放射線の被曝限度の見直しが必要だ

2011年09月10日 14:43

ビル・ゲイツの話について、ややテクニカルな問題を補足しておきます。「電力を自由化すると、コストの高い原発はだめなのではないか」という意見についても、彼は答を用意していました。


たしかにアメリカでは、スリーマイル島事故以来、原発は新規に1基も着工されていない。それは事故後にNRC(原子力規制委員会)の安全基準がきびしくなり、原発の建設費が3倍になったことが影響しています。もちろん必要な安全装置は強化しなければならないが、そのコストの大部分は何度も公聴会を開くなどの行政的な手続きで、このために原発の建設許可に10年近くかかるようになり、申請は30件以上出ているのですが、着工の許可が出ない。

公聴会を開くと、住民は反対します。この場合、「最悪の事故の起こる確率は非常に低い」と説得してもだめで、最悪の場合に何が起こるかが問題です。この点で、福島事故は先進国で起こりうる最悪の事故として重要です。高田純氏の調査によれば、原発の周囲でも年間20mSvを超える放射線は出ておらず、住民は帰宅しても問題ない。ところが今のようなパニックになるのは、ICRPが「年間1~20mSv」という曖昧な被曝限度を決めているので、「大事を取って1mSvを基準にすべきだ」という人が出てくるためです。

このICRP基準については批判が多く、瞬間線量については100mSv以下でも(わずかに)発癌率が増えますが、長期にわたって放射線を浴び続けた場合の年間線量が100mSvを超えると発癌率が高まるというデータは存在しません。年間260mSvを超えるイランのラムサールでも、発癌率の増加は観測されていない。この点はアリソンも指摘するところで、ラジウムを使う時計職人で累積10Svで癌が増えたというデータがあるだけです。

まず国が原発周辺の放射線調査を行い、その上で賠償や除染の基準を決めるべきです。その際、IAEAとも協議して、現在のICRP基準をどこまで準用するのかを日本政府として決める必要があります。100mSvを基準にすれば、安全対策や廃棄物処理のコストは数百分の一になり、納税者や電力利用者の負担は大幅に軽減されるでしょう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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