ますます足りなくなるスマートフォンの電波

石川 貴善

スマートフォンの普及が急激に進んでおり、3-4年後には携帯電話からの買換えが進み1/3から半分くらいになると言われています。その反面、携帯電話と異なり持っていると「小さなパソコン」となるため、インターネットの利用が急激に進む・携帯電話より解像度が大きい・定額料金のため、通信量が飛躍的に増大する傾向があるのは、多くのユーザーに共通しています。
先日、回線がパンクする恐れがあるという、次の新聞記事が出ていました。

携帯電話回線:スマートフォン普及でパンクする恐れ(毎日新聞2011年9月3日)
http://mainichi.jp/select/biz/news/20110904k0000m040034000c.html

持っているとどうしても使いますので、データ容量が増えるのはやむを得ません。また次世代のLTEが普及するまで、まだ相当の期間が予想されることから、遅かれ早かれ行き詰まることが目に見えています。そのため今後の方策として、ミクロ・マクロ・政策面などから以下の方策を考える段階に来ています。

1)基地局の容量を増やす
すでに繁華街では通信速度が低下していますが、基地局の容量を引き上げたり複数の基地局でデータ受信を平準化する取り組みが始まっていますが、今後増えていくことが予想されます。

KDDIが基地局の容量を最大2倍に、繁華街での通信速度低下などを回避へ
http://gigazine.net/news/20110909_kddi_trafiic_offload/

2)Wi-Fiスポットを増やす
Wi-Fiは出力が弱いですが、通信速度が高く電力消費も少ないですので、今後は駅構内・繁華街・地下鉄などで増やしていくことが求められています。

3)帯域制限をする
すでに行われていますが、2%のヘビーユーザーが4割のデータ通信を使う状況を鑑みれば、やむを得ないものでもあります。各通信キャリアによって取り組みは異なり、

ドコモ:当日を含む直近3日間のパケット数が300万パケット以上で、通信速度を制御
au:当日を除く直近3日間のパケット数が300万パケット以上で、通信速度を制御
ソフトバンク: VOIP・動画閲覧など、通信速度を制御する場合も。また比較的新規に加入したユーザーには、別途速度制限をしている。

http://mb.softbank.jp/mb/information/details/101112.html
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2011/0815/index.html

といった状況になっていますが、現在に限らず今後も「電波は公共のもの」である限り規制は必要でしょう。

4)料金設定を変更する
スマートフォンの普及率が高いアメリカでは、7月にベライゾンで定額制を廃止し従量制に切り替えています。アメリカでは理解できますが、他国より通信料金の高い日本では、料金による反映は論議を呼びそうです。

5)上限制を設ける
1ギガ・2ギガまでと、使用するパケット通信量の上限で段階的な料金を定め、上限では通話のみ使えてデータ通信が切れるようにすることも一策です。

6)通信データを喰うゲーム・動画配信など制限する
すでにスマートフォンのアプリはデータが巨大化しています。通信データを大量に使用するゲームや動画配信など、アプリごとによる制限が必要な段階に来ているといえるでしょう。

ただここまでの対策はあくまで一時的なもので、スマートフォンの国内における普及率は未だに10%に満たない状況です。各通信キャリアとも3-5年後には半分を想定していますので、政策的な観点からの見直しが欠かせません。すでに論議の多かったテレビ放送のアナログ停波・地上デジタル移行の本来の目的は電波の有効利用にありますが、そうした原点に立ち戻ることが必要です。

そうした観点で出てきますのは

7)実用化に時間がかかる、もしくは効果に疑義のあるものは帯域を移す
自動車の渋滞情報や交通規制などを表示するITSは、すでに実験に長い期間を要しています。またアナログ放送の空いた帯域の一部でサービス展開を予定している携帯マルチメディア放送の「モバキャス」は、2012年4月に開始されて5年で5千万台の普及を目指していますが、実用化の状況や内容・加入者に応じて帯域の割当てを見直すなど措置が必要でしょう。

8)空いた周波数を整理し、まとまった帯域を携帯電話用にする
マラソンや駅伝中継に使われる放送用のFPUや、音楽ホールのマイクに使われている周波数を、別に引っ越してもらい、まとまった帯域を携帯端末用にする案は前から言われていますが、既得権とインターネットへの警戒感もあり進んでいません。ある意味では”立退き料”を払っても移ってもらう段階が近づいています。

9)通信側にシフトする電波行政
電波行政は、監督官庁の総務省が特にテレビに遠慮する傾向が強いことから、こうした対策が遅れがちでした。いずれにせよ情報のやり取りにおいて、放送の役割が低下している傾向には変わりありませんので、電波の公共性が言われていますが、周波数帯もある程度は通信側に割り振る段階に来ていると言えるでしょう。

日本の国民性として、自分に関わりのないうちは無関心ですが、いざ身辺に降りかかってきますと既得権や社会に対し感情的に激しく声を上げる傾向は共通しています。
既に日常生活に欠かせなくなっているスマートフォンで、つながらない・通信速度が遅い・料金が高いなどの不満やフラストレーションは、電波行政のあり方がもっと多くの国民に見えるようになってきますと、案外社会を変えていく身近な引き金になるかも知れません。