FRBの目的 3つのゴールこそ妥当

小幡 績

岩瀬大輔さんや小黒一正さんの助けを借り、池田信夫氏のご指導も頂いた。

どうもありがとうございます。

しかし、限られた調査では、1913年の最初のFederal Reserve Actにおける、目的の条文がはっきりしない。ご存知の方がいたら是非教えてほしい。


1977年のFederal Reserve Reform Act of 1977で 

Amends the Federal Reserve Act to require the Board of Governors of the Federal Reserve System and the Federal Open Market Committee to maintain the long-run growth of the monetary and credit aggregates commensurate with the economy’s production potential.

ということらしい。

新しい(現在の)条文は、前述したように

Section 2A. Monetary Policy Objectives
The Board of Governors of the Federal Reserve System and the Federal Open Market Committee shall maintain long run growth of the monetary and credit aggregates commensurate with the economy’s long run potential to increase production, so as to promote effectively the goals of maximum employment, stable prices, and moderate long-term interest rates.

この条文そのものが1977年にできたようだが(1913年のactに、objectiveについて全く記述がなかったかどうか調査不十分です)、一般には、ここで雇用が入った、というのがこの修正のポイントと思われているようだ。

しかし、原文はそうは書いていない。

少し、この原文を生真面目に解釈してみたい。

なぜこの条文を生真面目に解釈しようとしているかというと、ここに現代金融政策と金融市場の盲点があるのではないか、と思っているからだ。

たまたまだが、私の金融政策に関する一番の問題意識と、この条文の文言と、現在の政策市場における行動のずれが綺麗に同期していることに驚いたのだ。

当時の立法意図は現状では調べ切れていないが、当初の意図はどうでもいい。この条文が言っているのは、Dual goalではなく、threefoldだ。Dualには二重というよりは、双対という意味もあり、経済学用語であるから、こちらに引っ掛けているのかもしれないが、いずれにせよ、原文の雇用、物価、金利を、後者2つは一緒で、物価および金利だけの世界に、1977年以降、雇用も入れるようになった、という解釈は安直に過ぎる。

物価と金利は同じはずがない。

この3つとは、実はケインズ体系と同じだ。一般理論は残念ながら未完成で終わっているが、本質的には、労働市場、財市場、資産市場があり、その三つが同時に均衡するとは限らない、ということだ。失業が強調されているが、財市場と資産市場の間の相互作用にケインズの本来の真骨頂はあり(貨幣論から来ている投機家ケインズとしては当然だが)、一般理論のタイトルも、利子と貨幣、と二度も出てきて、有効需要はタイトルにはなっていないのだ。

さて、Federal Reserve Actに戻ると、

the goals of maximum employment, stable prices, and moderate long-term interest rates

ということだから、これらはそれぞれ、労働市場、財市場、資産市場、ということになる。そのままだ。

FRBはこの3つの市場の健全化を目指すのが目的なのだ。

物価は資産価格を含むと考えることも出来なくはないが、実際にも消費者物価(コアコアにしていることの是非は別に議論したし、池尾氏のエントリーもある)だから、財市場でよく、金利は、資産市場に対応している。

金利とは、現在と将来をつなぐものであり、同時に財市場と資産市場をつなぐものである。したがって、極めて重要であり、ここで3つの目標があるのに、物価をコントロールするための手段としての金利として、物価に従属させるのはおかしい。

このようにFRBのターゲットは3つと考えると、量的緩和というのは極めてcontroversialな政策である。なぜなら、金利の低下が労働市場での需要増加につながるルートが不明の中であり、物価安定にはマイナスとすると、単なる資産市場における需要増加を直接行うものにほかならないからだ。

ここで問題なのは、量をターゲットにしていいのか、ということだ。

資産市場をターゲットとすること自体は、FRBの目的上は実は問題がないのだが(私自身は資産市場の目的が強すぎるのが今のFRBの欠点と思っているが)、資産市場といっても、本来は、moderate long-term interest ratesだから、やはり金利でなく量で勝負するのはおかしい。

もちろん、手段が量であって、目的が長期金利だから、問題はないとも考えられる。この意味でも、物価は目的で金利はその手段という分け方はおかしいのであり、物価も長期金利も目的なのだ。

そう考えると、量的緩和で、第三弾の前にoperation twistを行って、長期金利を下げたのはいいような気がする。しかし、注意しなければいけないのはmoderateである。低ければいいというものではない。雇用はmaximumだから、こっちはlowと書いていない以上、高くしろということではないが、低めて安定している、という感じだ。

となると、今回の急激な低下は正しいのか。駄目だろう。

実際、株価が暴落したのは、operation twistで長期金利が低くなりすぎて、金融機関が鞘抜きで儲けられない、というロジックが1つの理由である。長期金利の変動は駄目だし、低すぎるのも駄目なのである。低すぎるとなぜ駄目なのか。

それはバブルになるからである。

ここをやや拡大解釈すると、moderate つまり、妥当で穏やかな、長期金利をゴールとするとは、インフレで名目金利が急騰しても駄目だし、名目あるいは実質金利を下げすぎて、バブルを起こしても駄目だ、ということになる。

これは現代経済において、極めて的確な目標ではなかろうか。

そして、3つの目的を儲けることは、かつてのようにdualityのなくなった現代経済においては、国内の労働市場、財市場、資産市場のそれぞれに別のアプローチをすることにより、バランスをとることが重要で、金利という手段一つしかないのだから、物価という目標一つに絞るべきだ、という昨今の米国メディア、共和党の議論は遅れた議論ではないのか。

金利ではなく、量的緩和という手段を生み出したのだから、新しいツールを生み出す、という話は不可能ではなく、目的が複数あるのは無理だ、と決め込むのはおかしい。

理論的にも、1つの手段で3つの目的があったとしても、1つの目的にとってベストの結果にならなくとも、3つそれぞれがそれなりにセカンドベストなところに落ち着けばいい、3つのうち1つでもおかしなことにはならない、ということを目指すのは妥当なはずだ。

したがって、今回の量的緩和およびdualの議論は、本質から外れた、また時代遅れの議論であると思う。