FRBの致命的欠陥

小幡 績

量的緩和を採用したにもかかわらず、雇用創出機能を持っていないことだ。


今年のジャクソンホールでのバーナンキの講演はmiserableだった。

自分では何も出来ないから、政治、財政政策に八つ当たり。お前らの責任だと。金融政策に出来ることはほとんどないと。

そりゃそうなんだけどね。

でもmaximum employmentをやるのが目的だからね。これまでやってきて、急に、雇用は僕には無理って言ってもね。

そのくせ、量的緩和はばんばんやったし、第三弾、とは呼ばれていないけど、operation twistは要は、量を増やさない量的緩和だよね。

それは量的緩和とは言わないのでは?

まあそうだね。

じゃあ正確に言おう。量的緩和という名のオリジナルの日銀の政策とは似ても似つかない、単なる資産市場救済策。それが米国の量的緩和。

別に必ず悪いわけではないんだよ。資産市場を救うのは。大事なときもある。資産市場が崩壊して、それが消費に波及して、実体経済も社会が崩壊するようなときには、守る必要がある。

しかし、911の後、エンロンの後の超低金利政策とはなんだったのか?グリーンスパンは、あんなに分かりにくかったのに、魔術師と大絶賛されたのか。

バーナンキの量的緩和第一弾、QE1はいいとして、なぜって、あの時は世界経済崩壊の危機だから、四の五の言わずやるしかないっしょ。でもあの時はまだQE1なんて言われてなかった。QE2が出てきて、ああ、そういえば、あれは量的緩和だったね、2があるからその前は1だねって。

罠だ。

QE2をマーケットがせがむために、いやいやQEなんて、もうすでにやっているから、ほらQE1.パリバショックでもリーマンでもやったでしょ。リスクから言ったらQE2のほうが国債などだからリスク低くて、FRBの健全性ということから言っても問題ないよ、という誘惑だった。

なぜ市場が量的緩和を求めたかというと、それは資産市場で新たな買い手が登場した、それだけのことだったのだ。パリバ、リーマンのときは、誰も買わなくなったものを最後の買い手としてFRBにお買い上げいただいた。これは市場崩壊リスクがあるから仕方がない。

しかし、QE2は必要だったのか?何のために米国国債、先進国中が不況で買いたい人がいっぱいいた米国国債をFRBが買う必要があったのか?

なかった。それは、ただ、資産市場に資するためだった。

グリーンスパンもバーナンキも、このとき、実体経済、雇用を言い訳として持ち出した。バーナンキは心の底からそう思ったのかもしれないし、ただ、勇敢な姿を市場に見せてほめられたかっただけだったかもしれない。

いずれにせよ、国債を買ったところで、雇用が増えるわけがなかった。住宅市場をてこ入れしても、値下がりが緩やかになるだけで、需要が増えるわけではなかった。

いや需要は増えただろう。中古住宅の。でも中古があまっているから、新築までまわるはずがなかった。2つも3つも買ってしまった別荘なんて、誰も買わない。新興住宅地も、値下がりした物件が山ほどあるから、新築なんていらない。

だから雇用にはそれほどつながらない。

だから、QE2は資産市場にバブルを作っただけだった。それは新興国の株式市場に波及し、彼らはいい迷惑だと怒った。

それは本当だった。なぜなら、新興国は実体経済も金融市場もチャンスがうなっていたから、需要は財市場、実物投資、金融投資ともに盛んだった。それへさらに金融投資が流れ込み、バブルとなったから、金融当局は国内金融を引き締めざるを得なかった。つまり、金利を上げた。

しかし、それは実物投資も冷やした。その逆が望ましかったにもかかわらずだ。つまり、実体経済は投資が旺盛で、金融市場は落ち着いている状況。ここのブームはリアルだったから、リアルセクターが重要だった。米国などのリアルは終わりで金融市場だけのバブルの世界とは違うのだ。

だから彼らは怒った。

しかし、社会的には、より迷惑なことに、金融投資は、穀物などの食料、エネルギーなどの資源という生産必需品に及んだ。果ては農地もバブルとなった。

これは新興国、あるいは新興国のおこぼれを預かっていた後進国にはひとたまりもなかった。とりわけ貧困層とちょっとその上には生活を直撃した。

その結果がジャスミン革命と呼ばれる中東の暴動である。あれは食うに困った若者が騒いだのだ。民主主義やfacebookはあくまで手段だ。目的はパンと暖房。

とくにアフリカではパン、食料の問題の重要性、政治生命、政権維持のために重要であることがわかっていたから、政府が買い占めて、出し惜しみした。

飢餓が襲った。

グリーンスパンが市場に受けるために、実体経済を言い訳にして、テロを言い訳にして、資産バブル、住宅バブルを作った。バーナンキは雇用を言い訳にして、国債を買った。リーマン後の世界金融バブルカンバックというニーズにこたえた。そして世界は困った。財政破綻は先送りされたために、傷は深くなった。

しかし、傍から見れば、最初から米国の金融政策は資産市場のことしか考えていなかった。投機家、金融市場にこびているだけだった。

もちろんグリーンスパンにも言い訳はある。

雇用だ。

米国では資産市場が盛り上がって初めて消費が盛り返す。住宅市場が一番大きな耐久消費財市場だ。

それはそうだ。

しかし、資産市場の盛り上がりは雇用にはつながらない。

高所得者の所得が回復するだけだ。

雇用は戻らない。

貧富の差は所得でも資産ベースでも拡大する。

住宅市場もそうだ。

多くの貧しい人々は住宅を持っていない。

やっと持てた人も破綻した。

もう二度と買う気はない。

別荘を手放した人、暴落したが売るほど困ってない人、彼らの住宅資産価値が回復しただけだ。

バーナンキは分かっているのかもしれない。

しかし、米国にはそれ以外、資産市場バブルによる資産効果と住宅しか、実体経済に取り付く手段はないのだ。

だから、やっとバーナンキは真実を告白した。

金融政策では雇用は作れない。

じゃあバブルも作るな。

物価を安定させて、貧困層の必需品を守れ。それは食料、燃料、家賃だ。

しかし、そうも言ってられない。米国経済は、資産市場が中心の経済になってしまったのだ。もう逃げられない。だから、資産市場を盛り上げ続けなればいけない。

だとすると必要なのは、雇用をあきらめることではない。雇用を作る手段を生み出すことだ。量的緩和という名の資産市場介入手段を導入したように。

日銀は苦し紛れながら、成長基盤融資など、世界的には邪道といわれながら、実体経済の発展のためにやっている。「国民経済の健全な発展に資する」という理念に基づいて。

FRBも見習ったらどうだ。

確かに、それはバーナンキのせいではない。

銀行融資で実物投資をする割合が低すぎる。

資産市場は証券市場、金融投資ばかりで、金利の低下は長期金利であったも、実物ではなく、金融商品へ向かう。実物の穀物も原油も金融商品化してしまった。

だから米国はどうしようもないのだ。

彼らには雇用は作れない。

バブルで富裕層が浪費するチップぐらいしかないのだ。

そこから立ち直るしかない。

若年失業率は20%だ。

人口の増えている、活力がある、アメリカでだ。

金融政策の大転換期にやってきている。

21世紀のケインズが必要だ。