるいはその両方の比率が高い。
出所:電気事業連合会
近年、注目を集めている天然ガスだが、原発を国民投票でゼロにして、天然ガスの比率が6割近いイタリアの電気代が最も高くなっていることから、それほど発電コストが安いのかどうかは、疑問の余地がある。ただ、天然ガスは石炭などに比べて、温室効果ガスの排出も約半分で、大気汚染物質も比較的少ない燃料であることから引き続き注目されよう。
フランスは原発で8割以上の電気を生産している。近年は、ドイツの脱原発運動などから、電気の輸出国としての存在感を高めている。FUKUSHIMAにより最も得をしたのは実はフランスなのかもしれない。敗者は今後、電気代が上がり、産業の流出などに苦しむドイツであろう。そのドイツが放射能をはじめとした汚染物質を最も放出する石炭火力に依存しているのは、何とも皮肉である。
アメリカと韓国の電気代の安さは特筆すべきだ。石炭はコストの面でおそらく最も安い燃料である。そのかわり大気汚染は最悪である。アメリカでは10万人程度が毎年大気汚染で亡くなり、その3割程度が石炭火力発電に起因しているといわれている。中国では、炭鉱労働者が毎年数千人単位で死亡し、石炭などの大気汚染で50万人程度が死亡するといわれている。中国の石炭は、21世紀の人類に突きつけられた、極めて重大な人道的問題であるといわざるをえない。
また、アメリカと韓国での原発の運営方針も興味深い。これらの電気代の極めて安い国においては原発の稼働率が9割を超えているのである。その点、日本の原発の稼働率は通常6割程度である。FUKUSHIMA以後は、日本の定期点検中の原発が再稼働できない状況が続いており、現在の稼働率は4割を切り過去最低を記録し続けている。このままでは来年の春には日本中の原発が全て停止してしまうことになる。耐用年数においても、アメリカは60年まで許可しており、非常にコストを重視していることがわかる。電気代を安くするには、原子力の比率を高め、その稼働率をなるべくあげることが重要であるようだ。もしくは環境問題を無視して、石炭火力を増やすことであろうか。
現在の日本は、定期点検中の原発が再稼働できないという、おそらく最も急進的な脱原発に向かっている。その代償は、電気代の上昇、熱中症や大気汚染などによる人命、そして、産業の空洞化による失業率の上昇とそれによる自殺者の増加などが考えられる。得られるものは「放射能」という悪霊と、文字通りに日本人の命をかけて今年の夏に戦った、という誇りみたいなものなのかもしれない。アメリカが911でテロとの戦争をはじめたように、日本は311で原発との戦争をはじめたのだ。
参考資料
エネルギー白書、経済産業省
Coal power in the People’s Republic of China, Wikipedia